褒め言葉だと思うけど、なんだかモヤモヤする……。そんな微妙な気持ちになる一言について、作家のアルテイシアさんに相談してみました。第7回は「優しい旦那さんだね」です。
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「家事育児は女の仕事」という前提に引っかかる私たち
・「うちは夫が料理する」と話すと「優しい旦那さんだね」と言われて、これって男女逆だったら言わないよな…?とモヤモヤ。(27歳、IT関連)
・子どもを夫に預けて出かけると「優しい旦那さんだね」「旦那さん、偉いね」と夫が褒められて、逆だったら褒めるか…?とモヤモヤ。(34歳、メーカー営業)
これらの発言にモヤるのは、相談者も気づいているように「家事育児は女の仕事」という古臭いジェンダー観の押しつけを感じるからだろう。
相手は「優しい夫でよかったね」的なニュアンスで言うのだろうが、「男女逆だったら言うか?」と考えてみてほしい。
昨今は夫婦共稼ぎがデフォルトで、「夫は料理担当、妻は掃除担当」など、得意分野で家事を分担するカップルが多い。
それぞれに合った形で家事を回しているのに「ごはん作らなくても文句言わないなんて、いい旦那だね」とか言うてくる人もいる。
職場のおじさんにそう言われた女友達は「夫は永遠にいい夫扱いされて、私が永遠に悪役みたいなのはおかしい!」とキレていた。
子持ちの女友達も「夫が育児するとイクメンと持ち上げられるのはおかしい!父親が育児するのは当たり前なのに!」とキレていた。
「子育ては女の仕事」という価値観が呪いに変わるとき
「過剰反応」「いちいち気にしなくても」と言うてくるおじさんもいるが、気にせずにいられることが特権なのだ。
その手のおじさんは料理好きの女子を「いい奥さんになりそう」と褒める一方、そうじゃない女子を「女子力がない」「嫁のもらい手がないぞ(ドッ!)」とイジったりする。
我々はそんな状況にうんざりしているのだ。
「コンプラ棒で殴られる」という表現があるが、殴られているのはこっちである。「何でもセクハラと言われたら何も話せない」とボヤく人々は、黙っていればよろしい。
「子育ては女の仕事」という価値観は特に弊害が大きい。
それが「母親は子どものために犠牲になるべき」という呪いにつながり、ワンオペ育児や産後鬱にもつながっている。
かつ、男性が育休を取りづらい現状にもつながっている。「男が育休を取るのは肩身が狭い」「出世に響く」といった話もよく耳にする。
「日本は世界一、夫が家事育児をしない国」と言われているが、データを見ても日本の男性の家事育児時間は先進国の中で極端に短い。
その結果、子育ての負担が妻に集中して、「日本の子持ち女性の睡眠時間は世界一短い」とも言われている。
これは男性も子育てする権利を奪われている、ということだ。そのことに男性自身がもっと怒ってほしい。
「ずっと子どもの寝顔しか見ていない」上司が深夜に漏らした言葉
広告会社で働いていた20代の頃、1歳の子どもがいる男性上司がいつも終電近くまで働いていた。
奥さんはワンオペ育児で大変だろうなと思っていたが、その上司が「ずっと子どもの寝顔しか見てない…」とふと漏らすのを聞いて、気の毒に思った。
20年前に比べると「子育てする権利を奪われてたまるかよ!」と立ち上がる男性は増えたと思う。
30代の男友達は子どもが誕生して以降、残業せず定時に帰ると決めたそうだ。
「おじさん上司にイヤミを言われるけど『娘をお風呂に入れなきゃいけないんで!』って帰ってます。娘の父親は僕しかいないし、娘が小さい時は今しかないんで」と話していた。
「夫の家事育児時間が長いほど、第二子以降の出生割合が高くなる」というデータがあるが、彼のところも第二子がすぐに誕生して、ますます育児に励んでいる。
なにより夫婦仲が良く子どもたちはパパを大好きで、男性が育児することは男性自身を幸せにするんだな……と実感する。
彼のような男性が増えて、父親が育児することが当たり前になってほしい。
男性が家事育児をしても「優しい旦那さんだね」「イクメンだね」と褒められない社会が、男も女も大人も子どもも、みんなが生きやすい社会だろう。
提案!「なぜなぜ坊や返し」
「(家事をするなんて)優しい旦那さんだね」「(子育てをするなんて)旦那さん、偉いね」と言われた時に、どう返せばいいか?
