「なんとなく、気づいたらこうなっていた」。
仕事にしろ私生活にしろ、よく聞くセリフです。それがたった1人の生き方なら「よくある話」で終わるけれど、気付けば、世の中全体が危機に向かって後戻りできない状況になっていたとしたら……?
5人の若手映像作家が各々の視点で切り取った「10年後の日本」を舞台に、五つの物語がつづられるオムニバス映画『十年 Ten Years Japan』が11月3日(土)から公開されます。その中の1本、『美しい国』は「徴兵制が施行された日本」がテーマ。一見、今日と変わらない日本の日常に、自然に戦争が組み込まれている描写にひやりとさせられる作品です。
メガホンをとったのは、短編作品やCMなどを手がけ、昨年『愚行録』で長編デビューを果たした石川慶監督。主演は、どんな役にもリアリティをもたらす高い演技力で、映画やドラマからオファーが絶えない太賀さん。
ウートピでは前後編にわたって2人のインタビューをお届けします。
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「居心地の悪さ」を言葉にしていくこと
——『美しい国』のように、掲げている標語は美しいけど、その実態は戦争であるような、パッケージに騙されて何となく受け入れているうちに大変なことが起きているという恐さを『十年』という作品を見て感じました。私たちの身近な部分でいえば「女性が輝く社会」という言葉も聞こえは美しいけれど、そのパッケージに騙されている感じがします。
石川:パッケージが悪いとは全然思わないんですよ。たとえば「輝く女性」みたいな標語をつくって、パッケージにして、マイナスの部分を見えないようにするのが広告の仕事。それで、世界が美しく見えるという側面もあると思う。
だけど、美しいパッケージの中には、いろんな“苦み”みたいなものも絶対に入っているはず。表面が美しいからと喜ぶ前に、「何が入ってるのかな?」って1回確かめましょう、とは思います。
「中に何が入っているのか」を話しちゃいけない雰囲気は、ちょっと違うんじゃないかって。
太賀:映画業界に限らず、居心地の悪さだったり、ある種の気味の悪さって、不透明さにあるような気がします。その不透明をなくしていく作業って、結局コミュニケーションでしかないだろうし。
疑問を抱いて、考えてみたものを表に出してくことはすごく重要だと思うし、理解しあうことや、言葉にしていくことの必要性はある気がする。
——特に日本では働き方やライフプランについては話すけれど、政治的な話題は避けられます。欧米の俳優は、公の場で政治的な発言をしたり社会に対する自分の意見を述べることがわりと普通じゃないですか。事情は異なると思うのですが……。
太賀:暗黙の了解で「絶対になし」というふうになっている。そうやって産業が成り立ってる部分があるし。
石川:そのど真ん中で仕事をしてるジレンマもすごくあるんですよ。だからその発言を記事にはできなかったとしても、この『十年』のクレジットに太賀くんとか杉咲花さんの名前があることがすごく重要な気がしてるんですよね。
テレビ制作現場の「違和感」の正体は?
——前回、石川監督はテレビの制作現場で「違和感」を覚えたとおっしゃっていましたが、それは、まわりからの同調圧力のようなものでしょうか?
石川:現場で企画を出すとき、「このテーマは避けようか」とか、「このキーワードを入れておくと企画が通りやすいかも」とか、別に誰かに言われたからではなく、なんとなく「そうじゃないかな?」と思ってそうしてるんですね。お上から言われてるわけでもないし、じゃあクライアントがそう言ってるかというと、別にそういうわけでもない。誰が言ってるのか全然分からない「ザ・空気」みたいなものがあるんです。
太賀:得体の知れない身動きのとれなさみたいなものがありますよね。
——以前、ウートピで是枝裕和監督のお話をうかがったときに、今はオリジナルで映画を撮るのが難しいという話をされていました。石川監督は今後はどんなものを撮っていきたいですか?
石川:太賀くんともさっき「オリジナルがやりたくて今書いてるんだよね」っていう話をしていたところです。でも、次回作は原作モノなんですけど(笑)。やっぱり自分で書きたいという思いはありますけど、なかなかお金が集まらない。
今回『十年』の企画に引かれたのは、そのへんも大きかったですね。オリジナルで脚本を書いて、是枝さんと企画をブラッシュアップしていけるというのは。けっこう細かいこともいろいろお話させていただいて、ラストも是枝さんのアドバイスで少し変えたりしているんです。
「決めすぎないほうが未来は面白い」
——「10年後の日本」がテーマの映画ですが、お二人は10年後、どうなっていたいですか?
太賀:自分は35歳になってるんですけど、30代になってからのことはまだ考えてないですね。でも、決めすぎないほうが面白いとは思います。決めすぎて絶望したくもないですし、何かが縮こまってしまうようなら決めないほうがいい。
ただ、10年後も、こだわりをもって生きていたいですね。自分の人生にも、社会にも関わるような映画に携わっていきたいです。
——この『十年』にも通じるものがありますね。「こだわり」がなければ、いつの間にか流されてしまうかもしれない。
太賀:自分の意志さえなくなってしまえば、流されてしまうことも、きっと平気であるような気がしていて。でも、そこが揺らぐと、俳優としての何かが失われる気がする。信じているものとか、自分自身の何かにこだわっていきたいと思います。
——石川監督はいかがですか?
石川:映画『風立ちぬ』で「創造的人生の持ち時間は10年だ」っていうセリフがあったじゃないですか。あれを観た時、「10年かぁ……」って思ったんですよ。僕は去年やっと長編映画デビューができた。ここから10年、もうちょっと映画を撮っていきたいなと思うんですけど、1本1本、ちゃんとしたのを撮りたいなという気持ちがすごくある。とりあえず撮ったはいいけど…じゃなくて、自分にとって意味のあるものを1本1本、ちゃんと重ねていけたらいいなと思います。
——こだわりと自分の意志を持って物事を決めていく。それが、『十年』のような未来を招かないポイントかも。
太賀:誠実でありたいですね。
石川:そう、「誠実」が大事ですね。
(聞き手:新田理恵、写真:宇高尚弘/HEADS)
■映画情報
『十年 Ten Years Japan』
公開:11月3日(土)よりテアトル新宿、シネ・リーブル梅田ほか全国順次
出演:杉咲花、國村隼、太賀、川口覚、池脇千鶴
配給:フリーストーン
(C)2018 “Ten Years Japan” Film Partners
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情報元リンク: ウートピ
「未来は決めすぎないほうが面白い」 太賀、石川慶監督と“十年後”を語る