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もしも彼がセクシストだったら? いま、声を大にして言いたいこと【小島慶子】

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恋のこと、仕事のこと、家族のこと、友達のこと……オンナの人生って結局、 割り切れないことばかり。3.14159265……と永遠に割り切れない円周率(π)みたいな人生を生き抜く術を、エッセイストの小島慶子さんに教えていただきます。

第32回は、もしも彼がセクシスト(性差別主義者)だったら? です。

知りたくなかった別の顔

最近、とても好感度が高い著名な男性が、実は女性をモノのように扱っていたことが判明したというゴシップがありました。妻の知らないところで、自分に好意を寄せる女性たちを単なる性欲処理の道具にする所業を繰り返していたというのです。

世間の評判もよく、心から信頼していた夫が、実はクソ野郎であったと知るのはどれほどショックでしょう。愛があると信じて結婚したのに、そもそも女性というものをお金で自由にできるモノだと考えているような人間だとわかったわけですから。自分に対しては優しくしてくれるから気にしない、とはならないですよね。

ある男性が女性を自分と対等な存在だと思っているかどうかは、残念ながら身内に対する態度からはなかなかわかりません。恋人や妻に見せている顔ではなく、職場などで自分より立場の弱い女性や、個人的な関係のない女性、テレビやネットの中に登場する女性たちに対してどのような態度をとるのかが、その男性の本当の女性観を示しています。

たとえ彼氏や夫としては申し分のない男性でも、職場で女性を軽んじたり、見知らぬ女性に横柄な態度を取ったり、立場の弱い女性をモノ扱いするような振る舞いをするのなら、そいつは女性差別野郎、セクシストです。そうと知ってしまったら、いくら優しくされても尊敬できませんよね。

もしも優しい彼氏や、良き夫や、子煩悩な父親が、職場や街やネットで女性を見下すような言動をしていたら、と想像してみましょう。

もう見て見ぬ振りはできない

帰宅した彼は、今日も温かい眼差しであなたを見つめてくれます。一緒に皿を洗い、悩み事にも真摯に向き合ってくれます。でも昼間、どこかの女性には、いやらしい視線や冷たい一瞥を浴びせている。家族には絶対に見せない顔です。同じ人物とは思えないようなことが、でも現実にあり得るのです。

その現場を見てしまっても、きっと大抵の人は見なかったことにするでしょう。自分の伴侶や恋人がクソ野郎だと認めてしまったら、平和な世界が壊れちゃいますから。

私にもそういう経験があります。理解があって紳士的で、いつも尽くしてくれて、職場の女性たちにも好かれていた人が、実は陰でとんでもない女性蔑視的な行動をしていた、ということが。

あまりにもショックだったので、そのことは考えないようにしました。彼は私には優しいのだから、それでよしとしよう、って蓋をしたんです。

だけど、心の底ではどうしても受け入れることができませんでした。この人にとったら女性はみんな「オンナ」っていうモノでしかないんだと思うと、許せなかった。

いやいや、外面だけよくて恋人にはひどいことをする男よりはマシだろう、とも考えてみたけれど、女性を対等な存在だと思っていないことはどっちも同じです。恋人だから雑に扱うのも、恋人だけは大事にするのも、女性を所有物扱いしていることには変わりがないんですよね。

だから、このまま見て見ぬ振りすることはできないと思いました。

単なる「男」と「女」の違い?

若い時は、相手が自分にかまってくれるかどうかばかりを気にしてしまうけど、大人になるにつれ、その人が社会についてどう考えているかや、無関係な人たちにどんな態度で接するかが気になるようになります。引きの視点で眺められるようになり、もしかしてこの人には問題があるんじゃないか?と気づくのです。

女性は、遅かれ早かれジェンダーの壁にぶつかります。働き始めてしばらく経つと、「なぜこんなに生きづらいのだろう?女らしさって何?それは一体誰のため?」と考える機会が増えます。世の中がどんな価値観に基づいて運営されており、誰がパワーを持っていて、誰が排除されているかを考えずにはいられません。内省を経てそのようなメタの視点を獲得していくにつれ、男性との認識のズレが生じることになります。

