「香港は大丈夫なのだろうか?」とりあえず街を歩いてみる
2日目。行きたいところは山ほどあるけれど、なんとなく歩きたい気持ちだった。本当に香港は大丈夫なのだろうか? という拭(ぬぐ)い切れない不安を一刻も早くなんとかしたかったからかもしれない。この日は、とりあえず街を歩いてみることに決めた。
まずは、Clockenflapが行われる予定だった会場まで歩く。大きなビルと観覧車のすぐ横の何もないイベントスペースはもの寂しい。ここのエリアは夜景がとてもきれいに映る。色鮮やかなビルをバックに見る「HALSEYやWHAT SO NOT」「DEFHEAVEN」はそりゃもう最高だったんだろうな……そう思うと、悲しさが押し寄せてくる。
中止のお知らせが来たのは、開催のちょうど一週間前だった。直前まで開催できるように頑張っていた様子がうかがえる……。来年また来れたらいいな。
グレーのパーカーに黒のワンピースを着ていたが、日差しも強くて少し暑い。
かっこいい階段も見に行く。香港には地震がないため、日本では見ることのできない設計の建築物が立ち並んでいる。この六角形の美しい造りも、もし日本だったら耐震基準や何かしらの法律でひっかかるんだろう。人が見上げることを想定しているのか、屋根の部分もかっこいい。
海沿いをさらに歩き、「西區公眾貨物裝卸區碼頭」と呼ばれる港? に向かう。もちろん読めないのだけれど、Googleマップを見ると棒状に出っ張っていて、気になったからだ。
特に何かあるわけではないけれど、釣りをしている人やマラソンをしている人を見かけたり、船に乗っているお兄さんと少し話をしたりする。ここは何をするんだろう。荷物を運んだりするんだろうか。
海が近いと、それだけで少し気分が上がる。特に欧米出身の友達には「東京と香港ってよく似ているよね」と言われるのだが、東京に住んでいるからこそ、ここは全く違う街であるように感じる。
香港の海はエメラルドグリーンできれいだ。日本の海が汚すぎるだけなのかもしれない。潮の匂いを感じつつ東京の海とは違った鮮やかな緑を見ていると、私は今知らない土地にいるんだな、といつも思う。
その後は、上環(ションワン)から中環(セントラル)をふらふら。摩羅上街(キャット・ストリート)と呼ばれる骨董品がたくさん売られている通りを歩く。階段が多く、のんびりとした雰囲気が結構気に入っている。なんだかんだこの通りは必ず来ているな。
摩羅上街の1本上の通りに、いつも混んでいる定食屋さんがある。看板もないのでお店の名前は分からないが、外国人観光客は1人もおらず、現地人がたくさんいる。このお店は絶対においしいはず! と牛肉と葉物野菜の何かをのせたごはんを注文する。まったく読めないので指差しで注文するが、「おいしい!」当たりだった。
私の持論で、「観光客から評判のいい飲食店より、外から眺めて現地人のたくさんいる店の方がうまい」というのがあって、まさにこのお店がそうだ。少し汚い感じも好みどストライクだった。ガイドブックも結局広告だったりするし、飲食店はやはり自分で探すに限るな、と思う。
夕日を目指してバスで揺られる
ある程度歩いたところで、次にどこへ行こうか考える。もうすぐ夕暮れ時だ。夕日を見に行くのもいいかもしれない。そう思い立って、深圳がすぐ近くの「白泥(パクナイ)」というところに行こうと決める。理由は特にない。面白そうだからだ!
白泥には、「元朗(ユンロン)」という駅で降り、そこからバスで40分ほどで到着するらしい。潮干狩りや釣りができるような場所で、香港で一番夕日がきれいに見えるんだそうで。へーいいなあ、海で日が沈むのをぼーっと見るのも楽しいかも。元朗といえばデモがあったところだよな。まあ、3カ月も前の話だし平気だろう。
そう思いながら、地下鉄に揺られること30分。降り立った元朗は平和そのもので、中心から外れているせいもあり、大きなビルもなく住宅街という雰囲気だった。これからバスで向かおうにも、バス停が分からないので、「白泥に行きたいのですが」と40代くらいのおばさんに聞いてみると、「このシャトルバスで行くことができるから、乗れば? これ、チケットだから使って!」と、オレンジ色をした切符サイズの紙を渡される。優しい人だった。
待つこと15分。スイミングスクールに行くようなバスが登場し、さっと乗り込む。先ほどのおばさんが隣に座ってくれ、「着いたら教えてあげるね」とのことだった。やっぱり優しい。バスに揺られると20分くらいで大きなマンションが立ち並ぶ敷地に止まる。他の乗客も皆降り、おばさんも「ここが終点だよ」という。Googleマップで確認するも白泥からはかけ離れている。もしや、これは……なんだか嫌な予感がする。ここから、どうやって向かうのだろう? バス停があるのだろうか……?