「そうですね」と返すのは「家事育児は女の仕事」というジェンダー観に同意しているようでモヤモヤする。
「ありがとう」と返して「旦那さんに感謝しないと!」とか言われるのもウザい。そこで「ノロケか~~?」とか言われたら、カッとなって刺してしまうかもしれない(グレッチで)。
ツイッターで「アルさんのコラムに頻出するグレッチという武器を検索したけど、楽器しか出てこなかった」とコメントをもらったが、楽器で合ってますよ(すみません)
モヤる言葉に対しては「なぜなぜ坊や返し」が効果的。
「なんで夫が家事をすると優しいの?私が家事をしても言われないのに、なんで???」と、幼少期のエジソン顔で返そう。
幼少期のエジソンはあらゆる事柄に疑問を抱いて質問するため「なぜなぜ坊や」と呼ばれていたそうだ。
幼少期のエジソンがどんな顔かは知らないが、無邪気な表情で「なんで?」と質問すれば、相手も「なんでだろう?」と考えるキッカケになるかもしれない。
厄介なおじさんに対しては、ドン引き返しが効果的。
「家事をしてくれるなんて、優しい旦那だね」と言われたら「えっ、○○さんは家事しないんですか?」とドン引き。「ごはん作らなくても文句言わないなんて、いい旦那だね」と言われたら「えっ、○○さんは奥さんに文句言うんですか?」とドン引き。
「それは…奥さん大変ですね…」と続ければ、相手はぴえんとなるだろう。
モヤる発言に対して笑顔で返す必要はないし、自虐は絶対にやめておこう。
「私、料理ヘタなんですよ~」と自虐すると「奥さん失格だなあ」「料理教室に通ったら?」とか説教されて、グレッチがいくつあっても足りない。
ついクセで自虐すると「こいつはイジってもオッケー」「見下してもオッケー」とナメられる。厄介な人を引き寄せないために、自虐は封印してほしい。
厄介な人にからまれた時、一番簡単なテクは「よそ見」である。
あさっての方向を見つめて「聞いてる?」と相手にムッとされたら「あの壁のシミ、人の顔に見えません?」とオカルト返しをキメよう。
「人の話を聞かない人」と印象づければ、あらゆる厄介事から身を守れるのでおすすめだ。
拙者、齢44の大人であるのだが?
私が個人的にモヤるのは、女友達と旅行や飲みに行った話をすると「(許してくれるなんて)優しい旦那さんだね」と言われることだ。
拙者は自立した44歳の大人なのに、なぜ夫の許可が必要なのか。
妻の行動には夫の許可が必要、という感覚がまず古すぎる。「許してくれる」なんてまるで罪を犯しているみたいだし、旧式の良妻賢母像を押しつけられるのはまっぴらだ。
その手の発言をされた時は「なぜ夫の許可が必要なんですか?」「安土桃山生まれですか?」とゴリゴリ詰めて、相手をぴえんぱおんさせている。
また、旅行や外食に行った話をすると「旦那さんと?」と聞かれるのも若干モヤる。
私は旅行や外食は女友達と行く派なのだが、そう説明すると「夫と仲が悪い」みたいな目で見られるのも邪魔くさい。
セットで行動する夫婦もいれば、別行動派の夫婦もいる。カップルの形は人それぞれなのだから、余計な口出しをするんじゃねえ。
多様性社会とは余計な口出しをしない、人の生き方を邪魔しない社会である。
一方、ヘルジャパンは「人数が多い方が正しい」「みんな同じであれ」という同調圧力が強すぎて、選択的夫婦別姓や同性婚も認められない。
「人数が多い方が正しい」と思考停止しているアホは、アホなので話が通じない。
「うちは選択的子ナシだ」と話すと「じゃあなんのために結婚したの?」と聞いてくるアホがいる。
「夫の年収を知らない」とコラムに書いたら「家計管理は妻の仕事ですよ、奥さん失格ですね」とクソリプが来て「てめえの合格などいらねえ」と無視した。
上記のようなアホに遭遇するとグレッチを乱射したくなるが、自分の頭でものを考えられない人の声に耳を貸す必要はない。そんな人々の発言にメンタルを削られるなんて、損である。
「結婚とは、夫婦とはこうあるべき」と押しつけられて「結婚って面倒くさい」と感じる人もいるだろう。でもカップルの形に正解はなく、2人に合った形にカスタマイズすればいいのだ。
そして「いちいちうるせえ」「好きにやらせろ」精神で、のびのび自由に生きてほしい。それを邪魔する奴らがいたら、拙者も一緒に成敗いたす(グレッチで)。
(イラスト:中島悠里)
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情報元リンク: ウートピ
「優しい旦那さんだね」にモヤモヤ…「そうです」と言えない私は心が狭い?【アルテイシア】