Netflixで配信中の大人気韓国ドラマ『梨泰院クラス』。『愛の不時着』と人気を2分し、今でもNetflixの”今日の総合TOP10”の常連となっている。
ストーリーは王道のサクセスストーリーに復讐劇と恋愛ドラマが絡む濃厚なもの。少年マンガと青年マンガと少女マンガが石焼ビビンパのように渾然一体となったドラマと考えるとわかりやすい。
ロマンチックコメディの要素が強い『愛の不時着』と比べると、ビジネスの要素が強いのも特徴で、挿入歌の「Start」を毎朝爆音で聴いてから仕事に向かうとテンションが上がっていいと言う人もいる(筆者調べ)。そこで、ここでは『梨泰院クラス』から取り入れたくなる「仕事術」をピックアップして紹介したい。
その1 パク・セロイの目標の叶え方
主人公はイガグリ頭の青年、パク・セロイ(パク・ソジュン)。韓国1位のシェアを誇る外食チェーン「長家」グループの長男、グンウォン(アン・ボヒョン)がクラスで陰湿ないじめを繰り返しているところをブン殴って高校を退学に。その上、愛する父をひき逃げで殺し、身代わりを立ててトンズラしようとしたグンウォンを再度ブン殴って刑務所行き。そして理不尽にもグンウォンの父で「長家」グループ会長のチャン・デヒ(ユ・ジェミョン)から土下座での謝罪を要求される。なんでだよ!
過酷な運命を背負ったセロイが選んだ道は自分も店を出して外食業界で1位になり、長家グループを叩き潰すこと。だが、そのひき逃げ事件がきっかけとなり中卒の前科者となったセロイが、日本よりも厳しい学歴社会の韓国で成功を収めるのはとても厳しい道のりだ。
大切なのは目標を定めて、それに向かって一歩ずつ進んでいくこと。セロイは刑務所で出会ったスングォン(リュ・ギンス)にこう啖呵を切る。
「勉強、肉体労働、船乗り、そこから始めるさ。何だってやる。価値は自分で決める。俺の人生はこれからだ。必ず成功してやる!」
実際にセロイは出所後、7年もかけて貯金をして最初の店「タンバム」を出す。セロイの躍進ぶりを耳にしたチャン会長も「目標が確かなら成長する」と認めたほど。ロングスパンの目標でも「信念と気合い」(これをセロイのモットー)を持って少しずつ前進していきたい。
とはいえ、ビジネスは気持ちの熱さだけではなく冷静さも必要になる。小さな店でガムシャラに働くだけでは業界1位になんてなれっこない。大きな視点で自分と目標の距離を測ったときにセロイが出した答えが「投資」だった。セロイは高校時代の同級生で優秀なファンドマネジャーのイ・ホジン(イ・ダウィット)と組んで、父の保険金を原資にして長家グループの株を大量に購入。これが後々、大切な切り札になる。「ケンカは先制パンチが大事だ。しかも、背中を狙う」と語ったように、セロイは意外と策略家なのである。
大きな目標をかなえるためのもっとも大切な方法は、同じ目標を共有し、信頼し合える仲間を作ること。セロイは自分を嘲笑うチャン会長にこう言う。
「真の強さとは人から生まれます。みんなの信頼が僕を強固にしてくれる」
目標めがけて歩んでいる途中、挫けそうになったときでもお互いに支え合える仲間がいれば、また顔を上げて前進することができる。では、そんな仲間を作るにはどうすればいいのかを次の項で考えていきたい。
その2 パク・セロイのマネジメント術
「タンバム」に集ったセロイの仲間たちは、多様性の街・梨泰院らしく、それぞれ独特で個性的な背景を持つ。刑務所で出会ったギャング出身のスングォン、トランスジェンダーのヒョニ(イ・ジュヨン)、ギニア出身で見た目は黒人だけど英語ができないトニー(クリス・ライオン)、チャン会長の愛人の子のグンス(キム・ドンヒ)、そしてIQ162のパワーブロガーでソシオパスのチョ・イソ(キム・ダミ)。
