なぜか同じように繰り返されるCM炎上。「どうしてこのCMが誕生したの? 制作過程で気づかなかったの?」と思ったことがある人も多いはず。炎上ポイントはさまざまですが、特に男女の描かれ方に起因するケースが多いようです。
そのような「これってどうなんだろう?」というCMについて考えるパネルディスカッション「CMから男女の描かれ方を考える」が、(公財)横浜市男女共同参画推進協会と(公大)横浜市立大学の連携により、10月19日、横浜市立大学エクステンション講座(企画・監修:佐藤響子教授)として、開催されました。
その様子を再構成・編集して3回に分けてお届けします。
<登壇者>
モデレーター 治部れんげ:ジャーナリスト
梅田悟司:クリエーティブ・ディレクター
鈴木円香:ウートピ編集長
武田砂鉄:ライター
haru. :大学生、HIGH(er) magazine 編集長
(敬称略)
出張で女性と…なんて世界どこにあるの?
治部:今日は具体的に4社のCMを見て、みなさんの意見を伺っていきます。(会場にいる参加者のみなさんも)好き、嫌いはそれぞれで構いません。周りにどう思われるかは気にせず、自分の意見を持つことを大切にしてください。では、最初の事例を見てみましょう。
■事例1 サントリー 頂(いただき)『絶頂うまい出張』
CM概要:出張先で現地の女性と出会い、一緒に食事をする様子が男性目線のカメラワークで描かれる“体感型”ムービ。出演する女性たちが「肉汁いっぱい出ました」「お酒飲みながら(ご当地グルメを)しゃぶるのがうみゃあ」「えー、一流企業?」「コックぅ~ん! しちゃった(はーと)」といったセリフを発言。ショルダーバッグを斜めがけにして胸を強調するなどのシーンも描かれた。
武田:このCM、論外だと思います。ショルダーバッグを斜めがけにして胸を強調させたり、女性に「一流企業?」と謎のコメントを言わせたり、視聴者をずいぶんとナメたCMだな、と感じました。女性差別的な表現方法はもちろんのこと、オトコってのはこういうのが好きなんだろ、と勝手に引き受けた上で、一律的に描いているのにも腹が立ちます。
CMに限らずですが、テレビを見ていると「男ってこういうもんだろ」という描かれ方が繰り返されます。バラエティ番組やワイドショーで指揮を取るポジションには、圧倒的に男性芸能人が多く、彼らがその番組内で権限を持ちます。そういう人たちが、やたらと「男ってもんは」と、「男」を背負って語るのです。今回のCMは、出張へ行き、その地で女性と出会ったというストーリーになっていますが、この目線や欲望が、世の男性を勝手に代表している。ただただ、困ります。
女性が下から見上げる構図や、「コックゥ~ん!」というセリフ、口元への過剰なアップ。要するに“アダルトビデオ的”な作りです。「コックゥ~ん!しちゃった…」のテロップの最後にハートマークがありましたが、なぜお酒を飲むのにハートマークが必要なのかよくわからない。作り手側には、「いやいや、別にコレ、エロい目線で作ったわけじゃないですよ。むしろ、そうやって受け取るほうが考えすぎなんじゃないですか?」という言い訳が用意される。こちらに委ねる余白を残すことも含め、非常に不愉快なCMだなと思います。
haru.:私も、見た瞬間にしんどいなって思いました。不快でしかなさすぎて。こんな人たち本当にいるのかな、(男性の想像する)ユニコーンの世界かなって思いましたね。自分の周りにあのような世界はないし、あれが出張先で起こる理想のシチュエーションみたいな描かれ方をしているのが本当に嫌だし、男性もかわいそう。「これで満足だろ」みたいな提示のされ方は、誰にもリスペクトがないなと感じます。
作り手側が分析した2つの視点
治部:事例としてあげているCMは梅田さんが制作したものではありませんが、梅田さんには、CMの作り手側の目線から解説していただきます。なぜこういったCMが作られるのでしょうか?
