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もし「手頃なブサイク」だったら? 傲慢になりがちな“選ぶ側”をいつまで放っておくのか

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2018年になっても、私たちをとりまく環境は何かと騒がしい——。それは、私たちが常に今を生きていて「これまで」と「これから」の間で葛藤を繰り返しているからなのかもしれません。

その葛藤や分岐点とどう向き合うべきか。エッセイストの河崎環さんに考察していただく連載「5分でわかる女子的社会論・私たちは、変わろうとしている」。

第4回は、ドラマのタイトルの改題もニュースになった『ちょうどいいブスのススメ』(主婦の友社)から、「選ぶ側の傲慢さ」について考えました。

「ちょうどいいブス」に世論が反応した2つの理由

YAHOO!知恵袋で「ちょうどいいブスってどういう意味ですか?」って質問があったんですよ。そこでベストアンサーに選ばれ、はなまるがついていたのがこんな回答でした。
「酔ったらいける女性のこと」
なるほど、と。
——「ちょうどいいブスのススメ」(主婦の友社/山﨑ケイ)

M-1グランプリ2016ファイナリストであるお笑いコンビ「相席スタート」の山﨑ケイさんが「ちょうどいいブス」「モテるほうのブス」というフレーズで自身のお笑いブランディングに大成功したのは、彼女の芸人キャリアにとってはもちろん僥倖(ぎょうこう)であり、私たち一般女性にとっても「ブス」なる蔑称を解体(中和・無害化)しかける良いきっかけだった、と私は思っています。

「モテない美人よりモテるブス」と彼女の提唱するお笑いフレーズが、賛否ありながらもじわじわと浸透したのは、その言葉に力があったからです。結局は男女問わず「ちょうどいいブス」なるお笑い概念に「なるほど、あれはそういうことなのだ」と思い当たる節があり、美醜だとかモテだとかの表層的なレベルを超えて人間の感情や行動について考える味わいに満ちていたからだ、とも私は思うのです。

今年4月には著書『ちょうどいいブスのススメ』が発売となり、言葉や本人の顔やコンビが認知され、「ちょうどいいブス」はそのまま市民権を得るかのように見えました。ところがいよいよ日本テレビでのドラマ化が告知される段になって、SNSで火が噴きました。

原作名に忠実なドラマタイトル『ちょうどいいブスのススメ』がツイッターで大批判を受け、『人生が楽しくなる幸せの法則』になるというビミョーな改題が生じ、それもまた非難の的になりました。

これまでの批判の内容をまとめると、2つに大別できるようです。

【「ちょうどいいブス」批判】
「ちょうどいいブス」とは、誰から見てちょうどいいと言うのか。たとえ「ちょうどいい」をつけようとも、結局「ブス」に着地して女性の美醜を評価し烙印を押すような言葉、しかもそうなれと「ススメ」るようなマインドはもう要らない。男性社会の価値観そのものに疑問を持たないまま、「酔ったらヤれる」と男に舐められるのが「モテ」でそんなモテが「幸せ」だと提唱し、都合のいい「ちょうどいいブス」になれと言うのは、新たな烙印や不自由の押し付けでしかない。
【ドラマの建て付け批判】
「ちょうどいいブス」は、致し方ない現実の世の中での生き方の戦略やアイデアとして、まあアリだと思う。山﨑ケイさんは自分が「これで自由になれた」という体験から導いた言葉を広めているので、それは本人の自由。でもドラマでは夏菜さんや高橋メアリージュンさんという純粋に外見に恵まれた女優をキャスティングする時点で、「ちょうどいいブス」の意味や、その境地に至る女性側の葛藤がわかっていないし、わかっていても表現できていない。「ちょうどいいブス」は、「ちょうどいいブス」当事者の口から「そうではない自分」への成長意思を込めて発せられて初めて成立する言葉。当事者でない美人がそれを演じても説得力がないばかりか、反感しか呼ばない。自己啓発本かと見紛うような改題は、「ちょうどいい」タイトルが見つからなかったのねと、ひたすら残念。

この稿では、前者の「ちょうどいいブス」という言葉や概念がなぜ「笑えず」、受け入れられなかったのか、その理由を探ります。

「ちょうどいい」は「ブス」という言葉の傲慢と毒を中和するには至らなかった

本来50点の女が70点ぶって生きていたらどんなことが起こるでしょう。当然こうなります。
「このブス、調子こいてるなぁ」
そこでちょうどいいブスという生き方なんです。自己評価70点で実際には50点の女が、「私は45点の女なんですよ≒私ってちょうどいいブスなんです」とプレゼンする。
するとどのような変化が起こるでしょうか。
「いやいや、そこまで言うほどブスじゃないよ。お、この女は謙虚ないい女かもしれない」
(…中略…)
これがちょうどいいブスがなぜモテるようになるかの超基本構造です。
——「ちょうどいいブスのススメ」(主婦の友社/山﨑ケイ)