日本よりもさらに保守的な韓国社会ではトランスジェンダー、黒人、愛人の子らは苛烈な差別の対象となる。そんなとき、リーダーのセロイはいつもどっしりと構えて揺るがない。
セロイのマネジメント術は、彼の経営理念である「店とは人である」「人がいるから商売ができる」に尽きる。たとえば、料理の腕が未熟なヒョニをイソが非難して店を辞めさせようとしたとき、セロイはヒョニに2倍の給料を渡して「この店が好きなら、その分、2倍努力しろ」と叱咤激励し、その上で仲間たちにこう言い切ってみせた。
「強要はしないが、“トランスジェンダーだから一緒に働けない”。そう思うヤツは言え。それが誰であれ、俺は切る」
優秀なマネージャーだが仲間を大切にしないイソに「マネージャー失格だ」と激昂したこともある。「商売とは利益の追求です」と反論されても、即座に「俺はそれが商売ならやらない!」と一喝。何があっても仲間を大切にし、目先の利益よりも仲間を優先するというセロイの考え方は最後までブレることがない。
とはいえ、ただ仲間を守ろうとして、ビジネスが行き詰まってしまっては元も子もない。窮地を切り抜けるための「現実的な対案」を作るのに役に立つのはやっぱり株だったりするのだから、投資の大切さをあらためて感じる次第である。
その3 チョ・イソの自分の売り込み方
ここまでは経営者でリーダーであるセロイについて語ってきたが、今度はセロイの側で辣腕をふるうマネージャー・イソの仕事術を振り返ってみたい。
まずはイソの「売り込み術」から。SNSで圧倒的な影響力を誇るイソは「タンバム」で働きたいと自らを売り込むが、SNSのことがよくわかっていないセロイはピンと来ない。ここで飛び出すのがイソの決め台詞だ。
「ここで働かせてください。夢をかなえてさしあげます」
何たる自信、何たる矜持。経営者と労働者は前者が強くて後者が弱い立場だと思いがちだが、自分の実力に自信があればこんな言い方だってできる。リーダーが抱く夢に強く共感しているからこそ言える言葉でもある。こんなことを言われた経営者は、思わず採用したくなるんじゃないだろうか。今後、就活の面接でこのフレーズが流行する予感がする。
もちろん、口だけでは信用されないので、イソは店のレイアウトの変更からマーケティングの立案と実行まで率先して行っていく。それを認めるセロイの度量もすごいのだが、そういう度量の持ち主だからこそイソが惚れ込んだと考えることもできる。
イソは自分の必要性を徹底的にアピールし、社長であるセロイにどこまでもついていく。そのエネルギー源は恋心だったりするのだが、こんなことを心に誓ったりもする。
「この人に手を出すヤツらは、皆潰すと心に誓った」」
この言葉はセロイとしっとりしながら思いをめぐらすシーンと仇敵グンウォンと相対するシーンの両方に登場するのだが、いずれも『梨泰院クラス』屈指の名シーンだ。
また、自分の強みであるSNSマーケティングを行って得意になるばかりでなく、未経験のはずの飲食ビジネスについて貪欲に学び、会社にとってなくてはならない人材に成長していくところもポイントだろう。強い言葉の背後には、その10倍、20倍の行動がある。これはセロイも同じである。
燃えるシーン、胸がキュンとするシーン、人生観に影響を与えるセリフなどがめじろ押しの『梨泰院クラス』だが、これを観れば仕事のやる気がみなぎってくるのもまた確かなところ。先行きが不透明でとかくダウナーになりがちな昨今だが、“観る栄養剤”として積極的に活用していきたい。
(大山くまお)
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情報元リンク: ウートピ
『梨泰院クラス』で真似したくなった「仕事術」3選【大山くまお】