お茶の水女子大学が、トランス女性を受け入れる方針を公表した一方で、東京医大の「女子受験生一律減点」が明らかにされるなど、2018年においても「女の子」を巡る環境は何かと騒がしいのが現状です。
けれど、「昔々」は今以上にヤバかったようで——。5月に刊行された『日本のヤバい女の子』(柏書房)が今も話題です。著者のはらだ有彩さんに話を聞きました。
1000年前の話なのに、わかりみが深すぎてヤバい
——『日本のヤバい女の子』に登場する女の子たちが時代に翻弄される姿を見て、私も心が揺れました。今日ははらださんとガールズトークのつもりで来ました。
はらだ有彩さん(以下、はらだ):よろしくお願いします。
——まず、時代を超えてもなお、彼女たちの悩みや苦しみに共感できる部分が多いことに驚きました。はらださん自身は小さい頃から「女性であること」に対して葛藤があったのでしょうか?
はらだ:いえ。私自身は、海辺の町に住んで中高は神戸の女子校で6年間過ごしたのち、芸大に入学したので、男/女だからというジャッジとはほとんど無縁でした。社会人になるまではある意味でぬくぬくと過ごしていて。それが、新卒で入社した広告代理店で働くようになってから「ああ、これは……」と思うことがあって。
——理不尽との遭遇……。
はらだ:はい。仲良くしていた取引先のおじさんと一緒に出張に行った時に「僕の部屋にこないか」と言われたりとか、社内では「あの子が仕事を取ってこられたのは枕営業」と陰口を流されたりとか。そういうことが自分の身に降りかかって来た時に、「ああ、そんなことって本当にあるんだ」としんどくなってしまって。
今でこれなら、昔はもっと…
——それはしんどいですね。というかムカつく! そういう人たちに限って無自覚で、すぐ忘れちゃうんですよね(怒)。
はらだ:まあまあ、落ち着いて(笑)。と言いつつ、落ち着いていられない気持ちもわかります。おっしゃる通りで、彼らは女の子を傷つけようなんて、悪意はほとんどないんですよね。実際、普段はいい人だったりするんですよ。
——優しすぎますよ、はらださん。
はらだ:どうして驚くほど鈍感な面があるんだろうと、不思議でずっと考えていたら、ある時に気づいたんですよね。おかしいなと思うことをする時って、意外と説明がないというか。おかしいなと思う振る舞いに対して誰も説明をしないし、そもそも説明をしようという発想がないんです。
——それを省略しても許されるだろう、という空気が世の中に充満しているのかもしれないですね。
はらだ:そう。現代でこの空気感なら、昔はもっとヤバかったんじゃないかと思ったことが、昔話を調べ始めるきっかけになりました。
本当のことは知りようがない。でも、想像はできる
——そう思ってから、最初に読んだ作品は?
はらだ:「安珍・清姫伝説」です。旅の僧・安珍が旅の途中で泊めてもらった家の娘・清姫に好意を寄せられて、追いかけられるという話なんですけど……。
——清姫は「変身とヤバい女の子」の章で紹介されていますね。自分を捨てた男を追いかけているうちに蛇に変身し、執着の炎で相手を焼き尽くし、自分は最後に海に身を投げてしまうという。今ならストーカーとかメンヘラだと揶揄されてしまいそうです。
はらだ:この話を読んで、みんないろんな想像をすると思うんです。「怖い女に気に入られて災難だったね」とか、「とはいえ安珍も気を持たせるようなことしたんちゃうの?」と。でもあの夜本当は何があったのか、当事者である2人にしかわからないし、今となってはもう誰も知ることはできません。
もし清姫のほうに寄り添うなら、ヒドイ男に振り回されて捨てられたという話になるし、安珍の立場に立つなら、メンヘラにつきまとわれたと見ることもできる。もしかしたら、どちらでもない別の真実もあるかもしれません。でも、恋し恋された2人があの時代にいたと想像するだけでいいのかなって。
——想像ですか?
はらだ:はい。説によると安珍は「必ず戻る」と告げているんです。だけど、彼にははじめから戻る意思なんてなかったようで……。電話もSNSもない時代に離れ離れになるということは、もう二度と会えない可能性が高いですよね。だから清姫はあんなに思いを募らせたのではないかな、と。別れるときに「もう戻らない」と一言告げるだけで結末は変わったんじゃないかなって思うんです。
——たしかに。自然消滅を狙う人ってズルいなって思います。安珍も「待ってて! でも帰ってこなかったら、自分のことは忘れてね☆」って、無責任この上ない(怒)。清姫は家も飛び出したのに、そう簡単に引けない。
はらだ:あの時代に家を出れば帰れなかったでしょうね。そもそも、恋を終わらせるのに、放っておけば勝手に消滅するなんて、去っていく側の身勝手な論理ですよね。必死の形相で追いかけてきた清姫を見て、安珍はようやく自分のしたことの大きさに気づいたのではないでしょうか。
誰かが期待するラストシーンからは抜け出して
——そこで、謝って和解とか、自分のパワフルさに気づいた清姫が自由に生きていくという選択肢があれば。本の中には、はらださんの考えるラストシーンが描かれている作品もありますよね。清姫も「もう昨日までの私ではない」と猛スピードで大地を走り抜け、心地よい風を感じながら海の気配を感じるという爽やかなシーンで締めくくられています。希望あるラストシーンを想像することは、自分の人生はいかようにも生きられますよというメッセージを込めて?
はらだ:そうですね。関西風に言うと「好きなようにしはったらええがな」と。紹介した全ての女の子たちをハッピーエンドにすることはできませんでしたが、ただ好きなように、ハッピーに暮らしてほしいという思いを込めました。あなたが現代に暮らしていたら、こんなエンディングを迎えることもできたよと伝えたくて。
——別の女の子の回ですが、「物語に従わないことが最高の復讐だ」という言葉が印象的でした。
はらだ:物語って救いになるときもあるんですけど、危険だなと思うときもあって。というのも、周りが期待する物語とか、自分の思い込みによって、バッドエンドを選ばされることもあると思うんです。そんなときは、その物語を降りてしまうことで、気持ちをラクにさせたらいいのではないかと思いました。
——現代を生きる私たちに置き換えると、「30歳までに結婚するべき」とか「35歳以上になると転職は厳しいぞ」というような?
はらだ:そうですね。結婚して子どもをもったら幸せだろうなと思うこととか。もちろん、そこに幸せを感じることは素敵なことだと思うのですが、でも、そこに無理やり乗っからなくても全然問題なく生きていける時代ですよね。みんながなんとなく「良し」としている物語と自分の物語がズレていても、いいと思うんです。きれいにオチがつかないといい人生じゃなかった、なんてことはありませんから。
後編は9月4日(火)公開予定です。
(取材・文:ウートピ編集部 安次富陽子、撮影:面川雄大)
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情報元リンク: ウートピ
キレイなオチがつかなくても人生は続く 『日本のヤバい女の子』著者とガールズトーク