よく噛んで食べることはダイエットに有用で、また歯や口内、顎の病気を予防するなどが知られています。さらに、「疲労の予防や改善にもつながる」という情報を耳にしました。よく噛むと疲れにくいそうですが、どういう理由なのでしょうか。
疲労医学の第一人者でベストセラー『すべての疲労は脳が原因』(集英社)シリーズの著者の梶本修身医師に、詳しく聞いてみました。
噛む回数の影響でファストフードが続くと疲れやすい
はじめに梶本医師は、「よく噛むこと」の効用と疲労の関係について、こう説明をします。
「よく噛むことは健康上、食べすぎや肥満を予防する、脳や胃腸、口の中、あご、のどの活動を活発にする、味覚や発音の発達など、多くの面で有用であることがわかっています。
疲労との関係については、結論から言って、よく噛んで食べると疲労の回復を促し、逆に、柔らかいものばかりを選んであまり噛まないと、疲労の回復をさまたげることになります」
また、若い世代やビジネスパーソンに多い「噛まない食事」として、
「たとえば、ファストフードによる食事を続けていると疲れやすいと言われますが、それは食事内容の栄養バランスに加えて、噛む回数の影響があるからです。ファストフードでは、その名の通り、すぐに早く食べられる食事を提供しています。『カレーライスは飲みもの』と言われるように、早く食べられるものは、あまり噛まずに無意識に飲み込んでいると言えます。
よく噛まないと唾液が分泌されにくくなります。それが疲労回復をさまたげるのです」と梶本医師。
唾液が細胞のさびを防ぐ
ファストフードでは、噛まずに飲み込んでいるとの指摘に思いあたり、ドキッとしました。では、唾液の分泌の状態と疲労はどう関係しているのでしょうか。梶本医師は次の説明を続けます。
「唾液には、食べたものを消化する酵素が含まれています。そのうち、ベルオキシターゼという酵素には、細胞の酸化を防ぐ作用があります。
疲労は、おもに脳の細胞が酸化してダメージを受けることで起こりますが、その引き金となるのが、活性酸素です。酸化とは、細胞がさびるとイメージしてください。呼吸で体内に取り入れた酸素の一部は、活性酸素となって細胞に酸化ストレスをもたらします。
ベルオキシターゼは、その活性酸素を除去して細胞を守るように働きます。しかし、噛む回数が少ないと唾液の量が減るので、ベルオキシターゼによる恩恵も減るわけです」
食事をひと口で30回噛むと疲労回復になる
あまり噛まないでいると唾液が少なくなり、抗酸化作用を持つ酵素の分泌も減るということです。またはじめに、よく噛むと食べすぎや肥満を予防するとのお話しでしたが、それでは、「食べすぎや肥満と疲労」も関係するのでしょうか。
「直結します。食べすぎや肥満が続くときは、消化吸収、血圧、血流、心拍などの調整が必要になって、これらをコントロールする自律神経のバランスが乱れます。すると、体のだるさや不調、さらに意欲の低下にもつながります。
また、満腹感は食事をはじめてから20~30分ほどで分泌される消化管ホルモンによって得ることができます。よく噛むと食事時間が長くなり、時間とともに消化管ホルモンの分泌が盛んになって『もう満腹だ』と脳が感知するため、それ以上の食べすぎを防ぎます。すると、胃腸での消化吸収活動も促され、自律神経の負荷が軽減します」
早食いや食べすぎなど肥満の原因となる食べ方は、脳疲労をため込むということです。たしかに食べすぎると、胃とおなかだけでなく、全身がしんどく感じます。では、食事の際にはどのぐらいの回数を噛めばいいのでしょうか。
「はじめにお話しした食べすぎや肥満、また疲労の予防や回復のためにも、ひと口で30回以上を噛むことが推しょうされています」と梶本医師。
また梶本医師は、よく噛むことと食事の内容についてこうアドバイスを加えます。
「たとえば、食材を細かく切り刻むよりも大きめにカットする、肉類でもひき肉で作ったミートボールやハンバーグよりも、ステーキのほうが噛む回数は増えます。このごろファストフードばかり食べているなとか、あまり噛んでいないなと思う場合は、食事の内容を見直しましょう」
よく噛むことは、唾液の分泌量や状態から、疲労の予防や回復に作用することがわかりました。そして、食べすぎや肥満と疲労は、脳の働きやホルモンの分泌、作用からつながっているそうです。よく噛むことがそれらの予防に有益だとは、新鮮な発見がありました。早食いや飲み込むくせをいますぐ改めて、毎食、ひと口に30回以上を噛むようにしましょう。
(取材・文 海野愛子/ユンブル)
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情報元リンク: ウートピ
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