恋のこと、仕事のこと、家族のこと、友達のこと……オンナの人生って結局、 割り切れないことばかり。3.14159265……と永遠に割り切れない円周率(π)みたいな人生を生き抜く術を、エッセイストの小島慶子さんに教えていただきます。
第11回と、続く第12回は小島慶子さんの最新著書『幸せな結婚』(新潮社)の刊行を記念して、結婚にまつわる罠について書いていただくことに。今回は「イクメンと結婚したい」という罠がテーマです。
イクメンが、みんな聖人だと思うなよ
イクメンという言葉が生まれてだいぶ経ちます。育児をする男性も以前より珍しくなくなりました。結婚するならイクメンと!と思っている女性も多いでしょうけど、私、ちょっと危惧してます。
イクメンが、みんな聖人だと思うなよ。
そりゃ素敵に見えますよね、スーツ姿で子供の手を引いている若いお父さんなんかみるとキュンとして「仕事もできて育児もしてくれるあんな男を捕まえた女が妬ましい」とか思ったりするのかもしれない。それにひきかえ自分の夫は……と至らぬ伴侶を呪ったり。
でもそれ、幻想ですから!イクメンだって普通の人だし、なんならクソ野郎かもしれないし。不倫男が良き父親なんて珍しくもない話。
家事と育児の能力は、いまどきの男性に求められる必須条件。だけどそれがあるからと言って全人格的に優れているわけじゃない。家事と育児をしている女性が全員聖母じゃないのと同じです。
母親はみんな聖母であれなんて言われたら大迷惑ですよね? なんだよこの母性神話って、ぬるいこと言ってんじゃねえよぐらいのことは、子育てしてれば誰だって思ったことあるでしょう。
夫婦とも出世はそこそこという道も
なのに男性にはつい、よく稼ぎよく家事をしてよく育児をするパパであれとか求めがち。そんな無茶振り、された方もたまらんでしょう。
もちろんこれから結婚するなら、妻にママの代わりを求めるような家事育児能力ゼロの赤ちゃん男子は絶対にやめたほうがいいけど、そうではない男がみんな人格者とは限りません。人格者じゃなくていいし、家事も手抜きしていいし、育児も失敗しながらでいいんです。大多数の母親がそうであるように。
仕事だって、家事や育児とのバランスをとらなくちゃいけないでしょう。そうすると上司の覚えがめでたくなくなって、花形部署からは外されるかもしれないし、出世も遅れるかもしれない。マミートラックがあるように、イクメントラックもあるはずです。
だって日本の会社は「家庭は妻に任せてます、子供は知らぬ間に大きくなりました」っていう男たちしか適応できないようにできてるから。数十年もの間、国ぐるみで「男は仕事、女は家庭」で労働者をフル稼働させられる体制を整えてきたんだから。心の底からそんな体制ぶっ壊してしまえと思うけど。そういう働き方しか知らない男たちが意思決定層をみっちり占めているから、なかなか変わらんのです。
だから共働きでヘッジするしかないのですよ。二人とも出世はそこそこだけど二人で家事して育児してなんとか家を回していこうというやり方です。一方がうんと働ける時はもう一方がセーブしてもいいし、二人とも痛み分けで働き方を調整するときもあるし、そこはやりくりしながら世帯収入を維持するという現実路線で行くしかありません。家はだいたい片付いていればいいし、料理も食べられればまあいいし、育児だって完璧でなくても子どもが笑顔で安全に暮らしていければいいんです。
「前線部隊と基地」という夫婦カンケイ
仕事も家庭も完璧さを求められても苦しいだけ。それで多くの女性がしんどい思いをしてきたのに、理想の男性像の話になると急に「稼ぎのいいイクメン」とか言い始めるのはどうなんだ。また同じことを、女が歩んだ茨(いばら)の道を男にも強いるのか。ましてイクメン男性は、まだマイノリティ。制度の支援も世間の理解も、働く女性よりもはるかに少ない現状で、彼らの志と努力だけに期待するのは酷というものです。
私の夫は家事と育児も当然のごとくやるし、かつては共働きだったから、いわゆる今でいうところの理想のイクメンの部類に入ると思うんだけど、別に全然聖人じゃないですよ。なんなら本が一冊書けるぐらいの恨みもあるのですが、息子たちにとってはいい父親だし、私も子育てパートナーとしては信頼しています。
今は夫は働いていないので、夫婦関係はかつてのような戦友めいた間柄から、前線部隊と基地みたいな関係に変わりました。私が出稼ぎでいなくなったり、満身創痍で消耗しても、夫がベースをきっちりやっているので子どもは安定した環境で生育できるし、私も帰る場所がある。これそのまま猛烈サラリーマンの憧れを歌った『聖母たちのララバイ』状態ですが、私はあの歌詞みたいに身勝手なことはパートナーに求めません。(2番まで読んで下さいね。男性目線で書いたんでしょうが、どんだけ都合のいい女をやらされるんじゃと怒りが湧いてきます)。
なぜ私たちは「完璧なイクメン」を妄想してしまうのか?
でも。私の中にもイクメン神話は生息していて、ああ、家事も育児もやりつつ、バッチリ稼いでいる男もこの世のどこかに存在するのだろうなあ、そんな完璧な男を捕まえた女が羨ましいなあなどと、時々妄想してしまうのです。いくら良き父親で家事万能でも、やっぱり無職の夫は物足りないなあと、ない物ねだりをしてしまう。
もしも逆の立場で同じことをされたら許せないですよ。私が仕事をやめて専業主婦になって「家事も育児も大事だけど、君はお金を稼いでないから物足りない」とか夫に言われたら、主婦舐めんな!!と叫びます。
イクメン神話の押し付けは自重しなくちゃね……。
きっと、世界のどこかには「稼ぎのいいイクメン」もいるんでしょう。でも、それは「完璧なママCEO」とかと同様、希少種なので標準にしちゃダメです。ご近所に大企業勤務の子煩悩ハンサムパパが生息していて、嫉妬で胸が張り裂けそうになったら、神話バイアスで目が眩んでいるのだと気を取り直して下さい。
あ、ついでに私の新作小説『幸せな結婚』(新潮社)を読んでみて下さい。イクメン幻想をぶち壊すお話ですので、少しスッキリするかもしれません……。
【新刊情報】
小島慶子さんの最新著書『幸せな結婚』(新潮社)が刊行されました。
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情報元リンク: ウートピ
「イクメンと結婚したい」って罠だから【小島慶子のパイな人生】