ひがみ、ねたみ、そねみなのか、無邪気なのか。アドバイスかクソバイスか……。私たちをモヤっとさせる言葉を収集する「モヤる言葉図鑑」。
作家のアルテイシアさんと一緒に「モヤる言葉」を観察していきます。今回は「もう許してあげたら?」です。
Contents
「デスノート降ってこねえかな〜」と思ったことがあるあなたへ
毒親、モラハラ夫、性差別やセクハラ・パワハラの加害者…等など。
人間誰しも、許せない相手の一人や二人や百人はいるだろう。私も「デスノート降ってこねえかな~」とつねに空を見上げている。
あいつのことが許せない。そう思うのは、そいつにひどいことをされて傷ついたからだ。それに対して「もう許してあげたら?」と言う人を見るとモヤる、というか怒髪天を衝く。
許す許さないは本人が決めることだ。また、許そうと思って許せるものでもない。「もう許してあげたら?」と言う人は「許す方が正しい」「許そうと思ったら許せるもの」と考えているのだろう。
だが、許せないことに一番苦しんでいるのは本人なのだ。許せたらどんなに楽だろう、忘れられたらどんなにいいだろう…そう切実に願いつつ、許したくても許せないからつらい。
そんな被害者に向かって「もう許してあげたら?」と言うのは、二次加害だと思う。
目の前で親を殺された人に向かって「(犯人のことを)もう許してあげたら?」とは言わないだろう。「(大したことじゃないんだから)もう許してあげたら?」と被害を軽視するのは、被害者をさらに傷つける二次加害だ。
言われた側は「許せない自分はダメなんだ」と自分を責めて、さらに苦しむ。つらい気持ちを1人で抱え込み、孤立化してしまう。すると心の回復からますます遠ざかる。
「許してあげたら?」が口を塞いでしまうことも…
「もう許してあげたら?」「相手も事情があったのよ」「相手も苦しんでると思うよ」「そんな大げさに騒がなくても」「気にしすぎじゃない?」「私だったら気にしないけど」「あなたも悪かったのでは?」「そんなに責めたら相手が可哀想」「なんでそんなに怒るの?」「怒っても解決しないよ」「怒りを抱えたままだと不幸になるよ」……等など。
これらはすべて被害者を追いつめる言葉だ。かつ、被害者の声を封じる言葉でもある。
いじめの被害者に「(加害者を)許してあげたら?」「相手も苦しんでると思うよ」「そんなに責めたら相手が可哀想」等と言うと、被害者は声を上げられなくなる。
この手の発言をする人は「自分は中立の立場だ」と主張するが、クラスでいじめがあった時に「自分は中立の立場だ」と何もしないのは、消極的にいじめに加担していることになる。
周りが声を上げなければ、加害者はいじめし放題なのだから。「見て見ぬふりをしてくれてありがとう、おかげでいじめを続けられるよ」と加害者は喜ぶだろう。
被害者のために声を上げられなくても、せめて余計なことは言うな、禰豆子や獅子丸みたいにチクワでもくわえとけと思う。チーズやキュウリを詰めると美味しいワン。
心の回復に必要なこと
車にはねられて骨折したのに「こんなの大したことない」と無理に歩こうとすると、傷は治らないどころか悪化してしまう。心の傷も同様である。
心の回復に必要なのは、怒り、憎しみ、苦しみ、悲しみ、絶望……といった感情を吐き出すこと。それを他人にも理解してもらうこと。
「ひどい目に遭ったんだから、そんなふうに感じるのは当然だよ」と認めてもらうことで「自分の感じ方は正常なんだ」と安心して、トラウマがじょじょに癒されていく。
一方、トラウマの知識のない人は「許す方があなたのためよ」「つらい過去は忘れて前に進もう」とアドバイスしたりする。
すると言われた本人は「許せない自分、前に進めない自分はダメなんだ」とさらに自信を失い不安になる。ありのままの感じ方を否定されると「どうせ話してもわかってくれない」と1人で抱え込んでしまう。
1人で抱え込まないこと、支えてくれる味方を見つけることが、トラウマの回復には必要なのだ。
なので、信頼できるカウンセラーや友人に相談してほしい。友人に相談する際は「私の言葉を否定せず、アドバイスもせず、ただ話を聞いて受け止めてほしい」と伝えるのがおすすめだ。
そうやって安心できる場所で気持ちを吐き出すこと。その積み重ねによって、心が回復していく。
拙者も毒親由来のトラウマを抱えていたが、自分でも飽きてゲップが出るぐらい、毒親について書いたり話したりするうちに「どうでもええわ」という気分になってきた。そして気づくと「傷は癒えた!!」と言えるラオウ状態になっていた。
どうでもいいと思えるぐらい、相手の存在が小さくなる。すると、許すとか許さないとか考えなくなる。それが自分にとって真の「許し」なのだと思う。許そうと思って許すのではなく、真の許しは向こうからやってくるのだ。