長い間ウェブで物書きをしてきて否応なく身に沁みているのが、「特定の言葉には、発する者が想像したり意図したりする以上の激烈な怨念や悪意や拒否感が、既に社会的に込められている」ということです。

どれだけお笑いの高度な言語センスで「ちょうどいいブス」という文学的な言葉を作り人間の様々な心の機微を込めようとも、一般的な「ブス」には既に致死量近くの毒があり、お笑いとして一部には受けても一部には「全く笑えない」ということだったと思うのです。

かつては『ブスの瞳に恋してる』(2006年・フジテレビ系)というドラマが普通に成立して人気を博していたものですが、SNS時代は言葉が未曾有の伝播力を持つため、微かな悪意や怨念は精密に感知され、増幅されて、巨大な姿を現します。

ジェンダーにまつわる言葉に誰かが怒っている理由を理解しかねるというとき、その言葉や社会構造を性別で線対称にすると理由が見えてくるものです。

仮に、圧倒的に女性の方が教育機会やその他の資源に恵まれて優位にあり、稼ぎ、社会的権力を持ち、男性をさんざん値踏みし「あれはいける(=抱けるイケメン)」「あれはナイ(=抱けないブサイク)」と美醜でおおっぴらにこき下ろし、誰もそれに疑問を持たず(あえて言いますが)数多の巨根イケメンがあられもない姿を披露するような、女性だけに一方的に都合の良いAVやグラビアなどの情報や性的接触の機会が日々当然のように(だって女性はそういう生き物だから、という社会的ロジックです)供給される、女性が恋愛も性も圧倒的主導権を握る反転女性優位社会があったとしましょう。

反転して「手頃なブサイク」はアリか?

「男性がイケメンであること」「男性のカラダがいいこと」「かつ女性に都合よく従順である(=性格がいい、と評価される)こと」に男女ともに極端に価値を置いている社会、その他の資質は著しく低い重要度で副次的にしか評価されない社会、ブサイクであるだけで男性の生き方が極端に大幅な制限を受け、その他の能力や分野での巻き返しが困難な、不条理に男性不利な社会。そんな社会で、仮に男性芸人が「手頃なブサイク」という言葉を作り、「モテないイケメンよりモテる手頃なブサイクになろう」「謙虚でマナーの守れる、気の利いた手頃なブサイクになれば、美人とワンチャンある、美人に選んでもらえる幸せな人生が待っている」と提唱したと考えると、その場では自虐として笑えるかもしれませんが、

「その『美人に選んでもらう』人生って、努力の方向性としていいのか?」

「『手頃』って、女にとって一夜の相手としてイージーで手頃、ってことだろ? そんな男になりたいのか?」

「社会で極端な不利を敷かれている自分たちの理不尽な立場をそのまま受け入れていて、いいのか?」

という疑問が「男性の中から」出てくるのは自然なことかと思います。(何度も言いますが、これは圧倒的な女性優位社会という仮定で、男性が疑問を口にしていても女性は『相変わらず男はバカだな、黙って言うこと聞いてりゃいいんだよ』と鼻で笑うだけの社会です。)

女性に酒の場で「ねえ、お前ってさ、イケメンのふりしてやってるけど、違うからな、ブサイクだからな。でもなんて言うか『手頃なブサイク』だから、酒の勢いで一回抱いちゃうくらいはアリかもな」と満場一致で笑われた男性が、それを褒め言葉と受け止めて「手頃なブサイクでーす」との生き方を選ぶって、いびつではないですか。

「そんなにまでして自尊心削って生きなきゃならないものか?」

「選ぶ側」の傲慢をただすことなく、そんな社会を受け入れてさしあたりうまくやっていく方法論や流行が手を替え品を替えやって来ても、社会は何も変わらないよね、というのが、まさに今回『ちょうどいいブスのススメ』に向けて、内側(女性側)から発せられたメッセージだったように思います。

ブスとは何か。誰が誰に対してどのような意図で発する言葉なのか。それを自称するとは、いったいどういうことを意味するのか。それを突き詰めて考えていくと、漢字練習しているうちにゲシュタルト崩壊するみたいに、ブスという言葉がふわっと軽くなり意味が抜け、音声や形だけになって、どうでもよくなってきませんか。ちょうどよかろうが、よくなかろうが、他人が美醜を評価して言ってくる「ブス」に私たちはなりたいか? 

今回の「ちょうどいいブス」炎上は、「他人が評価してくる言葉に自己評価を預けないで、自分の評価は自分で決めようよ」と思える女子が増えたということなのかもしれません。

本日の参考文献:
ちょうどいいブスのススメ』山﨑ケイ(主婦の友社)

(河崎 環)

情報元リンク: ウートピ
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