ひとり親の宇宙飛行士・サラと幼い娘・ステラの、ロケット打ち上げまでの日々を描いた映画『約束の宇宙(そら)』(アリス・ウィンクール監督)が4月16日(金)に公開されます。
2010年にスペースシャトル・ディスカバリー号に搭乗し、国際宇宙ステーション(ISS)でロボットアームを駆使した作業を行った、宇宙飛行士の山崎直子さんは「私が宇宙に行ったとき、長女がちょうどステラと同じ7歳でした」と振り返ります。
同映画のスペシャルアンバサダーに就任した山崎さんにお話を伺いました。
「周りにヘルプを出す」ことが評価される
——まずは映画の感想をお聞かせください。
山崎直子さん(以下、山崎):すごくリアリティがあって感情移入しながら見ていました。私が宇宙に行ったときも、長女がちょうどステラと同じ7歳でした。しかも、フランス人のサラさんが宇宙大国のロシアという、自国ではない場所で訓練をするのも一緒だったので、思わず当時のことをいろいろ思い出しました。
——途中からミッションに参加することになったサラですが、同じクルーのマイクから冷たく当たられ、男性主導の世界であることが垣間見えます。山崎さんはご自身の経験を振り返られて、自分が女性であることで大変だった部分はありましたか?
山崎:訓練そのものというよりも、子育てをしていない男性と比べてハンディがあると感じたことはあります。でも、宇宙では男女の違いを感じることはなかったです。訓練もやることも同じように割り当てられますし、宇宙船の中にいるときは体も浮くので体力的にも楽になります。女性だから不利ということはなかったです。
——山崎さんは宇宙飛行士の訓練中に妊娠と出産を経験されたと伺いましたが、どんなことが大変でしたか?
山崎:子育て中の働く女性も同じだと思うのですが、やっぱり子供って自分ではコントロールできないんですよね。いきなり熱を出したり、ケガをしたり、気分のアップダウンがあったり、「今日は仕事に行かないで」と泣かれたり、寂しくなったり……。サラさんもそうでしたが仕事と子育ての板挟みで常に悩まないといけない。どちらかを取ればどちらかに後ろめたさを感じてしまう。その葛藤が大変でしたね。
——山崎さんはその葛藤とどんなふうに向き合っていたのでしょうか?
山崎:当時はがむしゃらだったのであまり覚えてないんです。でも極力、予測できるところは前もって準備していましたね。朝であれば30分早めに準備をして何か突発的なことがあっても対応できるくらいの余裕を持たせる。保育園からの呼び出しがあっても元夫と2人で連絡を取りながらなんとかやっていましたね。あとは、映画にも出ていたファミリーサポートの職員の方の協力も大きかったです。自分一人ではできないので、いろんな人に助けてもらいました。
——いろんな人の手を借りながらやるのは大事ですよね。
山崎:誰にこれをお願いしてというマネジメントの部分はやらなければいけないですが、極力アウトソーシングできるところは外部に頼っていました。
——これは私の希望ですが、もっと気軽に助け合いができる世の中になればいいなあと思います。
山崎:本当にそうですね。1人で抱え込もうとすると本当につぶれてしまうので、そこはお互いさまで助け合えればいいですよね。
——周りを見ていてもなかなか助けを求められない人もいます。
山崎:そうなんです。宇宙飛行士の訓練でもいくつか評価項目があるのですが、その一つに自己管理というのがあります。それは全部自分でやることではなくて、困ったときに助けを出せることを「自己管理」としています。そうしないと、あとで自分がつぶれてかえって周りに迷惑がかかってしまう。宇宙飛行士に限らず早めにヘルプを出すことが大切だと思います。
大変なときこそ遠くを見る目を忘れない
——日本では“リケジョ”と理系の女性をやたら特別視したり「女子は理系に向かない」という風潮があります。宇宙飛行士はもちろん、「将来はこんなことをしたい」と夢を持っている女の子たちに向けてメッセージをいただきたいです。