そういえば彼、すぐ「女子はさ……」って言うよな。私や女友達の話を遮って「それはね」と蘊蓄(うんちく)を語り出すことが多いな。職場の女性を「女の子」って呼んでるな。すぐ「最近太ったね」とか指摘するし、テレビを見て「この女優は劣化した」とかも言ってる……。そもそも女性をリスペクトしてないし、なんか低く見積もってない?彼の言動にだんだん苛立ちを感じるようになって、積もり積もってすごいストレスに。そういうのやめてよ!と言っても全然通じない。そして気づくのです。

これ、今までは単なる“男と女の違い”だと思っていたけど、そうじゃない。人権やジェンダーをめぐる断絶なんだ。私には痛いほど見えているものが、この人にはまるで見えていない。だから無神経な言動に全然気が付かないんだ!と。

差別的発言が気になるようになったのは、成長

攻撃する意図がなくても、相手に排除されたとか侮辱されたと感じさせるような言動を、マイクロアグレッションと言います。やった当人は全く無自覚でも、やられた方は毎度傷つき嫌な思いをします。男性が女性差別やジェンダーバイアスについて無知だと、そばにいる女性はモヤったりザワついたり、絶えず不快な思いをすることになるのです。

ここで「まあ男子ってバカだから!」と諦めてしまうと、ずーっと我慢をすることになるばかりか、彼の周りの他の女性も嫌な思いをし続けることになります。一度ジェンダーの問題に目覚めてしまったら、後には戻れません。彼の言動が気に障るようになったのは、あなたが頭の硬い女だからではなく、あなたの成長が彼を追い越したからなのです。

彼が「女子ってさー」と半笑いで言った時に、女性をひと括りにしないでほしいと指摘したらどう出るか。真面目に取り合わないとか激昂するとか、そもそも理解できないとかハッとするとか、いろんな反応があるはずです。話してわかる相手なら、アップデートを試みるのもいいでしょう。残念ながら、日本の社会で男子としてぼーっと育っていたら、女性=エロの思考回路や女性蔑視がデフォルト設定になっていますから、まずはそれを自覚してもらうのです。

ただ、学習できる人は変われるけど、そもそも学習できない人を変えるのは、とてつもなく骨の折れること。それだけの労力を割くことが果たして自分にとってプラスかどうかは、冷徹なようだけど、考えどころですね。

機嫌をとって解決できる問題じゃない

結婚してしばらくすると、男性が「妻がきつくなった」「最近怒ってばかり」と溢すようになることがあります。それは仕事や育児を通じて葛藤を抱え、思考を深めていく妻とのギャップが大きくなっていることの表れ。妻の怒りは夫の言動に象徴される性差別的な社会構造への怒りですから、いくら機嫌をとっても解決できる問題ではありません。

そんな妻に対して「男がみんなセクシストってわけじゃないよ!」と弁明するのではなく、話を聞いて一緒に「こんなのおかしいよね」って言ってくれる人を、妻は求めているのです。

大人になる機会を逸したままの男性と、職場でも家庭でも世の中の歪みと格闘する女性。「男はバカだから」と言われて「そうそう!俺たちお子ちゃまなの。だからいちいち怒らないでよね」と喜んでいる間に、パートナーからも世の中からも見放されて、淘汰されることになりかねません。

男は永遠の男子でいいわけないし、怒る女は頭でっかちじゃない。デフォルト設定のヤバさに気づいて学習意欲を示す男性が増えつつある今だからこそ、アップデートの機会を逃さないで欲しいです。

【小島慶子さんの新刊情報】

佐藤愛子さんとの往復書簡『人生論 あなたは酢ダコが好きか嫌いか ~女二人の手紙のやりとり~』(小学館)と、
『VERY』の人気連載をまとめた『「もしかしてVERY失格!?」完結編 曼荼羅家族』(光文社)が刊行されました!

情報元リンク: ウートピ
もしも彼がセクシストだったら? いま、声を大にして言いたいこと【小島慶子】

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