コラムニストのジェーン・スーさんが会いたい人と会って対談する企画。今回のゲストは、5月12日に最新作『くれなずめ』が公開された松居大悟(まつい・だいご)監督です。全3回。
“東京タワーが見えるタワマン”に引っ越したワケ
ジェーン・スーさん(以下、スー):ところで生活に変化はありましたか?
松居大悟さん(以下、松居):どうでしょう。車に乗り出したとかそんなレベルですね。
スー:住まいは?
松居:結構引っ越しはしてます。でも築年数があって畳があるところに住もうとしてます。タワマンとかはちょっと。
スー:そろそろ住んでみては、タワマンに。
松居:住めないですね。怖いんですよ。行っちゃうと、もう下げられなくなりそう。床暖あったり、宅配ボックスあったり、めっちゃ便利そう。
スー:便利に殺される!
松居:あとはワインを飲み始めてしまいそうな怖さがあります。
スー:でもさー、ワイン飲み始めたくらいで鈍るような感性だったらそもそも……っていうのもあるじゃないですか。私はいつも、自分にそれ問いかけてます。「こういう庶民的なことで私は十分満足なんだよね」っていう自尊心って、実はすごい下品だと思ってる。庶民的と言われるものが好き、ってのとは別のノイズが入ってる気がして。
私は、年を重ねたこととか、女性として稼ぎが良くなったことを後ろめたく思わせるような世の中は絶対嫌なんです。なぜなら、私が男だったらそんな思いしないから。だからこそ、いい生活ができるならしてみようと思って。
今住んでる部屋からは東京タワーが見えるんですよ(笑)。シャバいタワマン。去年いろいろあったから、エイっと。同時に、揺らぎもあります。もともとあった感受性のシナプスが鈍化するんじゃないかという恐怖。一方で、そんなことくらいで書くこと喋ることの強度が変わったりするほど私は脆弱(ぜいじゃく)なのか、そもそもその自負こそが過信じゃないかとか、ぐるぐるしてます。
松居:僕はいい部屋に住みたいけど、普通に知らないっていうのもあるんですよね。
スー:一回アドベンチャーランドに行ってみるのはいいですよ。学びがある。
松居:知るってことですね。知ってから必要ないなら必要ないと。
スー:それそれ。そうしないと「どうせ金持ちはタワマンに……」の亡霊につぶされますからね。住んでみて初めて、マジこれほんと住みにくいってなるかもしれないし。
松居:スーさんのタワマンはどうですか?
スー:久しぶりにシングルに戻ったので、こうなったら緩やかな自傷行為みたいな部屋に住んでやろうと。目の前にドーンと東京タワーですけど、全部屋が賃貸だからかゴミ置場の倫理観が欠けてたりして面白いです。都会の野営地みたいなマンション。前に住んでたところは分譲の人がほとんどだったからなのか、ゴミ置き場もとってもきれいだった。
松居:よく見つけましたね!
スー:私、天才だと思う。もうちょっと先に行けば2割3割高くて、ちゃんとエントランスにドアマンがいるような物件もあるのに。でも今の私にはここがちょうどいいかな。住人は誰一人知らないけど、すれ違う人たちとの殺伐とした連帯感がある。環境的に便利で暮らしやすいし。一生住む感じのマンションではないけど、ソファに座りながら見る東京タワーはくだらなくて最高です。タワマンとか、高い買い物とか、高い食事とか、形骸化されたそういうワードみたいなものを全部試してみること、私には意味があります。あっちのブドウは酸っぱいに違いないみたいなこと、食べてもいないのに言うのは格好悪いから。
松居:僕も10年くらい前かな、一回渋谷に住んだんですよ。多分20代じゃないと住まない気がしたので。でも3カ月くらいで引っ越しましたね。
スー:合わなかった?
松居:どこに行くにもスクランブル交差点を通過して渋谷駅に行くわけですけど、朝まで飲んでる人たちを横目に現場に出かけて、夜疲れて帰ってきたら酔っ払った若者がウェイウェイしてて……みたいなことがだんだん耐えられなくなりました。
スー:一度は試してみるのって大切ですよね。
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