「20代ほどがむしゃらじゃない、30代ほどノリノリじゃない。40代で直面する、心と身体の変わり目」――そんなコピーが添えられた漫画『あした死ぬには、』(太田出版)。切実に生きる女子たちの“40代の壁”を描くオムニバスストーリーの第1巻が6月13日に発売されました。
若さ至上主義で必要以上に、年齢に抗いたいわけじゃない。でも、老いに対する不安はある——。40代に入ったら、じつのところ、どんな変化があるのでしょうか。
25年間、漫画家として第一線で活躍している雁須磨子(かり・すまこ)さんに、今作が生まれた経緯や、雁さんが40代を迎えて実際に感じた変化などについて、じっくり話を聞きました。
40代、本当にガタッと身体が変わった
——まずは漫画『あした死ぬには、』の着想について聞かせてください。どんなふうに生まれた作品なんでしょう。
雁須磨子さん(以下、雁):じつは、40代のライフスタイルや更年期、いわゆる“女性の加齢”は30代のころから描きたいと思っていたんです。私自身、昔から「更年期障害が来たらどんなふうになるんだろう?」という不安があって……仕事ができなくなるくらいイライラしたり、情緒不安定になったらどうしよう、と思っていて。
——20~30代にとって、40代から訪れる心身の変化は未知だから、想像して不安になる気持ちすごくわかります。
雁:そう。だから、周りのいろんな先輩方に、体験談を聞いてみたんです。そうしたら「四十肩がひどかった」「怒りっぽくなった」なんて典型的なタイプもいれば「30代でうつっぽくなっていたぶん、40代は逆に平気だった」とか「PMSがひどくて早めに治療に入っていたから、あまり感じていない」とか、本当に人それぞれでした。
——そういうヒアリングを経て、雁さんご自身が40代に入ったときは、いかがでしたか?
雁:身体のいろんなところが、がらっと変わりました。30代でも「30過ぎたら身体が変わるよ」って言われるじゃないですか? そのときはあんまり感じなかったんだけど、40代は本当に全然違った。疲れがとれないし、太ったら痩せないし……“持って生まれた健康”の保証期間が終わったんだな、と感じました。ここからは、生活習慣などにきちんと気を遣って、自力で保険をかけてきた人たちが強いんだろう、とも。
『あした死ぬには、』の第一話で、主人公の本奈多子(ほんな・さわこ)が不整脈になる場面があるんです。鼓動の音で目が覚めたり、動悸は激しいのに身体がだんだん冷たくなっていったり……。あれは、私が実際に体験したこと。“女性の加齢”は書きたいテーマとしてもともと持っていたけれど、自分が40代を迎えて不整脈を体験したとき、物語のディテールがぐっとクリアになりました。
——気になるテーマにリアリティもくわわって、実際に筆を執られた、と。
雁:そうですね。以前、アラサー女子のあれこれを『かよちゃんの荷物』(竹書房)という作品で描いたことがあるんです。あのときは私も30代だった。自分からそう遠くない世代の物語を描くほうが、入り込めるんだと思います。
置かれている状況が違うだけで、誰もが“地続き”
——ほんわかしたコメディタッチの『かよちゃんの荷物』と違って、『あした死ぬには、』はわりと静かでシリアスなトーンです。なんだか、ひたひたと溜まっていく水たまりのような……これはやっぱり、40代というテーマだからこそ、ですか?
雁:そうかもしれませんね。40代だってコメディにしようと思えばできるけれど、日常を淡々と描くつくりを意識しました。日々のなかに、30代ほど派手なドラマが多くないから、というのも関係しているかもしれません。
——学生時代の同級生で、都会のバリキャリで独身の多子と、地方在住の専業主婦・塔子の交流も印象に残りました。塔子が「東京に行くからひさしぶりに話したい」という手紙を出して、多子はちょっと戸惑いつつも、実際会ってみたら結構楽しいという。
雁:このエピソードを編集さんと打ち合わせしているとき、ちょうど地元の博多に住んでいる中学の同級生から「会おうよ」ってメールをもらったんです。タイミングがばっちりすぎて「この体験を活かせる!」と思いました(笑)。実際に、こまかい部分が結構反映されていると思う。その子たちは中学時代から変わらなくて……というか、20~30代の会わないうちに激変した時期もあったけどいまはまた戻ったみたいな話で、楽しかったです。
——多子と塔子のキャラクターが正反対なのは、なにか狙いがあったんですか?
雁:あ、正反対に見えますか……? 私自身は、多子と塔子を対照的だとは思っていません。素養が異なるキャラクターを出したいとは考えていたけれど、どの子もみんな“地続き”だと思っているんです。都心でバリバリ働いている、考えやすくて繊細な人。地方都市で夫や子どもと暮らしている、ずぼらでおおらかな人。たしかに人物設定だけ見たら、環境で分断があるかもしれないけど、置かれている状況や考え方の癖が違うだけで、ポジションが代われば同じになりうる、というか。
——たしかに私たちも、いまこうしているだけで、別の誰かと“地続き”なのかも……。そして、誰にも平等に加齢は訪れる。
雁:そうですね。
『あした死ぬには、』の下の句は、人それぞれ
——『あした死ぬには、』というタイトルも、衝撃的です。
雁:なんというか……40代に入ると、本当にいつ死んでもおかしくないって思うんですよね。不整脈が起きたときも、布団をかぶっているのに体温が上がらなくて、身体がすごく冷たかったんです。あぁ、このまま目が覚めないこともあるんだろうなと思って……思いながら寝て、幸いにも目が覚めたんだけど(笑)。死ぬときはこうやって死んでいくんだなと、リアルに感じて。実際に、事故や事件じゃなくても亡くなる同世代の友人が出てくる年頃ですから。
だけど死が身近だからこそ、『あした死ぬには、』の下の句は、人それぞれなんです。「死んだところで別にかまわない」と思っている人もいれば「明日死ぬわけにはいかない」という人もいる。私自身は……いつか空飛ぶ自動車も見たいし、あした死ぬには早すぎる、と思っていますけれど。
第2回は6月20日(木)公開予定です。
(取材・文:菅原さくら、編集:安次富陽子)
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情報元リンク: ウートピ
「40代、ガタッと身体が変わった」雁須磨子さんが『あした死ぬには、』で描いたもの