褒め言葉だと思うけど、なんだかモヤモヤする……。そんな微妙な気持ちになる一言について、作家のアルテイシアさんに相談してみました。第5回は「子どもがいるようには見えない!」です。
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なぜ私は微妙な気持ちになるの?
職業柄、美容やメイクやファッションには気を使っています。そのせい?なのか「子どもがいるようには見えない!」とよく言われて、そのたびにモヤモヤします。褒め言葉なんだろうけど、素直に喜べないというか…なぜこんな微妙な気持ちになるのか、自分でもよくわかりません。(36歳、美容関係)
女性芸能人のことを「二児の母には見えない美しさ」と称える記事はよく見かけるが、男性芸能人を「二児の父には見えないイケメン」と称える記事はほぼ見ない。
これは「母親は見た目に構わないもの」という、ステレオタイプな母親像があるからだろう。その根っこには「子育ては女の仕事」「母親は子どものために自分を犠牲にするもの」といったジェンダー観が存在する。
「子どもがいるようには見えない!」が褒め言葉として使われる一方で、子持ち女性が派手なメイクや個性派ファッションをしていると「母親のくせにどうなの?」と眉をひそめられたりもする。
またその一方で、子持ち女性が見た目に構わなくなると「女を捨ててる」と揶揄されたりもする。
「小姑か!いちいちうるせえ!!」と暴れたくなるママさんは多いだろう。44歳子ナシの拙者も、暴れ太鼓を打ち鳴らしたい。
ルッキズム大国ヘルジャパンのお家芸
天下の安室(奈美恵)ちゃんですら、出産後に復帰した時「劣化した」「もうアイドルとしては無理」等とメディアに書かれていた。
平気で人の見た目をジャッジする、ルッキズム大国ヘルジャパンのお家芸だ。
スウェーデンに移住した女友達が「スウェーデンでは“人の価値は見た目じゃない”“人を見た目でジャッジしない”が子どもでも知っているモラルの基本」と話していた。
彼女はスウェーデン育ちの娘さんに、何度かマジギレされたという。
たとえば、保育園のママ友のことを「○○ちゃんのママ、美人だよね~」とつい言ってしまったら「ママ、見た目がどう関係あるの?」とキツく言い返されたんだとか。
「マジギレされて、心から嬉しかった」という彼女はドMなわけじゃなく、「スウェーデンの子どもたちは、人間としてモラルに反することが何なのかをしっかり理解している」と感じたからだ。
スウェーデンといえばフェルゼンと美童グランマニエしか知らない拙者だが、マジで亡命したくなった。
女性誌『Domani』の広告炎上に思う
相談者殿が「子どもがいるようには見えない!」にモヤるのは、そこに潜んだステレオタイプなジェンダー観、及びルッキズムを感じるからだろう。それはご本人の感覚がアップデートできている証拠だと思う。
そして、メディアも早急にアップデートするべきだと思う。
去年、女性誌『Domani』の広告が炎上したが、そこには次のようなコピーが並んでいた。
「忙しくても、ママ感出してかない!」
「”ママに見えない”が最高のほめ言葉♡」
「ちょっと不良なママでごめんね♡」
「えっ!?お子さんいらっしゃるんですか!?」
「働く女は、結局中身、オスである。」
これを見て、強烈な昭和臭にめまいがした。
この広告は読者層であるワーママを応援したい、という意図で作られたのだろう。
だが「育児が大変でも女を捨てちゃ駄目だゾ♡」とプレッシャーをかけるのは、エンパワメントとは真逆の方向だ。
また「ママに見えないママが最高」→「ママに見えるママは駄目」というメッセージは、女性たちの分断につながり、シスターフッド(女性の連帯)とも真逆の方向である。
読者を応援したいなら「どんなママでも最高!」「息してるだけで偉い!」「みんなで助け合っていこうな!」というメッセージを発信するべきじゃないのか?
昭和ノリのヤバさたるや
極めつけが「働く女は、結局中身、オスである。」
「男は仕事、女は家事育児」という性別役割分業を強化するメッセージに「保守派のおじいさんが考えたのかな?」と疑惑が浮かんだ。
ネット上でも「時代錯誤で不快感しかない」「なぜオスにならなきゃいけないの?」「女は女として堂々と生きる自由がある、それは決して男のように生きることじゃない」と批判の声が上がっていた。
ターゲット層に嫌われたら、広告として失敗である。
事前に拙者に見せてくれたら「これ灯油かぶってキャンプファイヤーに突っ込むぐらい燃えますよ」と教えてあげるのに。ギャラは千円でいい。
この「ママになってもブイブイいわせちゃうぞ!ヒューヒューだよ!」的な昭和ノリもやばいが、ターゲット層が見えてないことが一番やばい。
令和のワーママたちはヒューヒューどころか「毎日、風呂に入る余裕もない」とゼエゼエしている。日本の子持ち女性の睡眠時間は世界一短い、とも言われている。
そんな疲弊しているママたちに「美容やおしゃれもがんばルンバ♡」とハッパをかけるのは、控えめに言って鬼だろう。
私だったら「お風呂入ったの?えらーい!」とコウペンちゃん流にスタンディングオベーションしたい。かつ「働くママにスーパーウーマンを求めるな!!」と暴れ太鼓をポンポコしたい。
父親にその質問をしますか?
