ファッションメディア「ELLE」が2014年より主催*しているイベント、ELLE WOMEN in SOCIETY(エル・ウーマン・イン・ソサエティ)が今年も開催されました。今回のテーマは、「~New Era, New World~ 新時代の女性を生きる」。今年も国内外から第一線で活躍する女性たちをスピーカーに迎え、さまざまなセミナーやワークショップが行われます。*2017年からは「ELLE」グループ主催
昨年行われた同イベントに登壇した建築家・永山祐子(ながやま・ゆうこ)さん。26歳で独立して今年で18年目。国内外で活躍している永山さんに、働く時のルールを教えていただきました。
戦っても望み通りにはならない
——建築の業界というと、上下関係や学歴に厳しい“THE 男性社会”というイメージがあります。実際のところはどうなのでしょうか?
永山祐子さん(以下、永山):私がキャリアをスタートさせた当時とは、私自身も業界も変わっていますが、若いときは“男性社会”だなと感じることはありました。例えば、建築の現場でリーダーに指示をしなくてはいけないとき。若くて女性でちょっと生意気だと思われているだろうなと「雰囲気で」伝わってきました。
——生意気……以外は自分の素質とは関係ないのに。
永山:そうですね(苦笑)。そこで心がけたのは、何かを頼む前には相手に敬意を示すということです。「あなたの技術は素晴らしいです。だからぜひ一緒に作ってほしい」と。そうやって仲間を増やすことを意識していました。それから、もし意見が激しく衝突しても、相手を言い負かさないこと。これは絶対にやってはいけないことだといちばん気をつけていました。
——それでも自分の意見を通さなければいけないときはどうしていたのでしょうか?
永山:そういうときは、1日でも2日でも時間をおいてから、もう一度同じ事を頼みます。私は、一度断られても、何度でも同じことを言い続けるんです。絶対これだと思ったら曲げたくないので。でも、どんなに雰囲気が悪くなっても戦わない。戦えば勝ち負けにこだわって議論にならないので、議論するために一呼吸おくようにしています。それから、その場のトップの面目をつぶさないように気をつけていますね。うまく立てながら、でも私は絶対にこうしてほしいから協力して欲しいと唱え続けます。
——感情とか、面目とかいいから、サクッと協力してほしいー!
永山:あまりにも難航すると、私もキーッとなることもありますよ(笑)。でも、戦って得るものはほとんどない。やっぱり協業がいちばんだと思うんですよね。関わる人たちが納得して、「じゃあ手伝ってあげようか」という状況に持っていくのも建築家の仕事。気持ちよくみんなが動けるような環境をどう作るかをいつも考えています。
私が子連れでオフィスに行く理由
——永山さんは、第一子妊娠中に横尾忠則氏の美術館「豊島横尾館」を、第二子の時には「女神の森セントラルガーデン」のプロジェクトを手がけていますよね。出産・育児と大きなプロジェクトの両立に不安はありませんでしたか?
永山:私、妊娠すると大きなプロジェクトがやって来るというジンクスがあるみたいで。正直、第一子の時はとても不安でした。時期を計算すると出産してすぐに提案を出さなければいけないので、大変だな……と思いましたし、妊婦さんだと仕事を頼みづらくなるかなと思って、最初に横尾さんに会いに行った際には体のラインが出ない服で行ってみたりして。先方にはバレてたみたいなんですけど(笑)。
「豊島横尾館」は私にとって、大きなチャンスで、挑戦したいプロジェクトだったので諦めたくなかったんです。母に相談すると、「全面的にバックアップするよ」と言ってくれたので甘えさせてもらうことにしました。2人目のときも、スケジュール的にはハードだったのですが、長男の経験があったので、腹はすわっていましたね。
——オフィスにお子さんを連れて行っていた時期もあったとか。
永山:はい。きっかけは、第二子の時に保育園に預かる時間がきょうだいでずれてしまって仕方なく。家に連れて帰れないので、職場に連れて行って、子どもを膝に乗せて打ち合わせをしたりしていました。連れていけない時には、スタッフに預けて打ち合わせすることもありました。「はい、お願い」って。
スタッフに負担をかけて申し訳なかったなと思う反面、そういう経験があってよかったなと思っているんです。それは、私にとっても若いスタッフにとっても。うちの事務所には女性のスタッフもいるので、もし仕事を続けながら産むか産まないか迷うのであれば……。もし産みたい気持ちがあるのなら、産むという選択肢をとってほしい。だからこの経験が、後輩の女性たちの役に立つはずだと思っています。
——たしかに、上司や先輩が目の前でそれを実行してくれていたら励みになりますね。
永山:そうなったら嬉しいですね。私の事務所では、子どもがいる女性スタッフも採用しています。早い時間の帰宅を認めているのも、働き方に多様性を持たせることでいろんなタイプの人がちゃんと働けるような場所にしたいという思いが根底にあるから。働く時間が短かったとしても、トータルの仕事や成果とイコールではないので、時短が必ずデメリットになるわけでないんですよね。
実際、私も出産前と今では、今のほうが仕事量は多いです。事務所の規模も2倍くらいになっていますし。それは超効率化を目指したからなのですが、それって子どもがいる/いないに関係ないですよね。ムダなく効率的に仕事をする方法は共有の資産になるはずですし。
不得意なことはやらなくていい
——「産むか産まないかで迷ったら…」とおっしゃいましたが、ご自身の「産み時」についてはどう考えていましたか?
