10代の頃のいじめ、ブラックな職場、うつ病、自殺未遂、精神病院への入院、生活保護、機能不全家族……。その言葉を見ているだけでもクラクラしてくる壮絶な人生を生き抜き、執筆活動を続ける小林エリコさん。新刊『家族、捨ててもいいですか? 一緒に生きていく人は自分で決める』(大和書房)では家族への想いがつづられています。
「憎いけど、憎みきれない」「大切だけど、複雑」。家族に対して、言葉にならない気持ちを抱えている人も多いのではないでしょうか。
小林さんに、「家族」について書くことを決めた経緯や、執筆を経て気づいたことについて話を聞きました。全3回の最終回です。
新しい家族という選択肢
——著書の中で、交際中のパートナーとのことも書かれています。今は、新しい家族を持つことに対してどうお考えですか?
小林エリコさん(以下、小林):ずっと彼氏がほしかったので、彼の存在はありがたいです。この先の関係について、彼は「結婚には自信がない」と言っているんですよ。そうか……と思って。でも、私は仕事をしていて、自分の食い扶持は自分で稼いでいるから、相手の扶養家族になる必要もない。
法律婚についていろいろ調べてみたりもしたんですけど、籍を入れることでお互いを縛り合うようになってしまうのではないかとも思うようになりました。
——事実婚でもいいかな、と?
小林:そうですね。人それぞれだと思いますが、逆に籍を入れないほうがある程度の緊張感を持って付き合えるのではないかと思ったんですよね。うちの父は、長い間ずっと妻を侮っていたんですよね。自分がいなければ生きていけないだろうと。母が離婚を言い出すなんて考えてもいなかったと思うんですよ。
結婚前は、東京から北海道へ引っ越した母を追いかけてプロポーズするという情熱的な面もあったみたいなんですけどね。
——そのギャップ!
小林:結婚後も、愛情はあったのかもしれません。でも、自分のものになった母に対して、それ以上大事にしようという気持ちがなかったと思うんです。
私は、好きな人と一緒に居たいと思ったら、法律で縛るのではなく、互いに自立していたほうがいいと思います。事実婚なら出ていけば別れられるし、そういう緊張感が相手に対する思いやりを失わせないのではないかと。家族関係を続ける、あるいは人間関係を続けるには、細かいメンテナンスと根気が必要なので。彼とはこの先も仲良くやっていくことを一番に考えたいです。
解散しても不幸じゃない
——家族には、「言わなくても察して」という甘えをつい持ち出しがちです。
小林:それはあると思います。友達は好きで付き合っているだけだから、「この前誘いを断って悪かったな」とか節度を持って付き合いますよね。元気にしているかな、誕生日だからメッセージやプレゼントを贈ろうかなとマメに気を配ることもする。でも、家族だとずっと一緒にいるという安心感から関係を雑に扱ってしまうこともある。もし関係がこじれて、後戻りできない状態になってしまったら、無理に家族でいる必要は全然ないなって思います。
——家族の関係が壊れてしまっても、「イコール不幸」ではない?
小林:私は不幸だと思っていません。幸せだとも言い切れませんけど。うちの家族は解散という道をたどったけれど、離れても、私の家族であった/あることにはかわりがないので。育った家族の中でいがみ合っていたときより、バラバラになって生きている今のほうがお互い自由で幸せなんじゃないかな。
ダメになっても大丈夫
——小林さんは、書くことで苦しかった過去を手放してきたように感じます。過去の著書のあとがきなどでも、読者に経験を共有し、追体験してもらうことで生きやすい社会について考える機会を提供するきっかけになればと。とはいえ、生きやすい社会って何だろうなって。
小林:そうですね。個人の「生きづらさ」と向き合うには長い時間が必要ですし、はっきりした正解もありません。結局、前進を続けるしかできないんですよね。私は、生活保護、精神障害、機能不全家族といろいろありましたが、書くことで前に進めました。
私はきっと、この先、いつでも落ちる可能性があると思っているんです。人間はいいことだけ起こるのではなくて、絶対に失敗するものだと考えているので。
——もう壮絶な目には遭ってほしくないです。でも、自分の身に何が起こるか誰にも予測できないですもんね。
小林:ありがとうございます。私たちは子どものころから、童話や物語などで繰り返し、「頑張れば成功する」、「正直者は得をする」という価値観を刷り込まれてきました。けれど実際は頑張っても報われないことってたくさんありますよね。真面目に実直に生きていても、貧乏ってことは往々にしてあるし。頑張った人が成功する保証もありません。
私が今こうしていられるのは、運がよかっただけなのだと思います。だけど、きっとまた失敗しても、大丈夫。ダメになっても、大丈夫だと思える自分自身と社会があれば何とかなると思うんですよね。
もう40歳を超えているし、この先、がんや何か大きな病気が見つかるかもしれない。でもそのときに、社会がこんな支援をしてくれるとか、たくさんの相談先があると知っていれば、絶望の中に居続けなくてもすむはず。知識やネットワークが助けになることは、私がよく知っているので。
本当にダメになってしまったときでも、ちゃんとはい上がれることを自分が知っていれば、それが支えになります。私の経験が、「病気になったり貧困に陥ったりしても、ちゃんとこの社会で生きていけるよ」という知識に変わればうれしい。新しい価値観や考え方は人を自由にするので、この先も頑張りたいです。
(撮影:大澤妹、取材・文:安次富陽子)
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情報元リンク: ウートピ
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