そう思いながら立ち尽くしていると、おばさんが行き方を教えてくれると言う。マンションの敷地の外を出て、目の前の道を行くと、すぐだよ! とのことだった。
「白麗」というマンションに辿(たど)り着いた。
あ~これは……白泥は「パクナイ」と読むのだけれど、白麗(パクレイ)と聞き間違いが発生し、完全に違うところにきてしまった。おばさんの「こんなところで何するの?」と尋ねられ、夕日を見に行くことを伝えたときの不審な顔が忘れられない。そりゃそうだ。ここは高級住宅街で、私のような日本国籍の一般小市民が来るようなところではない。
日の入りは5時半らしい。あと40分ほど時間がある。どうしようか迷った結果、タクシーで向かうことにする。
白泥に向かう途中、案の定日が暮れてしまった。全然間に合わない。タクシーの運転手と「日が暮れていってしまうね……」と話しながら見る夕日は、なんとも寂しいものであった。
辺りが薄暗い中、白泥の奥地に到着した。なぜ私はタクシーの運転手にここで降ろされたのだろう。周辺には何もなく、観光客すら帰っていったようだった。それもそうだ。白泥は何もない。本当に何もない。こんなでかい木々の生い茂る村には宿もレストランもなさそうだ。海鮮市場のような施設は閉店しているし、街灯もまばらだ。取り残されたら、どうなってしまうんだろう。不安だ。もう夕日を見ることはできないし、散策するのはやめて、とにかくタクシーで来た道を戻ることにする。
釣り堀があった。どうやらここはデートスポットになっているらしく、2組のカップルがバス停の前で待っている。一体私は何をしにここへ来たのだろう……。
人懐こい犬を撫(な)でていると足が虫さされだらけになる。かゆい。白泥への滞在は、少し歩いて、汚ねえ犬を触り、タバコを2本吸い、蚊に5か所刺されるだけで終わった。まあ、また来ればいいか。
中環に戻ってきた頃には、20時を回っていた。ひとりで見る夜景に何の意味があるんだ。でも、男と夜景を見に行くのもつまらないな。デートの口実にしてももう少し何かあるだろ。なんでこれがデートの定番なんだ。とかなんとか考えながら写真を撮り、銅鑼湾駅へと戻る。
おしゃれなお店でおしゃべりする
激辛料理が大好きなのに本場の辛さにビビって4辛をオーダーし「5辛でいけたな」と思いながら麺をすすったり、マンゴーのデザートを食べたりもする。
周辺をフラフラしていると、おしゃれっぽいお店を見つけた。入店し、服をあれこれ見ていると、かわいらしい男性の店員さんに「アイシャドウかわいいね!」と話し掛けられる。
私が日本人であることを伝えると、「日本の男の人ってかっこいい人多くない? 僕、男の人が好きでさあ」と言われ、少し衝撃を受けた。基本的に、他人の性的指向には興味がないというか、どうでもいいのだけれど、こんなふうに会って5分も経たない外国人にさらっと言えてしまうほど、香港のLGBTは進んでいるのだろうか、と思ったからだ。
私たちは、好みの男の子のタイプや日本人の語学力のなさについて話し合ったりし、連絡先を交換した後、「今度絶対遊ぼうね!」と握手を交わしてお店をあとにする
今の香港の状況も話にあがり、Tくんの住まい周辺はかなり壊されているらしく、困っている様子だった。そりゃ自由が取り上げられてしまうのは、あってはならないことだけれど、普段通りの生活ができないのも困るだろう。
なんだかんだ30分くらい居座ってしまった。このお店も、かわいらしいTくんが趣味でやっていて、並んでいる服はすべて彼がデザインしたものらしい。小さい頃からデザイナーになりたくて、夢をかなえることができたと言っていた。また会えたらいいな。
そうこうしている間に22時を回り、宿に戻る。もしデモがなければ夜な夜なクラブに行きたかったのだけれど、どこもやっていないらしい。そりゃあそうか。おとなしく眠ることにする。
(文・あたそ)
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情報元リンク: ウートピ
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