『夫のちんぽが入らない』で鮮烈なデビューを飾った作家のこだまさんによる2冊目のエッセイ『いまだ、おしまいの地』(太田出版)が9月に発売されました。
第34回「講談社エッセイ賞」を受賞した前作『ここは、おしまいの地』の続編。北の荒野「おしまいの地」で、詐欺師にお金を振り込んでしまったり、晴れ舞台に立つ直前に自然災害に巻き込まれたりと、相変わらず“ちょっとした事件”に巻き込まれるこだまさんや周りの人々の日常がつづられています。
後編では「いまだ、作家活動を周りの人には打ち明けてない」というこだまさんに話を聞きました。
【前編】「自分が自分じゃなくなるってそんなに悪いこと?」鬱で確変して分かったこと
いまだ、夫には明かしていない
——こだまさんは自分が作家活動していることをいまだに家族や身近な人たちに伝えてないそうですね。
こだま:周囲には一切言っていません。今回も昨日の昼に東京に着きました。今日の昼に帰るのでほぼ24時間の滞在です。
——夫にも言っていない?
こだま:言ってないですね。
——こだまさんの中で秘密が育っているんですね。
こだま:でも、デビュー作の『夫のちんぽが入らない』や『ここは、おしまいの地』のときのほうが、「これは秘密だから絶対に誰にも漏らさないようにしよう」とがっちり固めていたのですが、この本を書いているあたりから自分の中で緩くなってきました。「読まれたら読まれたでいいや」「気付かれたら気付かれたでいいかな」と。ただ自分からは言わないようにしようとは思っています。
——変化してきたんですね。
こだま:多分、家族のことや地域のことなど身近なことを書くようになってきたからでしょうね。以前は家族のつらい過去ばかり書いていたので「これはちょっと人に見せられないな」と思っていたのですが、最近は地域の日常が中心になりつつあり、本を手にとってくれた人が「ひょっとして」と思い当たるかもしれないなと。それならそれでいいかと開き直るようになってきました。
夫自身も、「何かデカいことをやりなさい」「ひと山当てなさい」ってここ1年くらい私に言うんですよ。だから何となく私が何かやってることは気付いているかもしれない。
——(夫は)なぜそんなことを言うんですか?
こだま:夫は仕事に行きたくないみたいで、私にバクチでひと山当ててほしいみたいな。それで暮らしていきたいみたいなことを言ってるので、彼が仕事が嫌で本格的に辞めるなら打ち明けようかなと思っています。私もそれを機に書く仕事をどんどんやりたいと言おうかなと。でも夫が最終的に判断するまでは言わないでおこうって。ズルさと不安といろいろありますね。
——何か楽しみですね。
こだま:楽しみではありますが、夫から絶縁される可能性もあるのでイチかバチかですね(笑)。
——ちょっとした爆弾ですね。
こだま:大きい爆弾が家の中にあるような感じですね。良くないことだとは思ってるんですけど。でもいざとなったら、私がもっといっぱい書いて養うという気持ちではいます。
ゴールを一つに決めないほうが自分に合っている
——もっと積極的に作家活動したいという気持ちはありますか?
こだま:原稿の量も今の状態でいっぱいいっぱいなのですが、足かせになっている部分がなかったらいろいろ書けたり取材したりできるんだろうなという気持ちはあります。だから、(作家であることが周りに)明らかになったらなったでまた道が開けるんだろうとも思うし、このままならこのままでもいいかなというどっちの気持ちもありますね。
——今回の本でも、自分のやり方で出口を探していくこだまさんの姿勢に個人的にすごく励まされました。
こだま:「与えられた環境下での最高をめざす」と書いたのですが、流されながらもその中で楽しく生活できる方法を自分で見つけたいんですよね。
——昔からそう思っていたんですか?
こだま:昔からですね。山の集落暮らしだったので諦めてはいるんです。「こんな田舎だし何もないよな」って。でも、その中でも日記をコツコツつけていたり、そこに楽しみを見いだしたりしていて……。今もこの先どっちに転ぶのかが全然分からないのですが、そのときに一番良い方法を見つけようと思っています。
——そのお話を聞いてすごく楽になりました。
こだま:ゴールを一つに定めないほうが私にとってはよいのかなって。もし「ゴールはこっち」と決めてしまって思ってもない方向にそれちゃったら大失敗と思っちゃうので、こっちに行ったら行ったなりの出口を探したいというか。上書きしがちな性格というか、「失敗した」というのを認めたくない負けず嫌いさもある。失敗したけど、結果的には良かったねで終わりたい。
——思いがけない方向に行ったとしても、こっちで良かったんだと思いたいですよね。
こだま:そうですね、そう思うために、必死に無理やりにでも納得しようとしているところがあります。帳尻合わせですね。
——最後に読者へのメッセージをお願いします。
こだま:『いまだ、おしまいの地』はほぼ失敗から始まってる話です。私は人付き合いをはじめ、苦手なことが多くて失敗ばかりしているんですけど、それが日常であり題材にもなっています。失敗を失敗で終わらせなかった記録というか……。
だから失敗したことを悔やむよりかは、それを利用して生きていくこともできますよ、というこじつけなんですけど、そんな本です。すみません、メッセージになってないです。
(聞き手:ウートピ編集部・堀池沙知子)
- 「自分が自分じゃなくなるってそんなに悪いこと?」鬱で確変して分かったこと【こだま】
- 「失敗を失敗で終わらせたくない」ゴールを一つに決めないのは“帳尻合わせ”【こだま】
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情報元リンク: ウートピ
「失敗を失敗で終わらせたくない」ゴールを一つに決めないのは“帳尻合わせ”【こだま】