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ずっと見て見ぬフリをしてきた…「子育てとばして介護」することになった私が思うこと

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妊娠・出産・子育てをすっ飛ばして、義両親の介護をサポートすることになった体験をつづった島影真奈美(しまかげ・まなみ)さんによるエッセイ『子育てとばして介護かよ』(KADOKAWA)が9月13日に発売されました。

「介護」という言葉を聞いても「そういえば親が祖父母の介護をしている」「親は元気だし、取りあえず今は大丈夫」と思っている20代や30代の読者も多いのではないでしょうか?

ライター・編集者として働く傍ら、大学院にも通い、夫と忙しくも充実した日々を送っていた島影さんですが、立て続けに認知症と分かった義両親の「介護のキーパーソン*」をなりゆきで引き受け、「介護」という三足目のわらじを履くことになります。島影さんに3回にわたってお話を伺いました。

*介護のキーパーソン:介護をしていく上で中心となる人で、医師や介護支援専門員(ケアマネジャー)などと協力する際の窓口となり、介護方針を決めていく上で重要な役割を担う人。

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介護は思ったより身近な問題だった

——『子育てとばして介護かよ』は2018年9月からnoteで連載中の「別居嫁介護日誌」と「毎日が発見ネット」の連載原稿に加筆・修正したものだそうですね。ウェブ連載は、読者の反応がダイレクトに届くと思うのですが、反響はいかがでしたか?

島影真奈美さん(以下、島影):同世代や年下の友人・知人から「実は……」と介護の悩みや、親の老いへの不安を打ち明けられる機会が急に増えました。

義父は現在91歳、義母が88歳なんですが、私の両親は父が75歳、母が68歳と一回り以上年齢が離れています。その意味でいうと「親の介護」はまだまだ遠いようなイメージもあったし、実際に介護が始まってからも、同世代の友達にはなかなか話せずにいました。いきなりそんな話をされても、相手も困っちゃうだろうなって。

ところが、いざ介護の話を書き始めたら、あちこちで「実は、うちの親がこういう状態で悩んでいる」「今度、実家に帰ったときに親の老後や介護の話をしたいんだけど、どう切り出せばいいのか分からない」と聞かれるようになりました。「誰かに相談したいけど、誰に相談したらいいか分からなかった」って、まさに介護が始まったばかりの頃の私とまったく同じで、「そうそう!」といきなり話が盛り上がるわけです。

想像していたよりずっと介護は身近なもので、悩みに直面している方の年齢の幅も広いことを改めて実感しました。

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——友人や知人と、なかなか介護の話はしないかもしれないですね。私自身の話で恐縮ですが、両親の介護については頭のどこかで考えないようにしています。「まだ大丈夫だろう」と目を背けている部分はあるのかもしれないです。

島影:私もそうでした。夫の両親の年齢を考えると、いずれ介護の問題が浮上するだろうなとうすうす思っていたけれど、特に家族で話し合うこともなく。夫が結婚前から「親が年を取っても面倒を見ない。親にもそう言ってある!」と宣言していたこともあって、ずっと見て見ぬフリをしてきました。その結果、ある日突然、介護に直面することになってしまうという(笑)。

——本も「義母からの電話」という突然の始まり方でしたね。

『子育てとばして介護かよ』(新潮社)より

『子育てとばして介護かよ』(新潮社)より

島影:今思うと、電話がかかってきた時点で義母の様子がちょっとおかしかったんですよね。でも、当時はその“予兆”を思い切り見逃しています。その後、いよいよこれはマズいぞと確信するやりとりもあるんですが、今度はどう対応しようか迷っているうちにどんどん時間がたってしまい……。最初にあれ? と思ってから、もの忘れ外来クリニックを受診するまで結局、1年以上かかっています。

介護はいつやってくるのか予測がつきません。だから、「元気なうちに家族でしっかり話し合っておきましょう」なんて言われたりもしますが、それはそれで難しい面もありますよね。話の切り出し方を間違えると「何で今、そんなことを言われないといけないの?」と親にムッとされたり、「親の財布をあてにするな」とヘンなお説教をされる羽目になったり。親子ゲンカになってしまうことも珍しくありません。

——そうですね……。

島影:親を心配し、よかれと思って話をした子どもの立場からすると、腹が立つかもしれませんが、立場を置き換えてみると、親がノーを突き付けるのは自然な反応だとも言えるんです。

例えば、親から「あなたの年齢なら、転職するならあと5年以内ぐらいかしらね。結婚のことを真面目に考える必要があるでしょ。せめて2人は子どもが欲しいだろうし、だったら出産は早いほうがいいわね」なんて言われたらイラッとしません? いくら親とはいえ、私の人生に口を出すな! と。

——思います!

