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ハゲた私の頭を撫でて「かわいいね」と言った夫。がんになって考えた夫婦の意味

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ステージ4の末期がんから奇跡的に回復したけれど、東京のど真ん中で子育てと仕事の両立に奔走される日常を過ごす、私。海野優子、35歳、OL。2歳の娘はかわいい盛り。でも、時々モンスター! 仕事は楽しいけど、目標と成果の間で悩むことも。

娘と。

娘と私。

せっかく生き延びて「わざわざ生きてる」のに、私このままでいいの? これまではどうだったんだっけ——と思う日々についてつづっていくこの連載。第2回のテーマは、夫です。前回のプロローグで、私に「希望」という名のToDoリストを作ってくれた夫。実は彼、経営する会社の社員からも「サイコパス」なんて呼ばれているんです。

サイコパス、いいじゃないか

私は、2018年に「原発不明の硬膜外悪性腫瘍」と診断されました。(冗談を抜きにして、今頃お墓の中に入っていてもおかしくない!)

そんな私が今こうしての命をつなぎとめているのは、紛れもなく「サイコパス夫」のおかげです。人に対して「サイコパス」というのは、ネガティブなワードであることは存じております。はい。

夫が周りからそう言われているのは私も知っていて、共通の知人や彼の会社の人から「気持ちを全然わかってくれないんです。普通、考えたらこうなのに……」という悩みを聞くこともしばしば。「そうあってほしい」「そうだったらいいな」という希望的観測が嫌いな夫は、非情な人に見られてしまうことも多い。でも私からすれば彼は、素晴らしくシンプルで、明快で、爽快な人。こんな人、他に知りません。

そして今回の闘病において、彼のその性格・言動に、私自身が救われた部分が大いにあったのでは?と思い返しています。サイコパス、いいじゃないか……ってしみじみ思うんですよね。

毎日往復2時間かけて会いにきてくれた夫

「打つ手なし」の状態から、夫は治療法とその治療を受けられる病院を見つけてくれました。それにより、私は自宅から1時間かかる病院に入院することに。夫は、仕事が終わるとほぼ毎日1時間、往復2時間かけて病院に会いに来てくれました。ときには病院の近くにホテルをとって、次の日の朝、仕事前に顔を見せてくれたりも。

優しい。優しいのだけれども、ここで1つ目のサイコパス力を発揮します。彼は私が末期がんで命が短いことを当たり前のように理解し、冷静に受け止めていました。涙すら流さずに、私の前ではいつも笑っていました。

がんになって強く実感したことの1つなのですが、がんになって一番つらいのは「自分がいなくなることで悲しむ存在を想像してしまうこと」なんです。だって死んでしまったら何もかもなくなるんだから。自分のことなんてどうでもよくって、何がツラいかってやっぱり愛する人が悲しむことなんですよね。

だから、彼がいつも笑っていてくれたこと(陰で泣いていたみたいなことは、彼の性格上ないと思う)がものすごい救いでした。サイコパス、バンザイ!

「優子は、どうしたい?」

夫は、人生における優先度がはっきりしています。闘病中、彼は何度も私に言いました。「優子の命が一番大事だから」と。彼にとって最も大事なもの、それが私という存在。そしてそのほんのちょっと下くらいに自分の会社(社員のひと、ごめんなさい!)、その下に娘を含むその他の家族、という構成になっています。

この構成は絶対的で、彼の言動はすべてこのもとに成り立っているので、1時間かけて私に好物のスイカを届けることをちっとも苦だと思わなかったそうです。

抗がん剤がまったく効かず、八方塞がりのとき、彼は私に聞きました。

「優子は、どうしたい?」

私は一言、「生きたい」と答えました。

それを聞いた彼は、次の日からとてつもなく大きな課題解決(=私を生かす)のために全力を尽くすことになります。まるで、新しいプロジェクトを進めるかの如く——。

ひたすら論文を読む夫

私の「生きたい」という一言を聞いた彼は、ものすごい勢いで情報収集に当たりました。社長業の合間にどうやっていたのかまったく想像もつかないのですが、何本もの論文を読み、何人ものお医者様に会いに行って話を伺ったそうです。

私たち日本人って、なんとなく「先生」という存在に過度に信頼を寄せているところがあって、ましてや現代の科学でも完治の難しい癌という病気のことですから、ハナから理解することを諦めて先生の言うことを聞くしかないと思いがちです(まさに私もそのひとり)。

でも、彼はそういった“他人に対する過度な期待”を持たず、わからないことは空気を読まずにわかるまで徹底的に相手に質問し、言語化させる人。忖度など一切なし、あらゆる医者からどんどん情報を引き出していきました。

相手に過度な期待をしないあっさりした性格、わからないことをそのままにせず相手とのコミュニケーションを諦めないストイックな性格。この、客観的に見たらサイコパス的な彼の2つの性格のおかげで、私は自分の病気に最も効果を期待できる治療法を見つけることができたのでした。

相手に過度な期待をしないことは夫婦円満の鉄則?