(トラウマからの回復については、精神科医の水島広子さん著『対人関係療法でなおすトラウマ・PTSD』『正しく知る不安障害 不安を理解し、怖れを手放す』がおすすめ)
心は不可侵領域
「自分を傷つけた相手を許せないのは当然だし、許さなくていい。心は不可侵領域で、相手をどんな方法で殺そうが自由なのだ」
私はいつもコラムにそう書いていて、それを読んだ方から「許さなくていい、という言葉に救われた」と感想をいただく。それだけ多く人が「許すのが正しい」という圧に苦しんでいるのだろう。
毒親育ちの場合は「もう許してあげたら?」「血のつながった親子なんだから」「育ててもらった恩があるでしょ」「子どもを愛さない親はいない」といった圧に苦しめられる。
こうした発言をする人々は「家族の絆」教や、毒親ポルノ(毒親を許して和解する系のお涙頂戴コンテンツ)に洗脳されているのだろう。
どんなにひどい親でも、子どもは「親を愛せない自分はひどい人間じゃないか」と罪悪感に苦しむ。そのうえ、当事者の苦しみを知らない人々からの無神経な言葉に傷つく。
その手の人々に「うち毒親なんですよ」と言っても「親だって完璧じゃないんだから」「あなたも子どもを産めば親の苦労がわかる」と説教をかまされがちだ。そんな時は「それ児童虐待の被害者に言います?」と返すと、さすがに黙る人が多い。
が、そこまで言っても「親もつらかったのよ、許してあげて」とか言うてくる奴もいる。
拙者の場合は「父親に5千万の借金を背負わされたんですよね」と言うと、相手がドン引きしてくれるので便利。
『離婚しそうな私が結婚を続けている29の理由』に書いたが、23歳の時、私は父親に脅されて保証人の書類に署名捺印させられた。
45歳の私だったら「毒毒モンスターがあらわれた!逃げろ~!!」と実印を膣にしまって逃げる。23歳の私が署名捺印してしまったのは「親子は助け合うべき」「親を見捨てるなんてひどい」という家族の絆教に洗脳されていたからだ。
ゆえに「家族の絆教、バルス!」と念仏のように唱えている。
JJの忘却力に救われている現在
また当時の私は自分の家庭環境がみじめで恥ずかしくて、毒親の話を誰にもできなかった。あのとき誰かに相談できていれば、実印を膣にしまって(略)
20代の私は会社の先輩から「正月ぐらい実家に帰ってあげなさいよ」「親も寂しがってるでしょ」と言われても「うちの親、ひどいんですよね~」と笑顔でかわしていた。すると先輩の1人から「被害者ぶるな!」と言われた。
その瞬間チクワで殴打すればよかったが、手元にチクワがなかった。チクワは殺傷能力が低いので、グレッチかゴボウで殴ればよかった。
または「屋上へ行こうぜ……久しぶりに……キレちまったよ……」と怒ればよかったが、その時はショックで何も言い返せなかった。「スパールター!!」と屋上から蹴り落とすのは無理でも、そいつに少しでもダメージを与えたかった。
ダメージを与える方法としては、エシディシ返しもアリだ。「あァァァんまりだァァアァ AHYYY AHYYY AHY WHOOOOOOOHHHHHHHH!!」とギャン泣きすれば、そいつを「ひどい発言で後輩を泣かせた悪者」にできる。
そうすれば「フー、スッとしたぜ」とスッキリするし、相手が謝ってくるかもしれない。そのときは「すみません、心が叫びたがってたんで」とクールに返そう。
その先輩はデスノートで殺したいリスト筆頭だが、なんと名前を忘れている。あの日見た花の名前どころか、許せない奴の氏名も思い出せないとは、JJ(熟女)の忘却力に感服する。
この忘却力のおかげで、JJはとても生きやすい。たとえばクソリプを見た瞬間はムカつくが、1分後には忘れている。
また私は毎月こつこつ借金返済していて、銀行で振り込むたびに「クソ親父め、あの世で会ったらチクワでしばいたる」と思うが、1分後には忘れている。過去の怒りや苦しみもすっかり薄れてしまって、普段は思い出すこともない。
怒りや苦しみを抱えている人も「傷は癒えた!!」とラオウになれる日が必ず来る。今は死にたいぐらいつらくても「生きててよかった」と思える日が来る。私なんて今は100歳まで長生きしたい。
だから、それまでどうか踏んばってほしい。そして元気になったら、一緒にチクワと法螺貝をもって出陣しよう。
(イラスト:飯田華子)
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情報元リンク: ウートピ
「もう許してあげたら?」で口を塞がれてしまう人もいる【アルテイシア】