2020年4月に『メンタル・クエスト 心のHPが0になりそうな自分をラクにする本』(大和出版/以下、メンタル・クエスト)を上梓した、心療内科医で秋葉原save クリニック(東京都千代田区)院長・鈴木裕介さん。SNSではDr. ゆうすけとしても積極的に情報発信を行なっています。
インタビュー前編(第1、2回)では、鈴木先生に「なかなか自分の弱さを認められない」「人に頼るのが苦手」という悩みをぶつけました。
後編では、コロナ禍の影響で増えたというコミュニケーションの悩みとその解決法を、心療内科医の視点からお話いただきます。
コロナで生活が変わって、ココロにも変化が
——コロナの影響で仕事や生活環境が大きく変わりました。大きな変化に戸惑う人も多いのでは?
鈴木裕介さん(以下、鈴木):そうですね。僕が相談を受ける中で「(精神的に)苦しくなった」という人だけじゃなくて「ラクになった」という人もいて、二極化している印象があります。
——その違いはどこからきていると思いますか?
鈴木:苦しくなった人は、もともと親密なコミュニケーションを重視していた人。仕事仲間や友人と話すのが好きな人ですね。一方、ラクになったというのは、一つひとつのコミュニケーションで気を使いすぎてエネルギーを使ってしまうタイプの人ですね。後者は人と会う機会が減って「ラク!最高!」と感じている人が多いです。
そもそも「周囲の人たちとどの程度つながりたいか」「どのくらい親密でいたいか」というのは、人によって全然違うんですよね。『メンタル・クエスト』のなかでは、この違いについて「愛着スタイル」という概念を使って説明しています。
——詳しく教えてください。
鈴木:精神科医のジョン・ボウルビィ氏が提唱した概念なのですが、簡略化して説明すると、彼は人とのつながり方(愛着スタイル」には大きく3つのタイプに分かれると言っています。
(画像出典:https://note.com/usksuzuki/n/n3b4cc0f8bbe7)
鈴木:まず「安定型」。このタイプの人は、人と距離を詰めることに抵抗がなく、頼ったり頼られたりが自然にできる人たちです。
次に「不安型」。このタイプの人たちは、常に相手に見捨てられるのではという恐れを感じています。だから、相手の顔色を過度にうかがったり、相手に自分から離れてほしくなくて依存性の高い関係を望んだりします。
そして最後が「回避型」。このタイプは、そもそも人と親密になることをあまり好みません。人間関係に深くコミットする責任を煩わしいと感じる、一匹狼タイプと言えますね。これらの3タイプが、ざっくり2:1:1に分かれます。
あくまでも傾向ですが、今回、在宅勤務の推奨などでコミュニケーションが「ラクになった」と感じているのは、回避型の人が多いです。逆に不安型の人は相手と距離が離れたことで「見捨てられるのではないか」と不安が増幅してしまったりする。親密になることが自然と考える安定型の人にとっても、コミュニケーションと量と質が低下する自体はきついと感じる人が多い印象です。
もちろん一概には言えませんが、まずは自分がどのタイプかを知っておくと苦しさの原因が分かって、ラクになるかもしれません。
失われた「毛づくろい」のようなコミュニケーション
——私は、不安型かも。リモートワークに切り替わったことで「あいついなくていいじゃん」と思われていそうだなってよく妄想します。
鈴木:不安型の人からのそういった相談は結構多かったですね。おそらく不安が増幅したのは、会社の人との「毛づくろい」のようなコミュニケーションが失われたからだと思います。
——「毛づくろい」?
鈴木:仕事に関係ない、一見内容のないコミュニケーションです。そういう話ってお互いが「楽しいね」と了承しあって行われるわけですよね。そうすると、その関係性に安心を感じられて「ここにいてもいいんだ」と思える。
でも、在宅勤務で基本的にオンラインになって、「雑談」が減った。だから、目に見える仕事の成果がないと「ここにいちゃいけないんじゃないか」と感じやすくなってしまうんですよね。
——まさに……。どうしたらその不安から抜け出せるんでしょうか?
鈴木:まずは無意味だと思うようなコミュニケーションも必要なんだと自覚すること。成果を出すといった「DO(する)」をベースにしたコミュニケーションじゃなくて、「BE(いる)」を軸にした雑談のようなコミュニケーションを意図的に増やしていく。そうすれば、安心感につながるんじゃないでしょうか。
テキストコミュニケーションがキツい
——あと、もう一つリモートワークになって悩んでいることがあります。テキストコミュニケーションが増えたのですが、相手を嫌な気持ちにさせないように文面を考えすぎてしまって。なかなかメッセージが送れないんです。人によっては「!」ひとつにもいろんな解釈があるじゃないですか。
鈴木:対人関係に過敏性がある人に生じている典型的な悩みですね。こういったタイプの方はコミュニケーションにおいて相手を不快にさせないことを重視している。繊細で打たれ弱いために、自分が攻撃を受けないための防衛にすごくエネルギーを使うんです。だから普段から相手の表情や声色から相手の機嫌を読み取っているのですが、リモートワークになると、それが分かりづらくなりますよね。要するに、防衛のために必要な情報が少なくて、不安が増幅しやすい環境なんですよ。
——確かに。ビデオ会議では目と目が合わないし、相手の間合いも読み取れなくて不安です。対面で得ている情報って意外と多いんだなと気づきました。その場合、どうしたらよいのでしょうか?
鈴木:自分にとって安心できるコミュニケーション手段に切り替えていくことが大切です。声が聞こえたほうが安心できるなら音声通話にしてもらうとか。Slackのようなスピード感が速いツールだと「早く返事をしなきゃ」と焦ってしまう。だとしたら、ゆっくり考えてメッセージを送れるメールに切り替えてもらうとか。自分の特性に合ったツールを選んでいけるといいですよね。
最終回は8月27日(木)公開予定です。
(構成:岡本実希、撮影:青木勇太、聞き手、編集:安次富陽子)
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情報元リンク: ウートピ
コロナ禍でコミュニケーションがツラくなった人、ラクになった人。その違いって?