仕事で集中したいのに、いつの間にかスマホをいじってしまったりほかのことを始めたりしてしまって集中力が続かない、そもそも仕事のモチベーションがわかない……と悩んでいる人も多いのではないでしょうか? 集中力をアップするためにできることはいろいろあるけれど、五感を活用してみてはいかがでしょうか?
というわけで、このほどアロマ調香デザイナーの齋藤智子さんと早稲田大学教授で脳神経科学者の枝川義邦さんによる「21世紀型中学受験セミナー・体の秘訣 睡眠の質が決めて〜脳と香り〜」が東京都内で開催されました。
セミナーは中学受験をする親子向けに開かれましたが、集中力アップを目指す大人にも有効とのこと。ウートピ編集部も働く女性向けに話を聞こうと会場に足を運びました。
前編に引き続き、後編は枝川先生に脳神経科学の観点から、「集中力やモチベーションを高めるコツ」について聞きます。
モチベーションって何だ?
枝川:後編では、モチベーションとは何だ? というお話からしていきたいと思います。モチベーションとは、何か行動を起こすためのスイッチなんですね。
まず、「結果が欲しい」という欲求が湧きます。「お腹すいたからご飯食べたい」とかがそう。
それで行動を起こすことで結果を得ることができます。そんな欲求と行動の間にあるのがモチベーションです。
モチベーションは、受験生も会社員も、すべての人に必要です。モチベーションは三つの段階でわけて考えると分かりやすいですね。まずは本能的なもので、生きるために必要なことをしたいという生理的な動機です。「お腹が空いた」「トイレに行きたい」など。
次の段階は、いわゆるアメとムチが出てきます。ニンジンを目の前にぶら下げられて走っていくような動機で、これはいろいろな場面で使われていますね。そして、自分自身がしたいという気持ちが湧き出てスイッチを入れるモチベーションもあります。自分で目標があって、それに向かって頑張ることです。
このように分けると、多くはアメとムチを使ってスイッチを入れる段階なんですね。できれば、自分自身でやる気を高めるようにしていきたいですよね。
ハードル設定のコツ
よく言う「やる気スイッチ」はどうやって入れるの? ということなんですが、脳の中には、「報酬系神経ネットワーク」と呼ばれるものがあるんです。それがうまく働くようにスイッチを入れればやる気が出る。ただ、どこにあるかは人それぞれなので、他人が見ても分かりづらいかも知れません。
もう一つ、外からスイッチを押してもらわなくても、自分の中から湧き出る欲求でものすごく集中する「フロー」という状態もあります。これには外からのご褒美がいらない。「ゲームをするのがただ楽しいからやり続ける」というようにそのこと自体がご褒美になる状態のことです。
やる気にはドーパミンが関係しています。では、「脳のなかのドーパミンは、どうやったら出るの?」ということになりますが、それは「報酬の予測」をしているときなのです。
簡単に言うと「馬の鼻先にニンジンをぶら下げる」という状態で、実際に食べることができちゃうと意味がない。結果を得られないで予測をしている状態、そしてハードルや目標をまさに越えて結果を得ようとしている瞬間にドーパミンがたくさん出るんですね。
つまり、結果を出すと何が得られるか? と予測できている状態がドーパミンを出すにはいいんです。
よく「この結果を出せば何かご褒美がもらえる」という交換条件を設定する場面がありますが、これは、実は慣れてやる気が上がらなくなりやすいのです。その理由は、ドーパミンを分泌する神経に「慣れ」が生じやすいので、毎回、同じようなご褒美を提示されてもドーパミンが出にくくなってくるからです。だから、たまには予測していないようなサプライズ的な報酬があるといいんですね。
では、やる気が出やすい課題や目標はどう設定すればよいか? これには、「50パーセントの法則」があります。50%なので、その人が一生懸命に取り組んだときに、それを越えられるか、越えられないかくらいのレベルの課題設定なんです。簡単すぎてもダメだし、難しすぎてもダメで、やっとのことで越えられるハードルを設定するといいと思います。
だんだんレベルを上げていくとフローに入りやすい
次に「フロー」についてお話します。一言で言うと「集中の極み」で、ぐーっと入り込んで時間も忘れて没頭する状態です。アメリカの心理学者・ミハイ・チクセントミハイが提唱したのですが、一言で言うと「課題の難しさと自分の能力のバランスが取れている状態」のときにフローに入りやすいとされます。