島影:親も同じように、頭にくるのだろうと思うんですよ。親としてのプライドを傷つけられた怒りもあれば、自分でも「老い」に対する不安をうすうす感じていたからこそ、カチンとくるケースもあるのかもしれません。かといって、「親が不機嫌になるから」と、完全に目を背けてしまうと、ある日いきなり介護の荒波に放り出され、大変な思いを……という可能性もあります。

親の老いが気になり始めたら、まずは普段の様子や変化をさりげなく観察し、親が受け入れやすいような話題やタイミングを焦らずに探っていくのがいいのかなと思います。

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「介護ってこういうもの」をちょいちょい裏切ってくる

——島影さんは介護に関わってみて分かったことはありますか?

島影:介護についてある程度は知っているつもりでいたのですが、いざ本格的に関わってみると、「想像していたのと全然違う!」ということがたくさんありました。

私が「介護のキーパーソン」に立候補したのは2017年春頃のことです。なりゆきで「やります!」と言ってしまったとはいえ、私の祖母も認知症だったので、ある程度は認知症の症状は見聞きしていたし、通っている大学院の授業では医学や心理学、社会学などさまざまな切り口で「介護」や「認知症」について学ぶ機会もありました。

何も知らずに介護に直面したら、もっと混乱しただろうなと思う反面、ある程度知っていた割にはずいぶんテンパったし、追い詰められたなという実感もあります。「介護ってこういうもの」「認知症はこうなんだ」といった先入観が次々に裏切られ、ビックリ仰天! という出来事もたくさんありました。

例えば、中程度のアルツハイマー型認知症と診断された義母は、すでに洗濯機の使い方が分からなくなっていました。一方、軽度のアルツハイマー型認知症と診断された義父は、洗濯機の操作はOK。ただし、洗濯機を回したことは忘れてしまいます。でも、義母が洗濯ものを洗濯機に入れたら、義父がボタンを押し、洗い上がったら義母が義父に声をかけ、一緒に干す……といった具合に、うまく役割分担していました。

介護サービスを導入してからは、そこにヘルパーさんが加わり、声掛けをしてもらうなどのサポートを受けながら、私たちはもちろん他の兄弟とも同居することなく、夫婦ふたりの暮らしを続けることができたのです。

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——一言で「認知症」と言っても、症状は人それぞれなのですね。

島影:よく「認知症になると、最近のことは覚えられないけれど、昔の出来事はしっかり覚えてる」と言われますよね。でも、実際にはご本人にとって印象的なことは、最近のことでもよく覚えていたりもします。

あるとき、私がうっかり壊れかけの椅子に座っちゃってズデーンと後ろにひっくり返ったことがあるんです。その様子が相当面白かったみたいで、義母はケアマネジャーさんからヘルパーさん、往診の先生……と来た人全員に「この前、真奈美さんがね……」と報告していたらしく。

介護・医療チームの方々から口々に「この間は大変だったそうですね」とねぎらわれ、冷や汗をかきました。しかも皆さん、ディテールまで知っていて、認知症のことを知らなければ、「治った」と錯覚してしまうほどの義母の記憶力に驚かされました。

義父母と接していると、認知症や高齢者へのイメージをちょいちょい裏切られるんです。こういうと語弊があるかもしれませんが、めちゃくちゃ面白いし、勇気づけられる。認知症介護って奥が深いなって思います。

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私にとっては介護という“冒険”

——9月16日は「敬老の日」です。この本をどんな人に読んでほしいですか?

島影:「親の老いを感じてハッとした」という経験がある方に読んでいただけたらうれしいです。

私自身は想像もしていなかった形で、「介護」という嵐に巻き込まれ、てんやわんやのサバイバル生活を送ることになりました。一緒に遭難した仲間はなんだか頼りないし、何から手を付ければいいのかもよく分からない。ずいぶん右往左往もしました。

でも、子どもの頃に読んだ『ロビンソン・クルーソー』や『十五少年漂流記』みたいに、冒険の一部始終を記録しておけば、いつか誰かの役に立てるかもしれない。そんな気持ちで書いた一冊です。

ぜひ、平穏無事なうちにチラッと読んでおいていただいて、うっかり大ピンチのターン! がやって来た際には「そういえば、あの本に確かヒントがあったような……」と思い出していただけたら、さらにうれしさ倍増です。

(聞き手:ウートピ編集部・堀池沙知子)

情報元リンク: ウートピ
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