「三軒茶屋」を「三茶」と略す資格がない、「ポスト出川」から舵(かじ)を切った瞬間、人付き合いについての考察――。
お笑いタレントや司会者として活躍するふかわりょうさんによるエッセイ『世の中と足並みがそろわない』(新潮社)が11月17日に発売されました。
どこにもなじめない、何にも染まれないふかわさんのいびつな日常を書き下ろした同書について、今年で芸歴26年目を迎えるふかわさんにお話を伺いました。前後編。
ポタージュのような日常で味わうスープ
——新潮社から「エッセイを書きませんか?」と声を掛けられたのが今年1月だったそうですね。
ふかわりょうさん(以下、ふかわ):そうですね、 実際に書き出したのは2月です。今回、エッセイを書くにあたり自分で決めたテーマとして「自分をさらけ出す」というのがありました。書き始めたら、書く内容やネタに困るということは特になくスルスルと書き進められました。
——「自分をさらけ出す」をテーマにしたのはなぜですか?
ふかわ:「文学とはそうある(自分をさらけ出す)べきだ」という思いが自分の中にあったんです。それで「さらけ出す」ってどうすればできるんだろう? と考えて……。
タレントとしてもあまりそういうことが得意ではない気はしていたのですが、担当さんが全部開放して大丈夫なんだよという気持ちにさせてくれたので文章でさらけ出せた気がするし、書き進めていくうちに「こうすればさらけ出せるんだな」と分かってきました。それぞれさらけ出す部位は違うのですが。
——一冊の本になっていかがですか?
ふかわ:こうして取材やインタビューを受けて改めて感じたことなのですが、自分が日常の中で感じた違和感、何らかの気持ちの揺らぎで生じた感情がSNSなどですぐに外に吐き出されるのではなく、心の中に沈殿していって固まりつつあった――。そんな“固形物”をちょっとスプーンですくってお湯で溶かして差し出したのがこの本のような気がしました。
——スープなんですね。
ふかわ:そう、スープです。優しいスープ。特にゴージャスでも特別でもないただただ日常で味わうスープ。ポタージュのような。ちょうど今思っただけなんですが、そういうことですね(笑)。
達観しているのではなく沈殿しているだけ
——本ではふかわさんの「世の中と足並みがそろわないこと」についてのエピソードがつづられていますが、ふかわさんは達観されているのだなあと思いました。
ふかわ:僕は、達観どころかただただ沈殿しているので。ただ、世の中と足並みがそろわないことを悲観も楽観もしていません。この隔たりのような、川のような小川のようなものをただただ眺めるに過ぎない。それを喜ぶでもなく、悲しむでもなく、「ここに川が流れていますね」と言っているだけなので。その川のせせらぎに耳を傾ける日々なんです。川のせせらぎ、隔たりを小川と感じ、耳を澄ませる気持ちでいいと思うんですよね。
一人一人が音を奏でる楽器
——新潮社の方から「『生きづらくてもいいじゃない』というのがこの本のテーマのひとつです」と伺ったのですが、「生きづらさ」についてはどう思われますか?
ふかわ:もちろん「生きづらくてもいいじゃない」という部分もあると思うのですが、僕は人生というものは音楽だと思っています。一人一人がそれぞれ音を奏でる楽器で、いろいろな楽器があっていい。一人一人がいろいろな音色を奏でるのだけれど、やっぱり誰かが演奏することによって音色が響くので、人との関わり合いだと思うんですよね。この人といるときはこういう音色、あの人といるときはああいう音色というように……。
音色の違いがあるに過ぎなくて、そこに均一的なものを求めたり、何かに当てはめようとしたりするから「生きづらさ」を感じると思うんです。どこにも当てはめる必要はないし、何かに当てはまらないからと言って、それは決して孤独を意味するものでもない。そういう意味では、自分の音色を大事にするというか受け入れることが大事なのかなと思います。
だから僕は「この本を読めば、みんな心が軽くなりますよ」と言うために作ったものでもないですし、「世の中にはこういう人間もいるよ」というだけです。
よく日曜の昼間にやっているドキュメンタリーとかあるじゃないですか。それを見て、何か救われる人もいると思うんです。そこに出演している人は別に世の中の人を救おうなんて思っていないですよね。それに近いものだと思います。だからこの本も、決して処方箋でもお薬でもなんでもなく、ある中年のドキュメンタリーです。しょうもないドキュメンタリーです。
(聞き手:ウートピ編集部・堀池沙知子、写真:宇高尚弘)
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情報元リンク: ウートピ
「人生は音楽。一人一人の音色を大事にして」ふかわりょうから“生きづらさ”を感じている人へ