近年、レンタルやリセール、シェアなど所有ではなく「持たない暮らし」が注目されていますが、冠婚葬祭の分野も例外ではないようです。
お墓情報サイト「ハナミズキ」を運営するIT企業「キリフダ」が9月に“自宅に納骨する”がコンセプトのミニ骨壷「ZAYU」を発売しました。
お墓離れや供養の形の多様化などについて伺った前編に引き続き、後編ではなぜIT企業が骨壷の販売をすることになったのか、豊沢真輔(とよさわ・しんすけ)社長にお話を伺いました。
自分たちが欲しいミニ骨壷を作りたかった
——お墓情報サイト「ハナミズキ」を運営しているということですが、IT企業が骨壷まで売っちゃうんだと驚きました。
豊沢真輔さん(以下、豊沢):確かに、お墓を検索する情報サイトを運営している立場からしたら、自宅納骨をコンセプトに掲げるミニ骨壷を発売するのは矛盾しているというか、アンチテーゼですよね。
それでも骨壷を売ろうと思ったのは、世の中に自分たちが欲しいと思う手元供養の骨壷がなかったんです。自宅納骨や手元供養は当事者にとってはすごくありがたい選択肢の一つなのですが、それがなかなか普及していない現状があった。
そこで「なぜ普及していないのだろう?」と考えたときに客観的に見て買いたいものがなかった。家に置きたいというものではなかったんです。
——確かにネットで「ミニ骨壷」と検索しただけでも、1万円台で買えるものがたくさん出てきます。
豊沢:それらに比べると「ZAYU」は10万円台からと高価かもしれない。でも、大事な人を弔うものとして長い間、近くに置いてほしいものなので、材質やデザインにこだわりました。やはり最期は日本の風土に包まれるのが穏やかであろうと想像し、国産であることも譲れませんでしたし、目に触れて美しいものでなければならない。
各パーツは富山県の高岡市や京都で作っているのですが、木を削る工場、真鍮(ちゅう)を削る工場、真鍮(ちゅう)に着色する工場、木に漆を塗る工場、木の壷を包む絹の巾着を作る工場、とそれぞれ異なる工場でそれぞれに作って最後に組み合わせるという手間のかかることをしています。全体の設計を決めるのには試行錯誤の連続でしたし、サイズ感を合わせるだけでも何度も何度も試作を重ねました。
——ミニ骨壷を作ろうと企画して発売するまでどのくらいの期間がかかったのですか?
豊沢:企画からローンチまで約2年かかりました。僕らがそもそもIT畑の人間でリアルなものづくりの経験が少なかったというのもあるんですけれど。ウェブサイトなら早ければ数カ月でできちゃうのでそこは驚いたことの一つですね。
キーワードの数だけマーケットが存在する
——豊沢さんは新卒でヤフーに入社して営業企画部で広告商品の企画や管理をご担当されていたそうですね。ITベンチャーに転職された後、2007年にキリフダを設立されたと伺いました。IT企業での経験はどんなところでいかされていますか?
豊沢:ヤフーでは莫大(ばくだい)なキーワードが日々検索されているわけですが、そこで感じたのが「キーワードの数だけマーケットが存在する」なんです。
例えば、今までは街角で100人に聞いて、20人知っているとか10人から名前が上がるとかじゃないとビジネスにはなっていなかったと思うんです。でも、インターネットの世界では100人中たった1人でも見ている人がいれば、ビジネスになっちゃうんですよね。そのたった1人にアプローチするためのコストがかからないので。
ヤフーといえば皆さん、ニュースやスポーツ、オークションなどかなりマジョリティなサービスを思い浮かべると思うのですが、検索の向こう側にはもっとミニマムなメディアがビジネスになるチャンスがあるなと思った。それで徐々に独立を考えました。
——それはいつ頃のことですか?
豊沢:2004年の頃ですかね。ただ、ヤフーは大企業なので独立するためのノウハウは何も学べない。ゼロイチをやっている会社で修行しようと思って入った会社がちょうどウェブの葬儀社の紹介ビジネスをやっていたんです。消費者と葬儀社のマッチングサービスです。
そこでゼロイチを学んで、独立したのが2007年だったんです。その会社で葬祭系の業界をたまたま見ることができた。そこで、本当にニッチな市場でも、全国から束ねればビジネスになるんだというのを実感できました。
——ヤフー時代に感じていたことを確信したんですね。それで会社を設立して「ハナミズキ」を立ち上げた?