ケイト・ブランシェット先輩が日本のTVインタビューで「母親と女優業の両立は大変ですか?」と聞かれた時、
「もし私がショーン・ペンやダニエル・デイ=ルイスなら、そんな質問はしないですよね?」「父親の場合『両立は大変ですか?』とは聞かれないと思います」と答えていた。
さすが先輩!!とスタンディングオベーションしまくったが、日本の女優さんが同じ回答をしたら「生意気」と叩かれたんじゃないか。
ヘルジャパンでは「朝5時に起きて子どものお弁当を作ってます」とアピールしないと「母親失格」と叩かれる。
そんな地獄みたいな社会だが、『Domani』の広告が炎上したり、ブランシェット先輩の発言が注目されたりと、時代は変化している。
私が20代の頃は、スーパーウーマン系のママが称賛されていた。
前職の広告会社では「子どもがいることを言い訳にしたくなくて、必死のパッチでがんばってトップ営業マンになりました!」みたいな女性の先輩に「そこに痺れる憧れるゥ!」と後輩たちがスタンディングオベーションしていた。
その中で「この世界は地獄だ…」とアルミン顔で震えていた私。
自分はそんな必死のパッチでがんばれないし、あっという間に過労死しそうだし、この会社で働き続けるのは無理…と思ったからだ。
そこから20年たって「特別な女性だけが活躍できるのではなく、普通の女性が普通に働ける社会になるべき」という声が高まっている。
子持ちも子ナシも手を取り合って、どんどん声を上げていけると嬉しい。
無垢な表情でナウシカ返しをキメよう
では「子どもがいるようには見えない!」と言われた場合、どう返せばいいか?
相手は褒めてるつもりなのに「うるせえ!!」とバチギレるのもナンだし、かといって「ありがとう」と返すのもなあ…
と迷った時は、無垢な表情&ナウシカの声で「じゃあ子どもがいるように見えるのって、どんな女性なのかしら?」と聞き返してはどうかしら?
ナウシカに擬態すれば、悪意に受け取られることはないだろう。それに「母親らしいとか母親らしくないとか、他人がジャッジするのってよくないかも?」と相手が気づくキッカケになるかもしれない。
また、発言した側も「女を捨てちゃ駄目だゾ♡」「美容やおしゃれもがんばルンバ!」的なプレッシャーを感じているのかもしれない。
なので「私は職業柄がんばってるけど、ぶっちゃけ風呂に入る余裕もないし、1秒でも長く寝ていたい」と本音を話せば、「わかる!」と膝パーカッションで盛り上がるんじゃないか。
思ったとしても、言わない
かくいう私も、うっかりこの手の発言をしないよう注意している。
「子どもがいるようには見えない」とか「年齢よりも老けて見えるな」とか、心の中で思ってしまう瞬間はあるだろう。
けれど、思ったとしても言わない。それがルッキズムに加担しないための鍵なのだ。
スウェーデンでは「人の容姿について何か思ったとしても、口に出すのはマナー違反」が常識のため、けなすのはもちろん、褒めるのも基本NGなんだとか。
「今日の服ステキだね」「その髪形いいね」とかは積極的に言うけど、顔や体型のことは言わないし、職場で「美人だね」とか発言する人も見かけない、と友人は話していた。
日本では「美人は得だよな」とか平気で抜かすおじさんもいれば、見た目イジリしてくるおじさんもいる。
20代の女子は「男性社員が女子社員の顔面偏差値ランキングをつけていて、『お前は最下位クラスだから(笑)』と言われた」と話していた。
また「おっぱい大きいね」「俺全然イケるわ(笑)」とか本気で褒めてるつもりで言ってきて、セクハラの自覚がないおじさんもいる。
「そんなのスウェーデンだったら新聞沙汰になると思うよ」という友人の言葉に、もはやスウェーデンがマリネラみたいな架空の国に思えてきた。
ファビュラスですね。デュフ
みたいなことを書くと「だったら日本から出ていけブス!」とクソリプが飛んでくる。
とはいえ昔の私がスウェーデンに行ったら、だいぶ非常識な人間だったと思う。
女子校育ちの私は綺麗なお姉さんを見ると「う、美しすぎます…!」と震えて「美人ですねデュフ」とか言ってしまう人間だった。
ちなみに、中学時代は憧れの先輩と文通していた。昭和どころか平安時代か?と若い人は驚くだろうが、当時はポケベルすらなかったのじゃよ。
そんな私も現在は「美人」じゃなく、その人のまとう雰囲気を称えて「ファビュラスですねデュフ」と言うようにしている。ただ「カワイイ」はパンダやルンバにも使うし、容姿だけに限らないのでOKにしてほしい。
一人一人がジェンダーやルッキズムに自覚的になること。そうすることで、社会全体のアップデートが進んでいく。
令和が良き時代になるように、暴れ太鼓と法螺貝でライブを続けたいと思う。
(イラスト:中島悠里)
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情報元リンク: ウートピ
「子どもがいるようには見えない!」見た目を口にする感覚のヤバさ【アルテイシア】