『負け犬の遠吠え』(講談社)や『男尊女子』(集英社)など、話題作を発表し続ける酒井順子さん。最新刊『家族終了』では、タイトルの通り家族をテーマに、さまざまな角度から変わりゆく日本の家族スタイルについて考察されています。
刊行を記念して、3月26日に代官山 蔦屋書店(東京都渋谷区)にて、ライターの武田砂鉄さんとのトークイベントが開催されました。このイベントの様子を全3回に分けてお届けします。
今回はその前に、長期の連休で実家のことを考えると憂うつになってしまう人に向けて、「自分は親不孝をしているのかもしれない」という会場からの相談に対する酒井さんと武田さんの回答を紹介します。
『家族終了』の中に「毒親からの超克」という章があります。私は家族が憎くて30歳直前に逃げるように仕事を辞めて東京に出てきました。一度も帰郷していないし、親とも連絡を取っていません。このまま会わずに死ぬのかもしれないとも考えます。私は親不孝者なのでしょうか。
親ではなく人間同士として見られるようになる
「まだ若いから、そういう感覚があるのでしょう。これからさらに年を重ねて行くと、親に対する感覚は変わっていくので、『親不孝』と自分で決めなくてもいいのでは。私も、仲がいい家族に生まれたかったなと思うことが多くありました。私の母は『女』丸出しの人でしたし、父は『自分が黒と言えば、白いものでも黒』という人だったので、(女優の)京塚昌子的な、割烹着を着たようなお母さんと、優しいお父さんのもとに生まれたら、私はもっと性格がよくなっていたのではないか、幸せになっていたのではないかと、ある種の家族幻想を持っていたんです。
けれど50代の今、『親にも何かつらいことがあったから、そうするしかなかったのではないか』と思うようになりました。親のことを人間同士として見られるようになったというか。親がなぜ自分に対してああいう態度をとったのかとか、なぜあんな性格なのかといったことは、自分も同じ年頃になると、わかるようになってくる。そうすると、少し歩み寄れるのではないかなという気はします。とにかく、現時点で親孝行か親不孝かと二分する必要はない。結論は、親が死んでもでないのだと思います」(酒井順子さん)
関係の再構築を目指す必然性はない
「自分の同世代には、いわゆる『毒親』に悩まされる友人が多くいます。漫画家の田房永子さんの『母がしんどい』(KADOKAWA)という作品では、毒親と戦う田房さんが、ふと、『同情してお母さんの100%味方になってあげたり一緒にいたりしなくていいんだ』と漏らす場面があります。(会場からの質問で)『自分は親不孝なのか』とおっしゃっていましたが、その問いを自分に投げ続けることがまず親の思うつぼ的なところがあるのではないでしょうか。田房さんの作品ではそういう呪いの突っぱね方を教えてくれます。別に今の状態のままでもいいんじゃないかと。この先、関係がどう変わるかはわかりませんが、とにかく現時点で、自分だけで背負わなくてもいいのではないでしょうか」(武田砂鉄さん)
【新刊情報】
酒井順子さんの『家族終了』(集英社)は248ページ、1400円(税別)で発売中。
武田砂鉄さん、又吉直樹さんによる新刊『往復書簡 無目的な思索の応答』(朝日出版社)は124ページ、1500円(税別)で発売中。
*家族終了トークイベントレポートは近日公開予定です。
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情報元リンク: ウートピ
「家族が憎い。私、親不孝ですよね」酒井順子さん、武田砂鉄さんの回答は