婚活サイト婚活サイト「キャリ婚」を主宰する川崎貴子さんが「令和の共働き婚」をテーマに、それぞれの分野で活躍するプロと対談する連載。第7回のゲストは、エッセイスト、タレントとして活躍する小島慶子(こじま・けいこ)さん(47)です。前後編。
※対談は2020年1月に行われました。
「共働き」をデフォルトにしたほうがいい
川崎貴子さん(以下、川崎):今日は、小島さんが経済的に一家の大黒柱になる前と後の夫婦関係の変化など、「大黒柱妻になって」というテーマでもお話を聞きたいんですよ。私も自分が大黒柱になって、「今まで脈々と大黒柱をやってきた男性にも、いろんなプレッシャーがあったんだな」ということが、すごくよく分かりました。
小島慶子さん(以下、小島):「こんなムチャぶりがデフォルトの社会は間違っている」と思うようになりましたね。もし自分が男に生まれて、こんなムチャなことばかり言われたら、男尊女卑の考え方をする人が出てくるのも、構造的には理解できる。もちろん、だからと言って性差別は許せないですけどね。
川崎:私は、リーマンショックの時期や、乳がんを患った時に、「私が会社をつぶせば、家族全員が共倒れになるんだ」と思って、自分一人の収入でやりくりしていることの脆(もろ)さを実感しましたね。
小島:それはすごいプレッシャーですよね。リスク分散ゼロですものね。私も「働く」ということが、共働きの頃より苦しくなりました。夫も働いている時は、死ぬほどイヤな仕事なら辞めたらいいし、シンドイときは休んでもいいと思えましたが、今はそれができないので、やりがいを感じる反面、行き場のない息苦しさが増しました。
若い人に勧めるのであれば、精神衛生的にも、人生設計を考える上でのリスクヘッジの面でも、「共働きがいいよ」と言いたい。どちらかが経済的に全く無力というのは、お互い不安が大きいと思います。
川崎:企業がどんどん副業を解禁しているということは、「うちの給料に頼らないでね」ということでもある。「もっといろんな所で仕事を取ってきなよ」という意味なので、経済を担っているほうは、よりシビアに、自分の責任で稼いでこなくてはいけない。その点、共働きは強いですよね。
小島:昔の家父長制と違って、夫婦の関係はもっと流動的で、自由でいいのではないかと考える人が増えてきた。そのとき、足かせになるのが経済力で、夫婦どちらかに経済力がないと、お互い不健全な心持ちのまま「夫婦」というユニットを続けなくてはいけなくなる。
経済的に相手に対して責任を負う立場の人は、「こんな難しい関係なのに、なぜこの人を養わなければいけないのか?」という気持ちが湧いてしまうし、もう片方は「この人に食わせてもらうなんて屈辱的」だと思いながらも、一緒にいるしか術(すべ)がない。そんなの、不毛じゃないですか? 共働きをデフォルトにしないと、不幸な結婚が増えるんですよ。
私が“エア離婚”に踏み切った理由
川崎:私の周りにも、奥さんのほうが圧倒的に収入が多くて、離婚に何年も悩んでいた夫婦がいました。
小島:私はそれで“エア離婚”したの。夫はいい父親で、子育てのパートナーとしては最高なんだけど、子育てに終わりが見えて、「この先どうする?」と考えたときに、どうしても私の中で解決したい出来事があって。私の第一次産後クライシスのときに夫がした非人間的な出来事について、私は解決したいんですけど、その件についてはどうしても夫が思考停止になってしまい、向き合おうとしない。
このままでは二人で生きていくことはできないけど、今、彼には経済力がないので、一人でも生きていけるように本気で準備してもらうために「4年後を目処(めど)に離婚しよう」とリミットをきりました。「この問題どうする?」と漠然と話し合って4年過ぎるのではなく、「離婚」というゴールに向けて何ができるか考えて生きてみようというのが“エア離婚”なんです。
川崎:そうだったのですね。
小島:人間って変わるので、4年後にまた全然違う二人として出会えるかもしれない。どうなるか分からないけど、少なくとも、この関係はあと4年しか続かない。そうすることで、夫も具体的に資格の勉強を始めたりしています。
川崎:夫も少しずつ変わってきたんですね。
小島:そうなんです。別れたら自活しなくちゃいけないから。だから私が今、年間どのくらい彼のためにお金を使っているかも話したんですよ。保険料とか、何もかもね。それで「子供が学校に行っている間に、もしあなたが昼間3時間でもアルバイトをしていたら、年間100万円としても、この6年で計600万円にはなった。どれほど家計の助けになっただろう。でも、あなたは働ける状況だったにもかかわらず『働かない』という選択をした。あなたが私に依存している間に、失われた収入があると自覚してほしい」と。やろうと思えばいろんなことにチャレンジできるんだから、やってみたらどうかと話したんですよ。
「どちらかが稼げばいいじゃない」にはらむ危険性
川崎:主婦でも主夫でも、どちらかが稼げたら、「それでいいじゃない、二人でガツガツ稼がなくても」と考えている人がすごく多いです。
小島:それだと、夫婦間に力の不均衡が生まれてしまいますよね。収入のない側は、相手に生殺与奪を握られていることになる。その状態で夫婦の信頼関係が失われると、非常に弱い立場になります。相手が家父長制の価値観に染まっている場合は、収入のない配偶者を所有物のように扱いかねない。最悪の場合、DVに至ることも。相手に委ねるって、すごいリスクだと思います。
川崎:きっかり五分五分でなくても、均衡を保ちながら対等であろうとする努力が、パートナーには必要ですよね。あと、働こうとしない男性がよく言い訳に使うのが、「子供のそばにいてあげたい」という理由。
小島:ありますね。私の夫も同じで、「子育てに集中したい」と言う。でも子供たちが学校に行っている間にパートタイムで仕事をしている人はたくさんいる。要するに、東京である程度の地位にあった自分が、オーストラリアで、英語のできない謎の東洋人として、顎(あご)で使われたくないという、本当はそれなんだと思うんですよ。
川崎:「(主夫という)新しい夫婦の形を受け入れられる、新しい感性を持っている俺」と思っているところが、これまた厄介! たぶん彼らにとっては、主夫業のほうが、アルバイトをするより精神的にはラク。プライドのために死守したいのでしょうね。
小島:そんなプライドを持たないと、立っていられないこと自体がすでに「男らしさの呪い」にかかってる。「マッチョな男らしさの呪い」と「昭和のお母さん像」が、一人の男の中に共存していて、こっちは昭和のお母さんを殺して、男の呪いを解くという作業をやらなきゃいけないんですよ。そうじゃないと家が回らない。これは実に根深い問題です。
※最終回は4月29日(水)公開です。
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情報元リンク: ウートピ
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