永山:私は……正直、ノープランでした。結婚をした時点でいつ妊娠してもいいなと思っていました。人生のプランを立て始めると不安しかないので、授かりものだし、妊娠したら産もうとだけ決めていました。
仕事の面でもそうなのですが、来た波に乗るというスタンスの時があってもいいと思うんです。独立直後は、とにかく受けた仕事をこなして行くことに必死で、先のことなんて考える余裕はありませんでした。最近は、スタッフが増えたので、誰にどんな仕事をしてもらうのがいいのか考えたりもするんですけど、そこまで完璧なキャリアプランかというとちょっと自信はありません。いろんなことが日々変化するので、柔軟に対応するしかないって感じです。
——愚問とは思いますが……。建築家ってなんでもめちゃくちゃ綿密にプランを立てるのが得意なのかと思っていました。
永山:もちろん仕事の上では緻密な部分もありますけれど。建築家って、ちょっと楽天家じゃないと務まらないんじゃないかなって思うんです。いろんな調整に奔走されることもあるし、打たれ強くなきゃいけないところあるし。
例えば、自分なりに素晴らしい案ができたと思っても、施主(資金を出す注文主)と折り合いがつかないこともあります。自分の意思がそのまま通ることはほとんどないので、その中で「よし、じゃあその条件で最大限やるには?」と気持ちを上手く切り替えていかないと前に進めない。むしろそんなトラブルさえも面白がれる、マイナス要素でもプラスに変えられるようなタフさが必要なんです。
——かっこいい。永山さん、弱点とかないんですか?
永山:弱点、ですか? そうだな……。建築の仕事に関しては綿密に考えますけれど、そのほかのところは超ざっくり勘定な人なんですよ、私。事務所の経理を以前は母に任せていたのですが、自分の事務所にいくらお金があるのかとか知らないとか(苦笑)。母に「そろそろ(資金が)なくなるよ」と言われたら「よし、じゃあみんな、ムダ遣いに気をつけよう!」って。私は、建築のことだけ考えられたら幸せなので、あまり不得意なことはしたくないんですよね。
——ざっくり!(笑)。会社員の人たちの声を聞くと、みなさん全てをそこそこ器用にこなさないといけないという思いにとらわれていることが多い。真面目な人は苦手なことこそ頑張らなきゃ、と。それで本当にやりたいことや好きな人に手が回っていないようなのですが、思い切り自分の仕事をするためのコツはありますか?
永山:不得意なことはやらずに済むのならやらなくていいと思います。人は適材適所ですから。不得意を(10点満点の)10にするのは難しい。でも、得意なことを10にするのは、不得意より近道かもしれないですよね。
得意なことで成功体験を重ねると、見える景色が変わります。私にとっては、建築という仕事がそうでした。昔は本当に世間知らずだったので、いろんなクライアントにいろんなことを勉強させてもらいました。それに、建物が完成したり、プロジェクトを終えたりするうちに少しずつ世の中が遠くまで見えてきたという感じがします。なので、もし今見通しが悪いなとか、うまくいっていないなと悩むことがあれば、苦手なことはさておき、得意なことに集中してみるといいかもしれません。
(取材・文:安次富陽子)
■ELLE WOMEN in SOCIETY 2019は…
6月15日(土)に開催された「ELLE WOMEN in SOCIETY 2019」。第6回を迎える今年のテーマは「~New Era, New World~ 新時代の女性を生きる」です。ゲストスピーカーには、ファッションモデルの冨永愛さん、フリーアナウンサーの滝川クリステルさん、女優の内山理名さん、フォトグラファーのヨシダナギさんらが登場。新しい時代の働き方について考えます。当日の様子やアフターリポートは「#ellewisjp」をチェック!
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情報元リンク: ウートピ
「衝突しても戦わない。時間を置いてもう一度」建築家・永山祐子の仕事のルール