新型コロナ危機で、予防として重要なことは「免疫力の向上」と言われ、免疫の情報に注目が集まっています。もっとも、免疫とは以前から、風邪やインフルエンザ、ノロウイルス、ヘルペス、肺炎など感染症をはじめ、花粉症や動物アレルギーなど各種のアレルギー疾患、また糖尿病やがんなどの生活習慣病と関係が深いことは常々言われてきました。
しかし免疫とは何か、その実態は何なのか、脳や体のどこにどんなふうに存在するのか、また「免疫力を高めよう」という言葉をよく耳にするけれどそれは実際に可能なのか、自律神経と関係があると聞くけれど本当なのか、どうすれば免疫力を高めることができるのか、知らず知らずのうちにNGなことをしていないか……、疑問がよぎります。
そこで、いまこそ免疫について理解を深めたく、感染症や免疫について詳しい耳鼻咽喉科・気管食道科専門医でとおやま耳鼻咽喉科(大阪市都島区)の遠山祐司院長に連載でお話しを聞きます。
今回・第1回では、いまさら聞けない、免疫って何? 免疫力とは? 体のどこでどう働いているの? などについて尋ねます。
免疫とは外敵から体を守るしくみ
——そもそも「免疫」とはどういうものなのでしょうか。
遠山医師:免疫とは、ヒトの体に備わっている、ウイルスや細菌などの病原体や有害物質などの外敵から体を守るしくみのことです。生物は体外の異物に常にさらされています。免疫はその異物が体内に侵入するのを防ぎ、また入った場合には体内から取り除こうとする生体の防御システムのひとつで、誰もが生まれながらにして持っています。
我々の体には、ウイルスや細菌が体に侵入してくると、「これは自分とは違うものだ。病原体や毒素だ」と察知する働きがあります。「自分の細胞やタンパク質」と、「そうではないもの」を識別するわけです。医学の用語では、前者を「自己」、後者を「非自己」と呼んでいます。免疫は、非自己を外敵とみなして排除するシステムと言えます。
免疫の「免」は「まぬがれる」という意味で、「疫」は「疫病・流行り病」を示すので、免疫とは「疫病からまぬがれる」という意味合いになります。
——文字通りの意味ということですね。風邪をひいたときには「免疫が下がっていたのかも」などと言います。
遠山医師:風邪は外敵であるウイルスに感染して発症します。免疫が高まっているときの体はウイルスを侵入させない、また侵入してきても排除しやすいのですが、低下しているときはその逆になり、ウイルス排除のしくみがうまく働かずに風邪をひくことがあります。
また、風邪をひいたときは数日安静にしていれば治るでしょう。これは免疫のしくみが風邪のウイルスを退治することができたからです。いつまでも長引く、こじれるなどしたときは免疫のしくみがウイルスを退治しきれていないのです。
さらに、同じ環境にいても、風邪をひく人とひかない人がいますが、それには免疫の状態が関係しているでしょう。
——「免疫力」の差、ということでしょうか。
遠山医師:そうです。ただし、免疫力という言葉は実は医学用語にはありません。女子力といった表現があるように、免疫のありようを免疫力と呼ぶと、一般にイメージがしやすい、話がわかりやすいから使われているのでしょう。
外敵から体を守るしくみがうまく働いているときは「免疫力が高い」と言い、逆に、ウイルスや細菌に侵入されて病気を発症するような状態を「免疫力が低下している」などと表現することが多いようです。
免疫の第一段階は「皮膚」と「粘膜」
——では、免疫のしくみとはいったい、体のどの部分でどのように働いているのでしょうか。
遠山医師:免疫には大きくとらえて、「自然免疫」と「獲得免疫」があります。これは医学用語ですが、最近は一般向きメディアでもよく使われており、免疫を理解するうえで重要なキーワードとなります。まず、自然免疫から考えていきましょう。
自然免疫のしくみは、数段階に分かかれます。第一の防衛システムは、外敵である病原体や、花粉やほこりなどの異物を体内に入りこませないための働きです。
そのように働く具体的な部位や組織はどこだと思いますか? そう、全身の皮膚(ふ)と、鼻や口、胃、腸など消化管、のどや気管支、肺など気管の粘膜です。
——それは興味深いです。意識をしたことがなかったのですが、まず、皮膚は免疫としてどのように働いているのでしょうか。
遠山医師:皮膚の表面が角質層で覆われていることはよく耳にするでしょう。皮膚は、体表から病原体などの外敵が侵入することを物理的に防ぐバリアになっているのです。
角質層には、ケラチンという繊維状のタンパク質が含まれています。ケラチンはツメや毛髪の成分でもあり、皮膚に強度を与えて傷をつきにくくしています。
また皮膚のもうひとつの働きにも注目してください。皮脂腺や汗腺があって、皮脂と汗を分泌しています。皮脂は皮膚を弱酸性に保って細菌の繁殖を防ぐ、また水分の蒸散を防いで保湿の役割を果たしています。
さらに、汗に含まれる酵素のリゾチームは細菌の細胞壁を分解し、ディフェンシングというタンパク質は細菌の細胞膜を破壊します。汗は細菌をやっつけているわけです。このように皮膚は、分泌物で化学的に体を防御するようにも働いています。
また、よく知られている汗の役割のひとつとして、暑いときに汗が出るのは、水分を蒸発させて体の熱を奪い、体温を一定に保つためということがあります。これは免疫の働きではありませんが、免疫のシステムが正常に働くようにする自律神経の働きと考えられます。
——皮脂や汗は免疫システムの重要は要素なのですね。うっとうしいとしか思ったことがなかったのですが、考えを改めます。
聞き手によるまとめ
免疫とは外敵から体を守るシステムのことであり、自分と自分以外のものを察知すること、免疫力とは免疫のしくみのありようを指すこと、また自然免疫と呼ぶしくみとして、外敵から体を防衛するための第一段階で皮膚や粘膜が働いていること、皮脂には物理的なバリア機能と、分泌物による化学的なブロック機能が備わっているということです。
次回・第2回では、もうひとつの第一防衛システムである「粘膜」の働きについて詳しく伺います。
(構成・取材・文 品川 緑/ユンブル)
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情報元リンク: ウートピ
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