雑誌やネットのニュースを見ると「モテるためのテク」「愛される女性になるために」「結婚できる女の条件」など、恋愛テクにまつわる記事やコラムが毎日のように掲載されていますが、「セックス」に関してもマニュアル化、定番化が進んでいるようです。
元AV女優で現在はソープ嬢として活動する長谷川瞳(はせがわ・ひとみ)さんの初の単行本『ヒアリングセックス』(角川書店)が10月19日に発売されました。
6000人以上の人と体を重ねてきたという長谷川さんは元“中の人”として「AVで描かれるセックスが多くの方に思い込みや偏った認識を与えてしまっている。本当にいいセックスをできなくさせている“元凶”」と言い切ります。
AVで描かれるセックスの思い込みって何? 本当にいいセックスってどんなセックス? 長谷川さんに3回にわたってお話を伺いました。
「AVの罪」って?
——『ヒアリングセックス』の表紙をめくると「はじめに——贖罪を果たすための本書」と書かれています。「贖罪(しょくざい)」という言葉に目を奪われたのですが、この本を書こうと思ったきっかけを教えてください。
今、ソープで働いているのですが、AVを見て育った世代の方がお客様としてだんだんいらっしゃるようになってきたんですね。その中で、「セックスはこうすればいいんだ」とワンパターン化しているというのに気付いてしまって……。
それで、「これはどうにかせなアカンな」と思っていたところにKADOKAWAの方に声をかけていただきました。私自身も贖罪をしなければという気持ちがずっとあったので、今考えていることや持っている知識を詰め込んでみようかなと思って書きました。
——AVを見て育った世代というのは?
年齢としては幅が広いのですが、「潮吹き」や「イマラチオ」など、普段では成し得ないセックスのプレイをしたがる方が多いんです。それがいいと思っていらっしゃるんですね。女性への愛撫にしても、すぐにイクものだと思っちゃっている。実際は違うのだけれど、女の子も男の人の期待に応えたいから、イク振りをしちゃう。
そうすると、結局お互いによい関係を築けないまま終わってしまう。お互いに話し合って、どこが気持ちいいかというのを伝え合うことが一番大事なんじゃないかな、と思ったのがこの本を書いた強い動機です。
——AVを見る側は「こういうのがセックスだ」と思い込んでしまう。セックスのテクや定番化したプレイを広めてしまったことを「罪」とおっしゃっているのですね。
映画やドラマと一緒で、AVはパフォーマンスだし、ファンタジーなんです。もちろん、ドキュメンタリー作品もあるんですけれど、基本的には台本があって、撮影ではきちんと避妊具も着用しているし、「ゴックン生」「中出し」も疑似なんです。もちろん性病の検査もしています。
ただ、そこの部分が一般的に知られていないので、「中出しは当たり前なんだ!」と思って実践してしまうと危ないですよね。そういうこともちゃんと伝えたいなと思いました。
セックスはコミュニケーション
——極端かもしれませんが、「特撮ものやアクション映画と一緒だよ」ってことですね。さすがに人間は空を飛ばないし、火は吹かないでしょって。では、本当のいいセックスってどんなセックスなのでしょうか?
本でも繰り返し書いたのですが、やっぱりコミュニケーションそのものだと思います。
例えば、すごいテクニックを持っている人とヤッたとしても、おそらく表向きのイクというのはできるとは思うんですけど、すぐ忘れちゃう。「あのエッチよかったな~」と思い出さない。
でも、お互いにコミュニケーションを取るようになって、だんだん心を開いていってからのセックスって、すごく残ると思うんですね。それが、たとえ過去のものになったとしても、「あのときのセックスはよかったな。忘れられないな」と思い出せるものって、2人の間にちゃんとコミュニケーションがあったものだけだって。
——確かにそうだと思います。とすると、お互いにコミュニケーションができていないよね、ってことになりますね?
コミュニケーションができてないというか、コミュニケーションの仕方が下手になっちゃった。AVが簡単に見られる時代になって「セックスはこういうもの」という情報はすぐに入る代わりに想像力を働かせる余地が少なくなったのかなって。
昔はエロ本をこっそり買いに行ったり、「この女優さんはどんな私生活をしているのだろうか?」と想像力をフル稼働させたりしていたわけですよね。いざセックスするときも「こうするのかな?」「ああやればいいのかな?」と試行錯誤でやっていたと思うんです。
今は、「手っ取り早く抜きさししている場面があればいい」と、情報だけを詰め込んで頭でっかちになってしまっている気がします。女性も嫌われたくないからイッた振りをしてしまって女子会で「もう彼との体の相性が悪くて……」と愚痴を言うだけになってしまう。
——目の前の相手を見ていないで頭の中の相手としているということですよね?
そうです、お互いを見ないで得意技を披露しあおうぜ! みたいな。
——オナニーと一緒ということ?
一緒ですね。
——コミュニケーションとして考えれば、すごく気が合う人と会ったり、話したりしたときってすごくうれしいし、別れて帰った後も「あー、楽しかった」ってニヤニヤしちゃいますよね。セックスもそれと同じってことですか?
そうです。「この人はここが気持ちいいんだ」という発見もあって楽しいから、終わった後もおしゃべりしたり、話し合ったりして……。
——「自分はここが気持ちいい」と相手に伝えることも大事ですよね。
大事ですね。「ここは痛い」というのも伝えないといけない。我慢したままヤッてたら、その人自身のこともあまり好きじゃなくなっちゃいますよね。それってすごくもったいないことだなって。
男性も「フェラで歯が当たってて痛いな」と思ったら言ってほしい。「こいつフェラ下手だな」で終わるんじゃなくて。せっかく出会って、セックスするまできたんだから、いいセックスをしたいですよね。
よく「無駄撃ち」ということも言われるけれど、絶対「無駄撃ち」をしないで済んだ方法があったはずなんです。
——人間関係を築いていくのと一緒で「こうしたい」というのは相手に伝えなければいけないということですね。
そうですね、どこかセックスを特別視してしまっているところがあると思うのですが、コミュニケーションの一つだし、普通の人間関係と一緒だと思います。ちがいは裸になるかどうかだけで。
(聞き手:ウートピ編集部・堀池沙知子、写真:宇高尚弘/HEADS)
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情報元リンク: ウートピ
いつの間にか「こうしなきゃ」「フリをしなきゃ」と思ってる…本当にいいセックスって何?