人に弱みをさらけ出すことが得意な人もいるし、不得意な人もいるでしょう。しかし「児童虐待を防ぐ」という視点から見たとき、自分のなかにある形のない感情を第三者にさらけ出すという行為はとても重要になってくると斉藤章佳さんは語ります。
日常的にカウンセリングを受けているという犬山紙子さんと斉藤さんに、上手な気持ちのさらけ出し方と受け止め方についてお話いただきます。
「死にたい」の裏側にあるメッセージを想像してみる
斉藤章佳さん(以下、斉藤):男性も女性も弱さを共有できる場所が必要だという話を前回したんですが、基本的に感情って、言葉にする必要があると思っています。言葉にすることでその感情を自分自身のものとして自覚し、それとともに生きていくことが重要な癒しのプロセスなんですよね。
犬山紙子さん(以下、犬山):実はこの間、クローズドなSNSで「死にてえ」って投稿しちゃったんです。人に面と向かって「死にたい」って言うと本気で心配されるので言わないですし、もちろん絶対に死なないんですけど、たまに無性に死にたいって言いたくなる時があって……。
斉藤:どういうときに言いたくなるんですか?
犬山:うーん、仕事も趣味も充実しているし、家族にも恵まれているし、友達のことも大好きだし……。でもなんかちょっとやらかしてしまったり、誰かに余計な一言を言ってしまったり。そんなことが続いて、「自分ってダメだな」っていう感情が高まったときでしょうか。
斉藤:なるほど。死にたくなるほどツラい気持ちとか、やるせない感情に名前をつけると「死にたい」が近いということですね。でも私は「死にたい(ほどツラい)」って言えるコミュニティはすごく大事だと思いますよ。だって今の日本って、なかなかそういうことが許されないじゃないですか。つまずくことすら許容されない空気が蔓延している。
犬山:そうなんです。「死なないで」「そんなこと言わないで」って、すぐ間に受けて止められちゃう。いやいや、言うだけ言わせてほしい、みたいな。なんかこうやって話しているだけで、ちょっと涙が出てきました(苦笑)。
斉藤:子どもが「死にたい」って言うと、普通大人は止めますよね。でも本当は、「どうしてそういう気持ちになったの?」と聞いてもらいたいんですよ、子どもって。
犬山:とてもよくわかります。
斉藤:周囲は言葉だけを捉えて「死ぬのは良くないことだ」とすぐに否定してしまうんですが、本当はその裏にあるメッセージをちゃんと聞かないとダメだと思うんです。子どもって否定され続けると、本当の気持ちを言わなくなります。どうせ否定されるなら、言っても無駄だってなります。
“癒される場”として有効な女子会やカウンセリング
犬山:その話、大人にもそのまま当てはまると思います。女子会、あるじゃないですか。「マウンティングの場」なんてたびたび暗喩されますけど、いい女子会もちゃんと存在するんですよ。
斉藤:いい女子会って、どんな女子会なんですか?
犬山:お互いの悩みをじっくり聞き合えるような会ですね。「そんなのダメだよ」とか途中で茶々を入れない。それこそクソバイスもしない。最後まで聞くんです。ただそれだけで、案外気持ちって癒されるんですよね。そういうことを、私たち自然と日頃からやっているな、って最近気がつきました。
斉藤:そういう場所は、女性、男性にかかわらずとても必要だと思います。ちょっとハードルは高いかもしれませんが、本当はもっと気軽にカウンセリングにアクセスしてもらえるといいな、というのが私の願望です。
犬山:それはありますよね。私もカウンセリングには定期的に通うようにしています。周りに対してもハードルを下げたくて、「今日カウンセリング受けてきた」ってブログやTwitterに書き込んでいます。きっかけは海外ドラマの影響なんですけど(笑)。登場人物がすごくカジュアルにカウンセリングに通っていたので、私もちょっと行ってみようかな?っていうのが入り口でした。
斉藤:そのくらいの気軽さでまったく構わないと思いますよ。
犬山:私が発信したことで「興味がある」「行きたいと思っていたから情報が知りたい」とリアクションをくれる友人も多かったです。そういう子たちには、自分のカウンセラーを積極的に紹介しているんですが、初めての人にとってはどこから知識を得ればいいのか難しいですよね。最近はネットでカウンセリングをしてくれるサービスもあるみたいですが……。
斉藤:ネットにもありますけど、やっぱり基本は目と目を合わせて直接カウンセラーに会ってというのがいいと思います。自分の感情を言葉にして聞いてもらう、そのことで「こころ」と「からだ」が一致する、この感覚が肝心なので。カウンセリングも専門分化していてさまざまなカテゴリがありますから、自分の課題や症状に合ったカウンセラーを探すといいと思います。
虐待のトラウマから子どもを救うために
犬山:一方で、今私が一番気になっているのが、子どもの心のケアの問題なんです。大人のカウンセリング以上に土壌が足りないような気がしていて……。
斉藤:子どものケアについては、待遇が悪いという理由もあってなかなか専門家が育たず、人員の確保が難しいというのが現状ですね。保育士の待遇改善も盛んに叫ばれていますよね。NPOや児童相談所などもマンパワー不足が否めません。児童虐待をどうにか食い止めようというなかで、とても重要なところがおろそかになってしまっていると感じます。
犬山:私は今、民間でそういう活動をされているところに、クラウドファンディングでお金が行くような流れをつくりたいと考えているんです。もちろん本音としては「国がやってほしい」なんですが……。
斉藤:おっしゃる通りですね。虐待というのは、長期に渡ればわたるほどトラウマが固定化してしまう。なるべく早い段階で児童福祉のスペシャリストが介入できるフィールドを整えなくてはいけないと私も考えています。
犬山:虐待を食い止めるために私たちにできることは限られていますけど、負の連鎖を断ち切ることが大事ですよね。虐待を受けた子どもが心の傷が癒されないまま大人になって、苦しみの表現の仕方がわからなくて、自分より弱い人間を痛めつけてしまうことだって中にはある。全員がそうではないし、とても立派な人たちもたくさんいます、でも中にはそういう子だっている。そんな悲しいことが起こる前に、社会全体で働きかけていかなくてはと思います。
【第2回】「母」は強くなきゃダメですか?
(構成:波多野友子、写真:青木勇太、編集:安次富陽子)
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情報元リンク: ウートピ
「こころ」と「からだ」を一致させるために必要なこと【犬山紙子・斉藤章佳】