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いつもリミットを感じていた彼女が「笑い」に救われた瞬間【はらだ有彩・大木亜希子】

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昔話に登場する女の子とガールズトークを繰り広げる話題作『日本のヤバい女の子 静かなる抵抗』(柏書房)の著者・はらだ有彩さん、『アイドル、やめました。AKB48 のセカンドキャリア』(宝島社)、『人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした』が注目を集める大木亜希子さん。

昔話に登場する女の子と、現代を生きる女の子。それぞれに寄り添ってきたふたりの、初対面とは思えないほど盛り上がった対談を全5回にわたってお届けします。

19歳、自分を「ババア」だと思っていた

——前回、石になって抵抗した佐用姫の話が出ましたが、大木さんも佐用姫に思うところがあるそうですね。 

大木:はい。私は会社員になって3年目のある日に、営業先へ行く地下鉄に乗ろうとしたら足が一歩も動かなくなりました。まさに石化したんです。それは何かに抵抗というより、身体の緊急レスキュースイッチが作動したという感じで。なんとか這うように改札を出て、生まれて初めて心療内科の門を叩きました。

——そこまで積み重なったものって何だったんですか?

大木:ずっと自分の中にリミットがあって、それがすごくプレッシャーになっていたんだと気づきました。私は、14歳から女優活動をしていたのですが、19歳のときには自分はもうババアだと思っていたんですよね。

はらだ:19歳で?

大木:はい。なぜかというと、朝ドラのオーディションに通りにくくなるんですよ。尾野真千子さんや安藤サクラさん、戸田恵梨香さんのように大人で朝ドラのヒロインを務める方もいらっしゃいますけど……。19歳って学園ドラマも難しくなるので、私にとっては一つのリミットでした。その一つ目の関門を突破できなかったな……と思っていたときに、SDN48というグループでアイドルのチャンスを掴みましたが、そこにもリミットを感じていて。

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緊張が突き抜けて笑いにたどり着く

——それは確かに意識せざるを得ないのかも。ちょっと特殊なシチュエーションではありますが。

大木:SDN48を卒業してからも「元アイドル」を手放せない自分もいたし、周りからもそのような振る舞いを求められているような気がして、生きづらさがありました。でも『静かなる抵抗』に出てくる、尻を出した姫*の話とか。よくわからないけど、「よっしゃ、いっちょ着物でもまくってみよう!」みたいな。最後にユーモアで締めるのは潔くていいなと思いました。

*CASE STUDY 15『下ネタとヤバい女の子』に登場する尻を出した娘(鬼が笑う)

私は駅のホームで動けなくなって、会社も辞めた。そこから「赤の他人のおっさん」ことササポンと同居するようになって、そのことを書いたらみんなが「めっちゃウケる」と言ってくれた。お笑いの基本の「緊張と緩和」で笑わせるのではなくて、緊張が突き抜けて笑いにたどり着く、みたいな瞬間ってきっとあると思うんですよね。そんなユーモアが現代を生きる女の子たちに必要なんじゃないかな。

——怒ることと同じくらい、笑いも大切にしたいですよね。

大木:はい。今って、フェミニズムやジェンダーの問題が頻繁に話題にのぼりますよね。それ自体はすごく有意義なことだと思うし、生きていくうえで大切なことだと思うんです。私も勉強しなければと思うのですが、自問自答を続けたり、苦しみを抱え続けたりしたら、笑いに逃げ場を求めてもいいと思うんです。一時避難所みたいに。はらださんのように素敵なツッコミを入れてみたりして。

はらだ:私、大学一年生のときに、ツッコミすぎてぶっ倒れて寝込んだ歴史があります(笑)。

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一同:なにそれ!(笑)。

はらだ:みんなが好き勝手ボケるので、「なんでやねん」ってひとつひとつ拾っていたら疲労が蓄積されたようで。体調が悪いなと思って病院に行ったら、「過労です。よく休んでください」と言われました。でも回復してまたやるっていう。

大木:ツッコミに命かけてる!

自分の経験切り売り問題

大木:はらださんは、いろんな日本の女の子をサンプルにしてご自身の視点も交えつつ書いていますよね。私はまず自分があって、自分が語り部も担うというスタイル。けれどあるとき業界の先輩に「自分の身を切り売りしてすごいね」と言われてモヤっとして……。

——女性ライターが「自分の経験を切り売りしていると見られがち問題」ってありますよね。

はらだ:大木さんが語り部をできるのは、ご自身もアイドルの経験があって、手の内を見せられるからですよね。私の場合は、あまり自分の内側にストックがなくて、人の話を聞いたり、調べたりして初めて自分の中に溜まっていくような感覚。大木さんが自分もサンプルの一つでありながら語り部も務めるというのは、意義深いことでもあるし、しんどいことでもあるだろうなと思います。

大木:慮っていただいて(涙)。私生活について「切り売り」なんてしているつもりはないのに、彼らは何を見てそんなことを言うんだろうと、モヤモヤがいつしかマグマのような怒りに変わってしまうことも以前はありました。今は、そういう意見も受け入れていますが。

はらだ:「切り売り」という表現を使うのは減ると思っているからでは? 切って売る。減るというのは何か貯蓄で回していると思っているからだと思います。

大木:なるほど。使ってしまったら、なくなるものだと思っているんですね。

はらだ:その「貯蓄」が何かといったらおそらく、「アイドルの経験をこねくり回してやっているんでしょ、手垢つけすぎないようにね」ということではないでしょうか。なぜそうなるかというと、アイドルを辞めた後の日常で得たものを軽んじているから

アイドルを辞めた後の日々にも価値があると思っていたら、減るどころか増えていくじゃないですか。生きている限り。でもその彼らは、——あえて乱暴な言葉を使いますけど——「女のピークがあって、そこまでの貯金でやっているんでしょ」と考えているのではないかと……。

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——そういう人にはどう抵抗してやりましょうか(悪い顔で)。

はらだ:私のオススメの抵抗法は……。

大木:抵抗ソムリエみたいになってる(笑)。

はらだ:『静かなる抵抗』の第1章に登場する、何を言われても動じない鬼が大好きなオタクのおばあさん。このパターンで行くのがいいと思います。彼女は「鬼の信仰をやめなければ、地獄に落としますよ」と言われても、鬼が大好きだからむしろ「地獄、超ハッピー☆」みたいな感じで。罰だと思って与えていることが全然刺さっていなくて、むしろすごく楽しそうという仕返しをしたいですね。

大木:それは正しい抵抗かも!

第4回は2月17日(月)公開予定です。
(構成:安次富陽子、撮影:面川雄大)

情報元リンク: ウートピ
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