居場所を失った17歳の少女・ユイがたどりついたのは海の見えるちょっとふしぎな古民家“マヨイガ”だったーー。
岩手県に伝わる訪れた人をもてなす伝説の家“マヨイガ”を舞台に、ある事情で家出してきた17歳の少女・ユイ、両親を事故で亡くしたショックで声を失った8歳のひより、ふしぎなおばあちゃん・キワとの共同生活を描いた映画『岬のマヨイガ』が8月27日(金)に公開されます。
主人公のユイを芦田愛菜(あしだ・まな)さん、ユイとひよりが出会って一緒に暮らすことになるおばあちゃん・キワを大竹しのぶ(おおたけ・しのぶ)さんが演じています。
芦田さんと大竹さんにお話を伺いました。前後編。
小さな幸せは日常に転がっている
——脚本を読まれた感想を教えてください。
芦田愛菜さん(以下、芦田):「マヨイガ」というのは岩手県の伝承で訪れた人をもてなしてくれる家なのですが、どこにあるのか分からない。また、小さな幸せやささやかな幸せというのが日常には転がっているんだけれど、なかなかつかめないというか見つけることが難しい。そんなマヨイガと“小さな幸せ”がリンクしているような気がしました。
大竹しのぶさん(以下、大竹):東日本大震災が背景にあって、明るい強いヒロインの女の子が、たくましく明るくめげないで生きていくというストーリーともまた違うのでいいなあと思いました。私が演じるキワも人間じゃないような不思議なところがあるのでその部分に惹かれました。キワが昔話を語るシーンがありますが、昔話を語ってみたいなと思っていたので魅力的な役でした。
——演じてみていかがでしたか?
大竹:難しかったです。
——どんな部分が難しかったですか?
大竹:声を作って演じるというのをあまりしたことがないので、監督に「おばあちゃんの声にしたほうがいいのでしょうか?」と聞いたんです。でも、「あまりおばあちゃんおばあちゃんしなくていいですよ」と言われたので、声を作るのは意識し過ぎないようにして臨みました。ちょっと低めの声ではあるのですが……。人間ではない、“ふしぎっと”たちと普通に友好を深めている人物なのでそのあたりを意識しました。難しいけれど楽しかったですね。
——芦田さんはユイをどう演じようと思いましたか?
芦田:ユイはちょっと殻に閉じこもっていて無愛想というかぶっきらぼうな感じもするのですが、別に人間嫌いとかではないんですよね。過去に傷つくことがあったからなかなか素直になれなかったり優しくできなかったり……。本当は優しくて思いやりのある子だと思ったので、それが伝わるようにお芝居できればいいなあと思いました。
——難しかった部分は?
芦田:ユイは無口というか、あまり感情を言葉に乗せて表現しない女の子だったので、息遣いのお芝居が結構多かったんです。顔に合わせてちょっとした息で気持ちを表現するというのが大変でした。息の長短や強弱で雰囲気が変わってくるので難しかったです。
自分を受け止めてくれる人がいるだけで優しい気持ちになれる
——マヨイガは迷い込んだ人をもてなしてくれる伝説の家ですが、ユイやひよりにとってもマヨイガが自分たちの居場所になっていく様子が丁寧に描かれていました。たとえ血がつながっていなくても「家族」になれる。お二人が自分の居場所と感じる場所はどんな場所ですか?
芦田:ユイを演じていてすごく思ったのは、自分を受け止めて認めてくれる人がいる、肯定してくれる人がいるって、こんなに心地よくて優しい気持ちになれるんだなっていうことでした。だから何かつらいことがあった時でも、たとえ血がつながってなくても、キワさんみたいに優しく包み込んでくれる人がいたら、すごく救われるんだろうなと思いました。
私は、もちろん家族もそういう存在ですけど、友達と他愛もない話をして過ごす時間がすごく楽しいので、そういう友達がいるのは本当にありがたいというか、友達にも感謝したいなっていつも思います。
大竹:私はコロナになって、なかなか普通にお食事をしたりとか、みんなで集まることができなくなって、本当に会いたい人って誰だろうか? と考えたときに、そんなにたくさんはいないんだなと気付きました。だからこそ、余計に寂しかった。自分の好きな人とか大事にしたい人とは思いっきり心で触れ合って大事にしなくちゃいけないんだなと思いました。
“ふしぎっと”は人間の心の比喩?
——映画には“ふしぎっと”と呼ばれる河童などの優しい妖怪たちがキワの元を訪れてきます。と聞くと「ファンタジー映画なんだな」と思うのですが、実はこういうふしぎな存在って、分かりやすい河童の姿をしていないだけで本当にいるのではないかなと思いました。
芦田:私もふしぎっとはすごく身近に感じました。絶対にいないとかそういうわけではなくて、むしろ人間の心の比喩なのかなと。本当は人間もふしぎっとみたいにすごく純粋で優しい心を持っているのに、だんだん日々の忙しさにもまれたり、つらいことがあったりとかして、優しくできなくなってしまっているのかなと感じて……。
マヨイガやふしぎっとたちがいるところは優しく包み込んでくれるような場所だなと感じました。本当は、人間ってこういう姿なんだよねって。何もかも忘れて、素直に自分自身、ありのままを受け止めてくれるのが、ふしぎっとであり、本当は人間ってそういう形なんだろうなと思いました。
キワが教えてくれる、年を重ねるということ
——人々の悲しい思いを糧に成長していく怪物“アガメ”も登場します。キワは「アガメにも叫びたい何かがあったんだろうからね」とつぶやきますが、単純に敵と味方で分けないで相手を思いやる姿が印象的でした。
大竹:年を重ねるって、そういうことなんだなって教えられるような気はしますね。すべてを否定しないっていうこと。受け入れるっていうことも含めて、否定しないで、理解してあげるっていうのが優しさなんだと思います。
■映画情報
タイトル:『岬のマヨイガ』
配給:アニプレックス
公開表記:2021年8月27日(金)全国ロードショー
コピーライト:(C)柏葉幸子・講談社/2021「岬のマヨイガ」製作委員会
(聞き手:ウートピ編集部・堀池沙知子、写真:宇高尚弘)
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情報元リンク: ウートピ
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