7月6日、東京堂書店(東京都神保町)にて山崎ナオコーラさんの新刊『ブスの自信の持ち方』(誠文堂新光社)の先行発売を記念したトークイベントが開催されました。
対談のお相手は、山崎さんのデビュー当時から15年以上交流があるという、作家の羽田圭介さんです。「『顔』を出しながら作家活動をすること」をテーマに、写真を撮られることへの想いや、なぜ顔を出すのかについて語り合いました。
ウートピではその一部を編集し、3回にわたってお届けします。トークの終わりに、山崎さんは「文学の世界に新しい才能を取り込みたい」と語りました。
セレモニーはしたくない
羽田圭介さん(以下、羽田):『ブスの自信の持ち方』で、自身の結婚式について、「せっかく準備した結婚式が失敗に終わった」と書いてありましたよね。もう自分のためのパーティーやセレモニーは行わないとも。僕、その結婚式に他の作家たちと参加していたのですが、どこが失敗だったんだろう、と。
山崎ナオコーラさん(以下、山崎):その折はありがとうございました。
羽田:ナオコーラさんが式の途中でウェディングドレスにビールサーバーを担いでテーブルを回ったりしてくれて。正直、僕がこれまでに参加した結婚式の中で一番面白くて、素晴らしかったですよ。
山崎:ありがとうございます。主観と客観は違うということですね。私としては「自分の式っていうのは、もういいや」という気持ちになりまして、葬式はしないことにしました。
羽田:僕たち自分の葬式はしてほしくないってことで一致しているんですよね。僕自身は亡骸を医学的な実験にでも使ってもらったあと、燃えるゴミに出してくれてもかまわない。まあ、自分の葬式をする・しないの決定権は自分にはないんですけどね。
病院で名前を呼ばれて…
山崎:羽田さん自身は自意識があまりなくて、自分のことに興味があるというよりは、世間的にどういう流れで人気が出るかなどが気になる?
羽田:売り上げ至上主義ではないですし、人気というものを自分でコントロールできるとも思っていないので、あまり気にしていませんけどね。顔はそんなに出したくないです。ああ、そういえば。病院って明瞭な発音かつ大声で、フルネームを呼ばれますよね。僕は本名で世に出たのでたまに「あれ?」って振り向かれたりするんですよ。
山崎:そんなに多い名前ではないですからね。
羽田:そういう場面で、顔を知られているのはイヤだなと思いますね。「あいつ病院にいる」って思われるのイヤじゃないですか。
山崎:どこの病院にいたんですか?
羽田:耳鼻科です。
山崎:耳鼻科なら別にいいじゃないですか。羽田さんの小説『ポルシェ太郎』(河出書房新社)で、主人公は車に乗っているところをどう見られるか気にしています。格好いいシーンなら見られてもいいという気持ちはありますか?
羽田:いや、見られたくないですね。
ペンネームと顔出し
羽田:ナオコーラさんはペンネームですけど、顔出ししていますよね。顔を出さない作家もいますが、それは考えなかった?
山崎:デビューする時に編集さんから、「顔を出さないという方法もありますよ」と説明はあったんです。ただ、顔出ししない場合、販促活動やインタビューに制限が生じる可能性もあると聞いて。デビューするからには2冊目、3冊目を出したいじゃないですか。でも、デビュー作が売れなかったら2冊目を出してもらえないかもしれない。それならば顔出しをしてインタビューを受けようと思いました。
羽田:なるほど。
山崎:ただ、私はそれまですごく地味な人生だったので、人前に出るとこんなにいろんな反応があると想像できなかった。作家という仕事がこんなにも人から見られる仕事だとは……。
羽田:僕もデビュー時にペンネームにすることをすすめられました。僕の少し前に先輩作家が若くしてデビューされていて。若い人が本名を出して活動すると、将来大変な思いをするのではと心配してくれていたようです。
ただ、僕自身は名前に関して逃げも隠れもしないと思っていたので本名を選びました。ただ、今となってはペンネームにしておけばよかったと思います。こんなにメディアに出るとも思っていませんでしたし。
「なりたい職業ランキング」に作家をランクインさせたい
山崎:羽田さんは、自分の経験のためにテレビに出ているとおっしゃっていました。でも私は羽田さんの活動にちょっと期待しているところがあるんです。というのも、いまの時代、子どもや若い人はユーチューバーとかゲームクリエイターに憧れて、なかなか作家には憧れてくれないから。
羽田さんが活躍すると、もしかしたら「なりたい職業ランキング」なんかに作家が入ってくるのではないかと思っているんです。
羽田:ナオコーラさんは昔から、作家という職業に従事している自分は平均的な会社員と同等かそれ以上に稼げますよ、とおっしゃっていますよね。
山崎:はい。「作家は稼げない」と思われがちなところがあるけれど、世間から思われているよりは稼げる仕事だし、夢がありますよと伝えていきたい。大きな賞を取らなくても、まあまあ稼げますし。
羽田:若い人に作家になってもらいたいと思うのはなぜですか?
山崎:文学の世界に新しい才能を取り込みたいからです。「文学で社会が動いているよね」というような。文学がお笑いぐらいの社会的なムーブメントを作れるものになれば。その先駆者として羽田さんが新しいところを開拓してくれている気がするんです。
羽田:僕の本がめちゃくちゃ売れていたらその蕾くらいにはなれるかもしれないですが…。地方の仕事先でおばさんたちからサインやツーショット撮影を求められはするけど、目の前にある書店や、ツーショット撮影をしたスマートフォンの通販アプリでの書籍購入を勧めたら、嫌そうな顔をして逃げられたりします。大ファンです、って言ってツーショット撮影は求めてきても、本を買うのには一銭も使いたくないという実態(苦笑)。だから顔を出してメディアに出るのと本を売るのはまた別の話。まだまだだなと思うことは多いです。
(構成:安次富陽子)
『ブスの自信の持ち方』は7月10日発売。ウートピでは山崎ナオコーラさんのインタビュー記事も近日公開予定です。お楽しみに!
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情報元リンク: ウートピ
「顔を出さないという方法もある」と言われたけれど…【山崎ナオコーラ・羽田圭介】