「ルネッサ〜ンス! どうも貴族です」と貴族の漫才でブレイクした芸人の山田ルイ53世さんと、男性の生きづらさなどを研究する「男性学」の第一人者・田中俊之さんがユーモアたっぷりに<中年男>について語り合った『中年男ルネッサンス』(イースト・プレス)。
今回は特別に、女性との関係を描いた第3章「やっぱりオンナって難しい——女性とエロ論」から一部を抜粋して紹介します。
パワーの行使とハラスメントは紙一重
山田ルイ53世さん(以下、山田):テレビやラジオの世界では、“メインパーソナリティーが中年男性で、アシスタントが若い女子アナ”という組み合わせってド定番じゃないですか。そこでは、男性パーソナリティーが女性アシスタントを手厳しく詰める、みたいなノリが伝統芸のようにセオリーとして存在するんですよ。正直、僕も自分のラジオ番組で、セクハラ・パワハラと言われかねないようなやりとりを、数限りなくやってしまっています。
田中俊之さん(以下、田中):このままでいいのかな、というためらいを感じていらっしゃるんですか?
山田:いや、これまでは無反省にセオリー通りやってしまっていました。ただ、言い訳するわけじゃないんですけど、現場感覚としてそうなってしまう理由はわかるんですよ。アシスタントにつくのはたいてい局の新人や若い子なので、どうしてもトークの引き出しや進行のスキルを持ってないことも正直ある。そうすると、こちらがある程度むちゃぶりをして波風を立てるようなことを言わないと、リアクションが返ってこなくて、結局その子がいなくてもいいじゃんってことになる。
田中:ああ、なるほど。
山田:この前聞いた話で、とある男性芸人さんのラジオ番組に、新しいグラビアアイドルの子がアシスタントに入ってきたそうなんです。ところが、その子が自分の得意分野以外は、世間の話題を何にも知らない子で。話題を振っても「知らない」「わからない」としか答えられなくて、彼女のイメージも悪くなってしまうので、その芸人さんは仕方なく話を振るのをやめて自分でしゃべり続けるしかなかったと言うんですね。だからもう、これは構造の問題であって、“おじさんパーソナリティーと若い女性アシスタント”という組み合わせばっかりなのを、やめるしかないですよね。
田中:小島慶子さんは、自分がある程度の地位になったときに若い男性アシスタントがつくようになって、結局これは性別の問題ではなくポジションの問題だということに気づいた、とおっしゃっていました。つまり、これまで女子アナやグラビアアイドルがしてきたような振る舞いを、今度は自分がされる側になった。「小島さん、さすがっスね」みたいな扱いをされると、なるほど、これで浮き足立っちゃう人がいるのも、気持ちとしてはわかる、と。
山田:男女が逆転しても、ありうるんですね。
田中:それにしても、今の男爵の話は、非常に重要な指摘だと思います。パワー(能力)の差がある関係には、どうしてもパワー(権力)の差も生まれてしまう。そうした状況で、おじさんパーソナリティーが番組を成立させようと思ったら、番組全体の利益のためにはパワー(能力/権力)を使うしかない。ところが、その使いどころを間違えると、若い女性アシスタントに対するセクハラやパワハラになってしまうわけです。
山田:これは僕のささやかな方法論なんですけど、アシスタントに新人の子がきたとき、最初はややこしい理屈をこねるようなトークで困っていただく。もちろん、笑いとして成立するようにですよ? しばらくしたら、それまで相手が言ってきたことを全部論破していたのを、10個中2個くらい通してあげるんです。すると、グッと自信がついて、のびのびとやってくれる。今、めっちゃ恥ずかしいです(笑)。でも、これも傍から見たら、下手するとパワハラと言われてしまいますよね。
田中:上に立つ側は、ある意味パワー(能力/権力)を使うことが仕事であって、決して“パワー=悪”ではないんですよね。たとえば、職場で部下が乗り気ではなくても、会社全体の利益のためには、上司は多少強引でも部下を巻き込んで、物事を押し進めることが求められる。実際にはパワハラと紙一重ですが、それがリーダーシップと呼ばれるわけです。
山田:なるほど。
田中:大学の講義でも、教師が90分間一方的にしゃべっているのを、学生を座らせて黙って聞かせている状況って、実はとんでもない権力関係なんですよ。
山田:まあ、確かに(笑)。
田中:その代わり、僕は自分が持っている知識をわかりやすく彼らに提供する責任があるし、彼らはそれを自分の糧にできるという利益がある。だから、権力を振るうことが正当化されているんです。大事なのは、上に立つ側がパワー(能力/権力)を誰のために使うかということ、そして、その責任をきちんと引き受けることだと思います。
山田ルイ53世×田中俊之×小島慶子トーク&サイン会
『中年男ルネッサンス』の刊行記念イベントが1月29日、八重洲ブックセンター本店(東京都中央区)にて開催されます。ゲストは小島慶子さん。山田ルイ53世さん、田中俊之さんと「中年男のゆくえ」を語ります。
八重洲ブックセンター本店(東京都中央区八重洲2-5-1)
2019年1月29日 (火) 19時30分~20時30分(開場:19時00分)
申し込み方法はこちらをチェック
- 恋愛も仕事も、しんどい時ほど「冷水を浴びせてくれる」存在が大事な理由
- 「真面目」ってつまらない? コツコツ型の働き女子に伝えたいこと
- 論破はコミュニケーションではありません 上司にしたくない「おじさん」のタイプって?
- 男は40歳で“別れ話”に目覚める 痛々しくも目が離せない「おじさん」とは?
- 一度は親の期待に応えたけれど…女33歳、やっぱり夢は諦められない
- 「自分にないもの」を数えるのはやめた 女33歳、正攻法じゃない夢の叶え方
情報元リンク: ウートピ
パワーの行使とハラスメントが紙一重になりがちな理由【中年男ルネッサンス】