山崎:理系の分野も男女関係なく楽しめる分野なので、興味があったら、まず扉を閉ざさないで挑戦してほしいと思います。訓練しているときに思ったのは、確かに大変なのですが、苦ではなかったということ。それは、宇宙飛行士という仕事が好きだと思えたから、自分でやりたいと思っていたからで……。自分が好きだなって思える心って、後々ものすごく大きなエネルギーになります。特に苦しいときとか壁にぶつかったときに、大きなエネルギーになってくる。だからどんな小さなことでも、自分の中で興味や関心があったら、たとえ周りが反対したり、快く思わない意見があったりしても自分の思いを大切にしてほしいなと思います。
——最後に読者へのメッセージをお願いします。
山崎:人生にはいろいろなフェーズがあると思います。近くを見ていると、波のアップダウンで酔ってしまうこともありますけど、ちょっと遠くといいますか、水平線だったり、遠くの星だったり、空だったりを見るような感覚で、長い目で見ることも大事かなと思います。
大変なときもあるかもしれないけど、「いつかはそこに行けたらいいな」「こうなったらいいな」という遠くを見る目も忘れないで思い出してほしい。船でも水平線を見ていると酔わないのと一緒で、そんな感覚を時々思い出してほしいと思います。
——最後と言いながらすみません、もう一つよろしいでしょうか? 宇宙飛行士のお仕事であれば「人類初」のような初めてのことに挑戦することもあると思います。宇宙飛行士でなくても、人生には大人になっても初めてに挑戦することはあります。病気で初めての手術をするなど、時には「悪い初めて」もあります。山崎さんが初めてに挑戦するときはどんな気持ちで挑みますか?
山崎:正直、私も初めてのことはやっぱり不安になります。でも、どうせだったらそこから何か学ぶというか、楽しむ気持ちで臨んでいます。「どんな雲にも光の筋がある」というアメリカのことわざがあるのですが、一見悪いことのように思えても、どこかに必ず何か光の筋はあるんですよね。
『約束の宇宙(そら)』
フランス人宇宙飛行士のサラ(エヴァ・グリーン)は、ドイツの欧州宇宙機関(ESA)で、長年の夢だった宇宙へ行くことを目指して、日々訓練に励んでいる。物理学者の夫トマス(ラース・アイディンガー)とは離婚し、7歳の幼い娘ステラ(ゼリー・ブーラン・レメル)と2人で暮らす彼女は、「プロキシマ」と名付けられたミッションのクルーに選ばれる。大喜びのサラだったが、このミッションに旅立てば、約1年もの間、娘と離れ離れになる。ステラを残し宇宙へ飛び立つまでに2カ月しかない。過酷な訓練の合間に、娘は母と「打ち上げ前に2人でロケットを見たい」と約束する。サラは約束を果たし、無事に宇宙へ飛び立てるのか……。
■映画情報
タイトル:『約束の宇宙(そら)』
配給:ツイン
公開表記;2021 年 4 月 16 日(金)、TOHO シネマズ シャンテほか全国ロードショー!
コピーライト:(C)Carole BETHUEL CDHARAMSALA & DARIUS FILMS
(聞き手:ウートピ編集部・堀池沙知子、写真:宇高尚弘)
- 「年を重ねるってそれだけで楽しい」矢田亜希子がいつも楽しそうな理由
- 「つかめる思い出があったんだ」夫を亡くした平野レミが上野樹里から言われたこと
- 向井理に背中を押されて、私はマネージャーという仕事を辞めた。
- 「自分の運命を面白がらなきゃ」樹木希林の娘に生まれて…【内田也哉子】
- 「安心しておばさんになってください」阿佐ヶ谷姉妹の“これから”と不安だった“あの頃”
- 「距離感を無視してくる人は“隕石”だと思え」ふかわりょうに聞く人付き合いのコツ
情報元リンク: ウートピ
「早めにヘルプを出すことが評価される」山崎直子さんに聞く、つぶれないために大事なこと