8月21日、日本シネアーツ試写室(東京都新宿区)にて、映画『おしえて!ドクター・ルース』と、「iroha*」のコラボレーションイベントが開催されました。
*株式会社TENGA発の女性向けセルフプレジャーアイテムブランド
イベントには、社会学者の田中俊之さん、iroha広報の西野芙美さんが登場。「男/女らしさ」が性生活に与える影響について語りました。イベントの様子を前後編でお届けします。
後編ではジェンダーロールを超えて、自分たちらしいセックスを作るためのヒントについて語り合いました。
男はあえがせる側?
西野:男性が幼少期から“男らしさ”を意識するように育てられることで、自分の感情に気づきにくくなってしまう。その結果コミュニケーションに問題が生じるのは悲しいことですね。私たちのプロダクトは性のことを扱っているので、男女からさまざまな男性の話を聞くのですが、“男らしさ”に囚われているのかなと思うのが、セックス中に絶対にあえぎ声を出せない男性が多いこと。
声を出したくないとか、全然出ないというよりは、すごくこらえているようなんです。要するに、「ベッドで可愛い声を出すのは男らしくない」と思っている。
田中:それもあるでしょうし、男性はあえがせる側だと思っているわけですよね。自分はセックスをコントロールする側だと。つまり、勃起、挿入、射精までを、一通り「俺がうまくやり遂げる!」と。
僕としては、男性がもっと受け身になったらいいなと思うんです。される側にも回って見たらどうかね、と。ロールモデルがなかなかないから難しいのかもしれないけど。
西野:そうですね。ルースが80年代のアメリカで受けていた質問、「早漏はダメなのか」「男性のサイズは大きい方がいいのか」「バイブレーターを使ってもいいのか」とかって、もうすぐ2020年になる今でも聞かれるんですよ。
時代が変わっても何も変わっていないのかなって、残念な気持ちにもなりつつ、これって結局ジェンダーロールというものが、性生活に影響を及ぼしているのではないかと思うんです。
田中:日本はアメリカに比べると2、30年いろんなものが遅れているとよく言われますよね。その観点から考えると、西野さんの今の指摘は面白い。映画では過去の話として出てきたようなことが、日本ではまだはばかられるレベル。そもそも日本では女性器を公に言ってはいけない風潮がありますよね。
うちの息子の話ですが、彼は「パパ、女の子っておちんちんのないほうだよね」って言うんですよ。「僕はおちんちんあるよ!」って自信満々で言ったりもする。いかにも、「俺はあるけど、女ってのはない側なんだろ」という感じで。
西野:そんなときどうするんですか?
田中:「いや、違うよ。女性にはおまんこがあるんだよ」って言えばいいんですけど、ちょっと考えてしまうんですよね。たとえば、保育園で息子が女性の先生に「おまんこついてるの?」って言い出したらちょっと……。もう登園させないでくださいって話にもなりかねないですよね。日本の場合だとそのくらいの破壊力がある(苦笑)。
「まんこ」がゲシュタルト崩壊した日
西野:私は以前、出版社に勤めていたのですが、そのときに女性器についての本を扱う機会がありました。最初はみんなもじもじしながら「ま、まんこ……」と言うんですけれど、会議をしているとその間に何十回も言い続けるわけです。すると、まんこがゲシュタルト崩壊して(笑)。みんな平気で言えるようになっていましたね。
おおっぴらにしてはいけないというような社会的な規範はあるかもしれないけど、結局3文字の単語でしかない。そう考えると、また違うものが見えてくるのではないでしょうか。
田中:irohaのものづくりにも通じるところがありそうですね。
西野:そうですね。私たちがirohaを作るときに大事にしているのが、恐怖感を与えないこと。たとえば触感。この柔らかさは、肌の延長線にあるようなイメージで作っています。
田中:赤ちゃんの肌みたいですよね。
西野:プニプニもちもちなんです。これまでのグッズは「男性が女性に使って楽しいもの」が多い傾向にありました。派手な色合いで、ムダに光るとか、回るとか、ジョークアイテムのような。でもそうではなくて、女性が自分の身体を喜ばせるために使えるものが必要だと誕生したのがirohaです。
田中:女性が使ってみたいと思えるっていいですよね。それも、恋愛や性のいいところだと思います。社会が変わらなくても、自分たちで乗り越えていける。ルースも言っていましたよね。「寝室の中ではお互いの同意があれば何をやってもいいんだ」と。それは本当にその通りだなと思いました。その点では、社会が変わるのを待つ必要はないわけですから。
自分たちのセックスを作るって?
西野:もっとコミュニケーションをとって、自分たちのセックスを作っていけばいいんじゃないかと思います。
田中:僕も同意です。ただ、大学生に性についての聞き取り調査を行うと、その前段階でつまずいているなという気がして。
西野:前段階でつまずくとは?
田中:たとえば、保健体育で、セックスの授業がありますよね。そのときに、先生がニヤニヤしながらやっていたとか、そのページは飛ばされたとか。そういう話が出てくるんです。その子たちがいい性教育を受けたか受けないかって、結局、保健の先生のパーソナリティによりけりになってしまうんですよね。
やっぱり、大人が恥ずかしそうにしていたら、子ども達はそう学びます。「これは恥ずかしいことなんだ。おおっぴらにやっちゃいけないことなんだ」って。
西野:そうですね。
田中:自分たちのセックスを作るって素晴らしいことなんだけど、その前にそもそもセックスはどういうものか、正面を切って教育しないと結局、伝聞になってしまいます。あらゆる妄想というのは許されているわけだから、AVだってファンタジーとして楽しむのはいい。だけれども、パートナーとするということになれば同意が必要になりますよね。
西野:ファンタジーと現実は全然違うと認識することは大事。男女ではなく人間として性と向き合うために大事なところも、そこに関わってくると思います。
結局、AVを手本にしてしまうと、そこでは射精がゴールだし、女性はたくさんあえぐし、すごく淫らなポーズをしてくれる。その手順どおりにすれば、安心だと思う人は少なくないと思います。
だけど、そこから一歩出て、想定外も受容できるようになることが、性を楽しむために大事なことなのではないでしょうか。それが自分たちらしいセックスを作ることだと思うし、そのためには教育も必要なんだと思います。
田中:AVを「これが正解」と思い込んでしまうのは危ないですよね。結局、「いい男」と巡り会えるのかってことがカギになります。けれども、その望みがあまり高くないとするならば……。やはり、教育をしていかないといけない。だから、この映画をパートナーと一緒に観て、性についてオープンに話すきっかけにするといいのではないでしょうか。
■新刊情報
2019年7月20日に田中俊之先生の新刊が発売されました。男子が10代のうちに考えておきたいこと (岩波ジュニア新書)
(構成:安次富陽子)
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情報元リンク: ウートピ
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