豊沢:実はその前にワンクッションあって、まず植毛クリニック検索サイトを立ち上げました。前の会社の派生サービスをやるのはもちろんやりやすさもあるのでしょうが、当時は若くて尖っていたのでまったく違う分野で結果を出したいという気持ちが強かったんです。
でも、2008年のリーマンショックとともに消えました。本当に髪の毛も吹き飛ぶほどの不景気だったんです。(笑)
それでたまたま葬儀関連の業界の人と会う機会があったときに「お墓の情報サイトを作ってくれないか?」と言われて「ハナミズキ」を立ち上げました。
ミニ骨壷のターゲットは40、50代
——ウートピは20代〜40代の女性に多く読んでいただいているニュースサイトなので、「『お墓』や『終活』はうちの読者層からは離れてしまうかな?」「どちらかと言うと、読者の親世代のほうが親和性があるのかな?」と思ったのですが、「人生100年時代」と言われて自分がどう生きていくかはどの世代にとっても関心事の一つであるし、年末年始で帰省した機会に終活について話し合う機会も増えるのではないかなと思い、お話を伺いたいと思いました。
豊沢:ありがとうございます。実は、「ZAYU」のターゲット層は40~50代の層なんです。実際、購入してくださる方はもう少し年代が上かもしれないんですが、ちょうど僕も41歳で同じ世代の人に共感してもらいたいなというのと、同じ世代だからこそ分かってくれるのではないか? と思ったんです。
——「分かってくれるのではないか?」というのは?
豊沢:ちょうどいろいろなしきたりと新しい価値観を良いバランスでうまく取捨選択できる世代の境がこのくらいの世代なのではないかなと勝手に思っていて……。
僕らの親の世代はちょうど団塊の世代あたりの方が中心だと思うのですが、情報はネットよりも新聞や紙媒体が中心ですよね。僕らはちょうど、ネットに上手に移行した世代じゃないですか。だから、ちょうどZAYUもネットで見た僕ら世代の方が終活中の親に教えてあげるというパターンもあるのではないかなと思ったんです。
クーラーの効いた部屋で弔うのはバチあたりではない
——前回、「遠くのお墓になかなか行けなくて罪悪感を感じている人に利用してほしい」というお話もありました。ターゲット層の罪悪感を軽減したいという気持ちもあるのでしょうか?
豊沢:それはありますね。お墓というと、宗教色もあるし、いまだ「イエ」の意識に支配されがちなもの、まだまだアンタッチャブルな分野だと思うんです。つまりどこか思考停止してしまって、自分のものさしで考えられにくいところがある。
でも、この猛暑の中、遠くのお墓に交通費をかけて行くかっていったら、多分難しいと思うんですよ。それでもやっぱり、どこかで引っ掛かっているものを皆さん持っていると思っていて。クーラーの効いた部屋で大事な人を弔うのはバチあたりではない。ぜひ堂々と利用してもらいたいなと思います。
——世の中の価値観は常に変化するし、私たちのライフスタイルも変わっていきますよね。確かに先祖を思うことは大事だけれど、遠い場所にあるお墓まで定期的に訪れてきちんと管理できるかと言われたら荷が重い。経済的な不安も大きいです。
豊沢:「イエ」ですとか「先祖代々の墓」といったものに変に縛られすぎないでほしいんです。ちょっと調べると、それらもそんなに長い歴史のある形式ではないことはすぐ分かります。
それよりも、一人ひとりの、故人を思い弔うという本質的な気持ちの部分を優先してあげてほしい。高いお金を払ってお墓を見つけたのに、結局遠くてお墓参りに行けないとか、継承の心配ばかりする、というのは残念だし、形式にこだわりすぎると自分自身がつらくなる。自分が納得いかなくなる。罪悪感すら持ってしまうようになる。
現代の家族やライフスタイルにあった合理的な方法で、少しでもそんな方々の重荷を軽減できればいいなと思っています。
【前編】お墓も「持たない」がトレンド? “自宅納骨”がコンセプトのミニ骨壷発売の背景
(取材:ウートピ編集部・堀池沙知子)
- お墓も「持たない」がトレンド? “自宅納骨”がコンセプトのミニ骨壷発売の背景
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情報元リンク: ウートピ
「クーラーが効いた部屋で供養してもいいんじゃない?」IT企業がミニ骨壷を発売した理由