つまり、課題が難しくて自分の能力がついていけてない状態だと不安に感じて、逆に課題が簡単すぎて自分の能力があり余っている状態は退屈なのですが、その間のバランスが取れている状態だと、その対象に携わっているのが心地よく、集中力もぐっと高まるということです。
大抵の場合、最初はスキルが低いので、まずは基本問題をやるのがよい。そして、やっていくうちにスキルが上がっていくに従って課題のレベルもあげていく。このとき、だんだん上げていくというのがいいですね。
実は、ゲームはこういう構造をしています。脳科学的にも没頭するようにできているんです。
睡眠に重要な三つのホルモン
今日のテーマ、「睡眠」もモチベーションを上げるために大事なことです。その際、1日24時間のリズムを意識するのが大切。これは「サーカディアンリズム」と言って「おおよその1日のリズム」のこと、朝起きて、夜寝て、次の日の朝起きるまでのリズムです。
それが崩れると、どんどん後ろ倒しになってしまったり、脳や身体がうまく働かないことにもなってしまう……。だから24時間のリズムを崩さないことを基本にするのが大切です。
睡眠で重要なのが「メラトニン」「成長ホルモン」「コルチゾール」という三つのホルモンです。「メラトニン」は眠気に関係しているホルモンなので、脳のなかで自然と出てくるようにしていると自然な眠気が訪れるのですが、これを出にくくする原因がスマホなんですね。スマホを近くで見てブルーライトが目から入ってきてしまうとメラトニンの分泌が抑えられてしまうので眠れなくなってしまいます。
また、メラトニンは、睡眠中も分泌されていて、眠りを維持する働きをしています。これが出ないと深い眠りが得られなかったり、途中でおきてしまうことにもなりかねません。
「成長ホルモン」「コルチゾール」も眠っている間に出るホルモンです。「成長ホルモン」は眠り始めでガーッと出ます。この3時間くらいの眠りの質が大事なのです。
「コルチゾール」はストレスホルモンと呼ばれていることから日中にストレスを受けたときに分泌されてきますが、眠っている間にも出ることで軽くストレスの予行練習をしてくれています。
例えば、眠っているときは血圧が低くなっていますが、血圧を高めて起き上がれるようにしてくれたり、予行演習をすることで昼間の活動中に受けるストレスを軽くしてくれる働きがあります。
「コルチゾール」は睡眠の後半で出るので、睡眠時間が短い人はストレスに対する耐性が低いといわれています。いい睡眠のためにはこの三つのホルモンが自然に出るのを邪魔しないようにするのが大切なのです。
昨年末の「2017ユーキャン新語・流行語大賞」で「睡眠負債」という言葉がベストテン入りをしました。「睡眠負債」とは何か? というと、わずかな時間でも睡眠が足りていないと借金のように積み重なってしまい、いつの間にか大きな病気につながったり脳のパフォーマンスが下がったりするような状態を指します。
問題は睡眠不足の自覚がなされにくいことで、例えば徹夜をしても「頑張れちゃう」と自分では思っているような状態であっても、いつの間にか脳や身体には負担になっているということなんですね。
朝は朝日を浴びて、夜は暗い場所で過ごす
睡眠の質を高めるための習慣としては、まず、朝に大事なのが起きたらカーテンを開いて朝日を浴びること。朝日を浴びることでメラトニンが夜に分泌するためのタイマーが入ります。
タイマーがうまく働くと、14〜16時間後くらいにメラトニンが出てくる。ちょうど夜、眠る準備をしている頃です。そして、朝ごはんを食べることで脳も身体も起きてきます。決まった時間帯に食べることが大切ですね。
昼と夜のメリハリをつけることも大事です。昼は明るいところにいて活動的に過ごす、そして夜は暗めのところで静かに眠るための準備を進めていれば、質の高い睡眠のスイッチが入ります。
これには、室温だけでなく湿度も大事で、40パーセントから60パーセントに保つのがよいですね。ぬるま湯のお風呂に浸かって、就床前はパソコンやスマホを見るのをなるべく控えるといいと思います。
今日のテーマのアロマということで嗅覚なんですが、嗅覚だけは寝ているときも働いています。前半でご紹介したアロマも活用するといい睡眠が取れるのではないでしょうか。
(取材・文:ウートピ編集部)
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情報元リンク: ウートピ
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