俳優の成田凌さんと黒木華さんが出演する朗読劇『湯布院奇行』が9月28日から「新国立劇場 中劇場」(東京都渋谷区)で上演されます。原作は『ボクたちはみんな大人になれなかった』で小説家デビューを果たした燃え殻さんで、演出を務めるのは、ロングランヒットとなった映画『花束みたいな恋をした』の土井裕泰(どい・のぶひろ)監督(57)。
初の舞台演出に挑戦する土井さんにお話を伺いました。前後編。
キラキラした世界の陰にいる…燃え殻さんにシンパシー
——『湯布院奇行』の原作は燃え殻さんの書き下ろし小説です。なぜ土井さんが演出を手がけることになったのか経緯をお聞かせください。
土井裕泰さん(以下、土井):今年の春頃、TBSの若いプロデューサーから「朗読劇をやることになったので読んでみてくれませんか」と、燃え殻さんの原作を渡されたのがきっかけです。実は、去年のステイホーム期間中に燃え殻さんの小説『ボクたちはみんな大人になれなかった』を家でたまたま読み、シンパシーを感じるものがあったんです。なので、まず燃え殻さんの小説と聞いてとても興味が湧きました。
いざ読んでみたら、僕らが普段やっているものとは全然違うテイストのもので、燃え殻さんがこれまで書いてきたエッセイや小説とも違う、ある種の幻想文学といった肌触りのものでした。自分自身はここ数年間、映画とドラマの世界を行ったり来たりしていて、もっと自分の可能性を広げたいという気持ちが強くなっていたところでもあったので、「舞台」という初めてのジャンルですが思い切って挑戦してみようと思いました。
——燃え殻さんのどんな部分にシンパシーを感じたのですか?
土井:燃え殻さんは年代としては10歳ほど下なのですが、放送業界で働いている同志というか、ある意味キラキラした世界を裏側から見つめている人間のリアルな感覚や、今自分がいる世界に対する違和感みたいなものを感じられるところですね。そして、僕が去年撮った『花束みたいな恋をした』という映画と、『ボクたちはみんな大人になれなかった』という小説は描こうとしている根っこの部分が近いとも思いました。
——朗読劇『湯布院奇行』はどんな舞台になりそうでしょうか?
土井:なかなか読み解くのが難しい原作で、現実から浮いたような幻想的な世界を描いているのですが、実はベースにあるのは現代人が無意識に抱えてしまっている悩みなんですよね。SNSを通じて常に誰かから監視されているような息苦しさというか、他者からの視線の中で自分というものを演じなければいけないような、今を生きる私たちが抱えているストレスと主人公である作家の「私」が抱えている鬱屈はリンクしているんです。
燃え殻さんとお会いして、いろいろ話していく中で少しずつ原作にアプローチできているとは思いますが、それでもまだまだすべてを読み解けたとは思えない。ある意味、とても骨の折れる原作です(笑)
成田凌と黒木華に期待すること
——出演者の成田さんと黒木さんに期待していることは?
土井:成田さんは数年前にご一緒したことがあるのですが、去年から今年にかけて映画を見にいくと、ものすごい確率で彼をスクリーンで見る機会が多くて、いま時代に求められている人なのだなあと思っていました。人間のグレイな部分を表現できることこそが彼が持つ現代性だし、持って生まれたアンニュイな雰囲気がこの作品にぴったり合うと思います。実は彼が演じる作家の「私」は、原作ではもっと年齢が上の設定なのですが、成田さん自身が持っている空気で成立すると思ったので、登場人物への年齢設定にはこだわらなくなりました。
黒木さんはドラマ『重版出来!』や『凪のお暇』でご一緒しています。今回は実体があるようなないような役でしかも何役も演じ分けなければならない難しい役なので、この役は黒木さんにしかできないと思い、オファーしました。彼女も人間のいろいろな面を演じられる俳優だと信頼していますし、何より黒木さん自身が僕にとってはとてもミステリアスな存在なんです。
観客の想像力に訴えるのが朗読劇の面白さ
——稽古はこれからだそうですね。
土井:そうです。朗読劇は俳優が発した声によって、観客が世界を想像していくものだと思うのですが、僕はずっと映像をやってきた人間なので、どうしても脚本を読むと人間が動き出してしまうんです。だからこそ、彼らの朗読という「声」がお客さんの想像力に訴えていく世界にどう変換していくのか楽しみです。劇場も新国立劇場の中劇場で、比較的大きな劇場なのですが、その空間をどう使っていくのか…それも大きな課題ですね。
——最後にこの記事を読んでくれている人たちへのメッセージをお願いします。
土井:燃え殻さんの紡ぎだした世界と、成田さん、黒木さん、そして歌唱で参加してくれるコムアイさんたちとの間でどんな化学反応が起きるのかを”目撃”しに、ぜひ劇場に足をお運びいただければと思っています。
朗読劇『湯布院奇行』は9月28〜30日、「新国立劇場 中劇場」で上演。チケットは7,500円(税込、全席指定)で発売中。
■上演情報
タイトル:朗読劇『湯布院奇行』
公演日:2021年9月28日(火)19時、9月29日(水)14時/19時、9月30日(木)14時
出演 :成田凌、黒木華
歌唱:コムアイ
原作 :燃え殻
脚本 :佐藤佐吉
演出 :土井裕泰
Youtube特別企画:成田凌×燃え殻 特別対談其の壱 朗読劇「湯布院奇行」
※後編は9月4日(土)正午公開です。
(聞き手:ウートピ編集部・堀池沙知子)
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情報元リンク: ウートピ
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