梅田:頂の動画に関しては、論点は2つあります。まず、テレビCMではなく、ウェブ動画であるという点。そして、ブランドスイッチをさせる時のメタファーとして何かを描いているのではないかという点です。
(同商品の)テレビCMは、サラリーマン男性を演じる唐沢寿明さんが、仕事から帰ってきてビールを飲んで「コックぅ~ん」と言うストーリーで、性的な表現は出てきません。一方、ウェブ動画では6都市を舞台に、方言を交えて、その土地の女性たちとの出会いの中でストーリーが描かれています。(ウェブのほうでは)少し注目されようという考え方があったのではないかと思います。
具体的には、Youtubeの再生回数を増やそうという目的があって、尖った表現をという意図があったのではないか。憶測の域を出ませんが、だからやや性的なものを含んだものを計画的に出してしまったのではないかなというのが一つめの分析です。
2点目はかなりマーケティング的な視点に寄りますが、ビール商品って飲む人の定番があるんですよ。例えば、スーパードライが好きとか、金麦が好きとか。その中でニューカマーが出てくるとき、どんなふうに知ってもらうのかと言うと、ブランドスイッチをしてもらうんです。
ブランドスイッチとは、日本語的に訳すると“浮気する”ということ。今まで飲んでいたビールから浮気して、新しいビールを飲んでもらう、飲み続けてもらうということが、新商品には必要なんです。その浮気のメタファーとして、出張先でちょっと浮気をするという文脈が、僕は透けて見えるんですよね。
作り手に求められる「説明責任」と「一貫性」のワナ
鈴木:ひとつ気になったのは、この動画、企画書を通って、プレビューもなさっていると思うんですけど……。こういうのが出たときに、クライアントとか、広告代理店の中のおじさま方は、「いいねぇ」みたいな反応をなさるのでしょうか?
梅田:これも想像の域を出ませんが、「いいねぇ」というよりは、説明がついているということが重視されたのではないかと思います。例えば、「浮気してもらう商品なので、浮気してもらわないとブランドスイッチが起きない。なので、浮気を描きましょう」と。理論として成立しているかどうか、一貫性が保たれているかということが、結構重要になるので。
その表現がいいか悪いかは、本当は別の判断がくだされないといけないわけですが。ただ、一貫性が取れていることで、表現の部分の議論まで到達しなかったんじゃないかなという気がしますね。
武田:そうでしょうか。このCMが、ブランドスイッチが起きる・起きないというレベルのものとは思えません。自分が中学時代に読んでいた雑誌を思い出します。そこには、「女の人が上目遣いをしたらヤリたいサインだ」みたいなことが書いてあった。さすがに歳を重ねるうちに、そういうことじゃないとわかり、そんな通説を信じるはずがないのだけれど、このCMって、要するにそれらと同質のものです。
最近、中高年男性が読む週刊誌の特集では、「あわよくばヤるぞ」という記事を頻繁に目にします。「死ぬまでセックス」特集なんかもよく組まれていますよね。そういう記事の存在を思い出すと、このCMが描く、出張先でもしかしたら何かあるかもしれないという「あわよくば感」って、彼らの需要と合っているのかもしれません。
しかしながら、女性を、その手の願望に応えてくれる存在として配置していることに、違和感しかありません。ブランドスイッチ云々というより、あらかじめ捨てておかなければならない考え方ですよね。「これくらいの表現、逆にアリだよね」ってことにすると、「えっ、なになに、少しは可能性あるの!?」という意識が維持され、やがて、増大してしまうと思いますし。
梅田:おっしゃる通りです。僕も、ブランドスイッチを仮説として出しましたけど。「これありだよね」という話ではないし、僕個人の「いい・悪い」という意見ではないと、今一度お伝えしておきます。
みなさんが見ている広告が生まれてくるプロセスの中には、大きなマーケティング予算を使うということが必須になります。例えば、何十億円でとか、社運をかけて、とか。そのような場面では、一貫性とか、なぜこれをやるのかという説明責任を常に問われ続けます。
そのプロセスの中には、間違った文脈が生まれてしまう構造も孕んでいます。ただ、文脈がしっかりできているということと、その表現が世の中に出していいものかどうかというのは、全く別軸でするべきものです。
(構成:ウートピ編集部 安次富陽子)
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情報元リンク: ウートピ
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