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『AV女優ちゃん』は、「遠い国の話」だと思いたかった物語だ【三宅香帆】

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2019年から「週刊SPA!」で連載中の『AV女優ちゃん』。2020年12月に単行本、第1巻が発売されました。本書は、漫画家の峰なゆかさんがAV女優として活動していた経験を元に、出演者側から見た業界の話や男女の生きづらさなどを描く、半自伝的漫画です。

「心が重くなるけどすごい漫画」だと話す、書評家の三宅香帆さんに寄稿していただきました。

危険な世界を覗き見ようとしたら…

『AV女優ちゃん』というタイトルだけ見たり、「昔AVに出ていた作者が描く、自伝的エッセイ漫画!」なんて概要だけ聞いたりすると、どんな過激な、遠い国の話なんだろう、と期待してしまう自分がどこかにいる。ある種、危険な世界を覗き見したいような気持ちで手を伸ばす。下世話な野次馬根性が働かないといえば嘘になる。

しかし読むと分かる。これは遠い国の話なんかじゃなくて、私が遠い国の話だと思いたかった物語だ。

本書は、『アラサーちゃん』の作者で、元AV女優の峰なゆかさんが、AV業界の裏話や自分の半生を振り返ったエピソードを中心に描くエッセイ漫画だ。

サイン会の様子を通してひとびとの弱者を虐げたい欲望を見出したり、自分がいた高校を描きつつ避妊の重要性を説く声が届かない同級生をすくいあげたりと、現実のエピソードから社会構造を描き出す手つきが特徴的である。

「AV女優」に過度な主体性を見出したい私たち

本書にこのようなエピソードが登場する。AVに出演する女の子のなかでは、「素人」……つまりはこないだまで普通に暮らして彼氏や家族以外に下着姿を見せたこともない女の子だったこと、が、いちばん人気の条件らしい。ではそんな女の子をどうやって出演にまで至らせるのか? 街を歩く女性のなかで、出演してくれそうな人をどうやって見つけるのか? 

スカウトする人は、都会に来たばかりで、頼れる人や相談できる人がいない若い女の子を狙うのだという。

「スカウトマンにとって最も都合がいいのは/田舎から上京してきたばかりで学校に行ってない/定職にも就いていない/彼氏や友達など相談できる相手がいなくて孤立している女だ」(『AV女優ちゃん』より)

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私たちはつい、AVに出演する女性に対して「彼女たちは好きで仕事をしているんだろう」「自分で覚悟してこの職業に就いているんだから、職業差別をするのはよくない」と、過度な主体性を見出してしまう。

しかし現実はそんなことはない。先の人生を見据えた覚悟なんて、できるわけがないのだ。出演を迷う時間すら与えられず、騙されたり誘導されたりして、出演することになってしまった人がたくさんいる。ふらっと流され、お金がないままにその場で契約してしまった女性たち。『AV女優ちゃん』は、そんな彼女たちの境遇と、その境遇をもたらした社会構造を描く。

友達がいることがそもそも贅沢

AV女優という職業を差別しないことと、彼女たちの主体性に幻想を抱かないことは、当然のことだが両立する。彼女たちについて、「お金がなくて無理やり出演させられてしまって……!」と悲劇の物語に回収することも、「ものすごく稼いでキラキラしている……!」と過度なアイドル性を見出してしまうことも、どちらも物語としては強いけれど、私たちが抱く幻想にすぎない。勝手にフィクションを見出してしまう観客側は、彼女たちが流されるがままに出演してしまうことを知らずにいていいんだろうか……と本書を読むと、思う。

たとえば現在、以前よりもずっと、田舎から都会に出てきた若者が孤立しやすくなっているように思える。

友達関係を維持するには、お金と時間が必要だ。カフェに行くにも、飲み会をするにも、お金がかかる。そして昔のように会社が家族のように守ってくれる時代でもない。だとすれば、都会で孤立した人たちの孤独は、どこで癒されるんだろう? ——そこに付け込んでくる人は、あちこちにたくさんいるのに。

『AV女優ちゃん』を読んで、そのスカウトやばいよって止めてくれる女友達がいたらどんなに違っただろうと思ってしまうけれど、友達がいることがそもそも贅沢なのだ。

私たちは自分で思うより孤独に弱い

もちろん友達がたくさんいることだけが正義ではないし、彼らがかならず正しい道に引き戻してくれるとも限らない。だけど一方で、私たちは孤独に弱いことを、私たち自身もっと知ったほうがいいのかもしれない。孤独でいることが、自分ひとりで生きて都会で家賃や食費を払って生きようとすることが、望まないAV出演のタイミングを増やすリスクになる。こんな悲しいことあるだろうか、と感じてしまう。

巻末に、フェミニストで英文学者の田嶋陽子さんと峰さんの対談が掲載されている。中には「性産業は貧困女性のセーフティネットになっているのでは」という議論も取り上げられている。しかし本書を読む限り、セーフティネットと呼ぶべきぎりぎりのラインよりはるかに手前の段階で、出演への勧誘はおこなわれているように思える。つまり、彼女たちは想像よりずっとハードル低く、簡単に、検討の時間を与えられずに出演を決めているのかも……と感じてしまうのだ。

それは自己責任なんて言葉じゃすまされない、都会で孤立せざるをえない女性たちを取り巻く社会のガワに問題がある話じゃないんだろうか。『AV女優ちゃん』を読むと、そんな問いと、出会う。心が重くなるけど、これは私たちのすぐ隣にある話なのだった。

(三宅香帆)

情報元リンク: ウートピ
『AV女優ちゃん』は、「遠い国の話」だと思いたかった物語だ【三宅香帆】

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