『ヤクザと家族 The Family』(1月29日公開)は、ヤクザという生き方を選んだ男・山本(綾野剛)の物語。1999年から2019年へ時代が移り変わるなかで、社会の矛盾と不条理に翻弄される山本の姿を3部構成で描きます。
監督・脚本を務めたのは『新聞記者』『宇宙でいちばんあかるい屋根』などを手がける藤井道人さん。山本の恋人・由香を、尾野真千子さんが演じました。
インタビュー後編は本作のテーマである「ヤクザ」と「家族」について。藤井監督と尾野さんの家族観も踏まえながら、お話していただきました。
血のつながりだけが、家族ではない
——本作の題材「ヤクザ」は、かつて法の力が及ばない裏社会を牛耳ってきた存在。映画の世界でも『仁義なき戦い』シリーズなどが隆盛を極めるなど、注目を集めていました。けれど、暴力団対策法が施行されて「ヤクザ=反社会勢力」として厳しい目が向けられているいま、扱うのがなかなか難しいテーマですね。
尾野真千子さん(以下、尾野):そうですね。いまは世の中でタブーとされていることが増え、もしかしたら「ヤクザ」という言葉を出すことすら批判の対象になってしまうかも。でも、そんなヤクザを「必要悪」として描く物語は、いまの時代だからこそあってもいいんじゃないかと感じました。
——本作は、バイオレンスなシーンも出てきますが、一方で「家族」という観点から男たちを描いた、新しいヤクザ映画でもあります。『ヤクザと家族 The Family』というタイトルに決まった経緯について教えていただけますか? 山本の目線では「ヤクザの家族」という案もあったのではないかと思ったのですが……。
藤井道人監督(以下、藤井):僕は最初から『ヤクザと家族』しかないと思っていました。一度ほかのタイトルをつけたほうがいいかと考えたこともありましたが、何十案出してもしっくりこなかった。その中には「ヤクザの家族」もあったかもしれません。最終的には「ヤクザと家族」に「The Family」をつけることに落ち着きました。
「ヤクザ」と「家族」は反語になっていると思うんです。もう社会に必要ないと思われている「ヤクザ」という存在と、社会で生きていくうえで欠かせなくて、いま一番必要とされている「家族」。その2つを掛け合わせている。だからやっぱり「ヤクザと家族」ですね。
——「家族はいま一番必要なもの」という感覚は、いつからお持ちですか?
藤井:親元を離れて、家族と一緒にいる時間より現場にいる時間のほうが長くなったことで、家族の形や存在に以前よりずっと意識が向くようになりました。家族の定義ってすごく難しいけれど、結局は人なんだなと思うんです。血のつながりだけが家族ではないし、誰と一緒にいるかが大切。それは、この仕事やコロナ禍を通じて、より強く感じるようになってきました。
——尾野さんは、家族について、どう思いますか?
尾野:私は、もともと「家族」が好きだし、誰彼かまわず家族にしてしまうところがあります。というのも、うちの親がそうだったんですよね。
たとえば、家に来てごはんを食べてくれたり、楽しくお話をしてくれたりした人たちには、いつかまた帰ってきてほしいという気持ちを込めて「行ってらっしゃい」と送り出す。また何かのタイミングで会いに来てくれたら「おかえり」と迎える。「他人だけど他人じゃない」つながりが、そこに生まれていたんです。
そういうものを間近で見ながら育ってきて、いまの私があります。『ヤクザと家族 The Family』も、血のつながりはないけれど何かでつながろうとする、家族になろうとする人たちの物語。その感覚ってすごくよくわかるし、大切なことを伝えていると感じました。
「正しさ」とは、なんだろう?
——綾野さんが演じる山本は、いつの間にか排除される存在として時代に翻弄されます。その姿を見ていると、それってどうして? 誰のせいなの? という疑問が湧いてきて……。尾野さんは、作中のヤクザの姿を見て、どんなふうに思われましたか。
尾野:いまの世の中で薄れてしまっているいろんなもの……たとえば「仁義」とか「男の美学」とか、そういうものを「柴咲組*」の彼らは全部持っている、と思いました。この映画で描かれている男たちは、かっこいいんですよ。もちろん法を犯すのは絶対にいけないことだけど、これからの社会に必要なかっこよさも備えている。その素敵なところを、うまく描けている作品だなと感じています。
*作中で、山本が所属する暴力団
——藤井監督も、いまの社会には「仁義」や「男の美学」が欠けてきていると思いますか?
藤井:僕は1986年生まれで、子どものときからあんまり「仁義」や「義理人情」の世界を知らないんです。ただ、この作品を撮ってから「正しさとは何だろう?」ということを以前よりも強く考えるようになりました。果たして「正しいもの」「品行方正なもの」だけが、この社会をつくっているのか? そこに、人間としての豊かさは本当にあるのか? 人間って、ちょっと欠けているから、欠けていないものに憧れてしまうと思うんですけど……。
正しいことばかり追いかけるのではなくて、人の良いところもダメなところも認められる社会になってほしい、と最近よく感じるんですよね。そうでなければ、社会からこぼれ落ちてしまった人たちはどこに向かえばいいのかわからなくなってしまう。僕だって、映画がなければ確実に社会からこぼれ落ちてしまっていた人間だと思います。今回はたまたま「ヤクザ」を題材にしたけれど、いまギリギリで踏ん張っている人たちが、この社会には必ずいる。そんな人たちに、この映画がちゃんと届くようにと願っています。
(スタイリスト:伊藤佐智子(BRÜCKE)、ヘアメイク:黒田啓蔵(Iris)/ともに尾野真千子さん担当、取材・文:菅原さくら、撮影:青木勇太、編集:安次富陽子)
- 彼女はなぜその男を愛せたのか—『ヤクザと家族 The Family』 藤井道人・尾野真千子
- 岩田剛典を読み解く3つのキーワード【仲間想い・八方美人・サプライズ好き】
- 「三代目」「LDH」看板が大きいからこそ抱えた葛藤。岩田剛典が自分の道を見つけるまで
- 「なんちゃない場所も、誰かの大切な思い出の場所」 高良健吾、映画『おもいで写眞』に出演
- 水川あさみ「本当に大切なことは、言葉をきちんと選びたい」 映画『滑走路』
- 宇垣美里、アニメ声優初挑戦。映画『羅小黒戦記 ぼくが選ぶ未来』
情報元リンク: ウートピ
「正しさ」とは、なんだろう?——『ヤクザと家族 The Family』