ちなみに、夫のこの性格について「面倒じゃない?」と聞かれることもあります。でも、私にはしっくりきているんですよね。今では結婚してよかったなと思う理由でもあります。

私は27歳のときに結婚して、30歳で離婚しているのですが、過去の結婚生活の反省点を振り返ると「相手に過度な期待をしないこと」は、案外夫婦円満の鉄則なのかもって思います。

一見冷たいように感じますが、女の荷を軽くしてくれるという意味で、結構重要なポイントかもしれないなぁと。だって男性に”理想の奥さん像”みたいなものを押し付けられるのとか、まっぴらごめんじゃないですか?(ウートピを読んでる人ならきっと共感してくれるはず)

そして「わからないことをそのままにしないコミュニケーション」も、夫婦には意外と大切な要素かもしれません。ちょっと面倒くさいなって思うことも正直あるけれど、お互いに自分の気持ちを言語化して相手に伝えることができれば、すれ違いはなくなりますし、毎日少しずつ相手のことを知ることにつながります。毎日が夫婦のアップデート。そんな感覚です。

がんになってツラかったことランキング

よくテレビで芸能人カップルが「理想の夫婦」「おしどり夫婦」なんて言われているけれど、あれっていったい何なんでしょうね。私は病気を経験して、少なくとも「結婚とは?」「夫婦とは?」という漠然とした問いの答えにちょっとだけ近づけたような気がしています。

その理由を説明するのにちょうどいい、彼との忘れられない闘病中の思い出があります。

「がんになってツラかったことランキング」の上位に君臨するのが、抗がん剤で髪が抜け落ちたことでした。これはもう本当に、理由なく落ち込みました。自分にとってこんなに髪の毛が大事なものだったなんて、ハゲになるまでまったく気が付きませんでした。

すっかり「一休さんスタイル」な自分を、夫に見られたくなくって、彼が見舞いに来てくれるときは必ず帽子をかぶるようにしていました。でも唯一、入浴時は、すっぽんぽんの状態でお姫様抱っこで浴槽に運んでもらっていたので、帽子を取らないわけにはいかない状況でした。

そんな私の心配をよそに、彼はまったく気にすることなく、むしろハゲた私を見られてラッキーくらいの勢いで「YUKONIC、かわいいね〜!写真撮っとく〜?」と頭を撫で笑い飛ばしてくれたのです。平成生まれのみなさんのために補足すると、ICONIQ(アイコニック)という坊主頭の女性歌手がいたんです。現在は伊藤ゆみの名前で活動していらっしゃいます。

まさか、ハゲた私を愛してくれる人が世の中に存在するなんて。その瞬間、涙がでるほど嬉しかったし、この人と結婚して本当に良かったなと思いました。

夫と。

いつも支えてくれる夫と。

夫婦は紙切れ1枚でつながってるワケじゃない

彼が愛してくれたのは、ハゲた私だけではありません。膝と股関節が曲がったまま固まり、歩けなくなった私。腫瘍の影響で脇腹が膨らみ、くびれがなくなった私。長い入院生活の影響で床ずれになってしまい、尾てい骨あたりにぽっかり穴が空いてしまった私——。床ずれに関しては、完治するまでのほぼ1年間、毎日私のお尻にできたその穴を石鹸で丁寧に洗い、薬を塗ってくれました。

自分の美しくない姿を好きな人に見られたくないというのは普通の感情だと思います。でも、どんな自分をも受け入れてくれる彼のおかげで、私は絶対的に破られることのない安心感に包まれ、何でもさらけ出せるようになりました。

そうなんだ、夫婦って紙切れ1枚でつながっているワケじゃないんだって、病気になって初めて実感することができました。世の中はこのことを“絆”なんて綺麗な言葉で呼んでいるのかな。わからないけど、私にとって彼は、一緒にいることで自分が今までより生きやすくなる、そんな存在なのだと、今は思います。

次回は、闘病中の子育てについてつづりたいと思います。

(海野 優子)

情報元リンク: ウートピ
ハゲた私の頭を撫でて「かわいいね」と言った夫。がんになって考えた夫婦の意味

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