褒め言葉だと思うけど、なんだかモヤモヤする……。そんな微妙な気持ちになる一言について、作家のアルテイシアさんに相談してみました。初回は「いい奥さんになりそうだよね」です。
古臭いジェンダー観の押し付けを察知
“○○と言われて微妙な気持ちになる私”をテーマにコラムを書くことになった。
第1回のテーマとして、担当氏から送られてきたエピソードが以下である。
コロナ禍の前なんですけど、社内でちょっとした打ち上げがあり終了後に片付けを手伝いました。早く片付けて帰りたいって気持ちだったのですが、それを見ていた同僚に「いい奥さんになりそうだよね」と言われました。
相手に悪気はなく、むしろ褒めてるつもりなんだろうけど、なんか無性にモヤる。なぜこんなに微妙な気持ちになるの? 私がおかしいの? 過剰反応なの??
そんな自分でも言語化できないモヤモヤを解説いただければ幸いです。
「わかる!」とヒザを打った女子は多いだろう。私も「わかるわかる♪」とリズミカルにパーカッションした。
「いい奥さんになりそうだよね」にモヤるのは、古臭いジェンダー観の押しつけを感じるからだ。
たとえば、ステージ上で雄弁にスピーチした女子に「いい奥さんになりそうだよね」とは言わないだろう。安土桃山生まれの老人であれば「女にしておくのはもったいない」ぐらい言うかもしれない。
イベントの後片付けは、目立たない裏方の仕事である。
数年前、おにぎりを2万個握った高校野球の女子マネージャーが話題になったが、これが大リーグボール養成ギプスを製作した女子マネージャーであれば、「美談」にはならなかったんじゃないか。
おにぎりの製作やユニフォームの洗濯など、「あくまで裏方として献身的に」、表舞台で活躍する球児を支える女子が称賛される。
そんな現象を目にすると「よっ、さすがジェンダーギャップ指数121位のヘルジャパン!」「やたらサムライとかナデシコとか言いたがる国だよね!」と野次を飛ばしたくなる。
令和になっても、いまだに日本には「良妻賢母」「内助の功」「男は外で働き、女は家を守る」といったジェンダーロールが根付いている。
料理や家事が得意な女子を「いい奥さんになりそう」と褒める一方、その型にはまらない女子は「女子力がない」「嫁のもらい手がないぞ(ドッ!)」とディスられる。
我々はそんな状況に、ほとほとうんざりしているのだ。「古ぼけた型を押しつけるな、好きにやらせろ!」「自分が主役で何が悪い!」とバチギレているのだ。
と書くと「そんなに怒らなくても」「過剰反応」「女は感情的」と赤潮のようにクソリプが発生するが、それももう慣れっこである。「ババアのヒステリー」「更年期ww」と揶揄されても、44歳の作家は下の世代の女子に向かって言い続ける。
「いい奥さんになりそうだよね」と言われてモヤるあなたの感覚は何もおかしくない、きわめてまっとうであると。
こんな地獄の中、生きてるだけで偉い
1976年生まれのアルテイシアが小学生の時は「級長は男で副級長は女」「男がリーダーで女がサブ」が当たり前のルールだった。
2020年現在、建前上は男女平等がルールだが、実社会に出ると男尊女卑にぶん殴られる。
「女は子どもを産むから」と進学や就職で差別され、産休育休を取ってもベビーカーで電車に乗っても迷惑がられる社会で、「じゃあ子どもを産まない」と女が選択すると「けしからん、ワガママだ」と責められる。
職場では「女には期待しない」「がんばっても無駄だ」と頭を押さえつけられ、がんばらないと「やっぱり女は仕事ができない」とナメられる。
そんな中、決死の思いで出産すると保育園に入れるのも超ハード、保育園に入れても働きながら子育てするのは超超ハード、ワンオペ育児で死にそうDEATH!!
みたいな地獄に生まれた女子はみんな、生きてるだけで偉いのだ。そんな彼女らが堂々と好きな生き方を選べる社会に変えていきたい。
多様性社会とは人の生き方を邪魔しない、余計な口出しをしない社会である。
良妻賢母になりたい人は、なればいい。それ以外の選択肢も自由に選べること、それぞれの選択を誰からも批判や否定されないこと。
そんな「ごく当たり前のこと」を我々は望んでいるが、ヘルジャパンではそれがいとも簡単に打ち砕かれる。
婚活から離脱していく女子はワガママなのか?
30歳の医者の女友達は、結婚相談所に提出するプロフィールに「共稼ぎで家事の分担を希望します」と書いたら、担当者に「ワガママかもしれませんが、結婚後も仕事を続けたいので、たまに家事を手伝ってもらえると嬉しいです」に修正されたという。
「私の希望ってワガママなんですかね…」とうなだれる彼女を見て「この世界は地獄だ」とアルミンの顔になった。
同様に「結婚したけりゃ家庭的アピールしろ、良妻賢母アピールしろ、子ども好きアピールしろ」とクソバイスされて、「私が結婚を望むのが間違いなんですかね…」と婚活から離脱していく女子は多い。
「戯言は地獄の鬼にでも言え!!」と結婚相談所に火をつけたいが、地獄の業火で焼かれるべき真の敵は、ジェンダーの呪いである。
かくいう私もかつては無意識にジェンダーロールを刷り込まれていた。その反省があるからこそ、「うっかり呪いを拡散してないか?」とつねに自問している。
「いい奥さんになりそうだよね」と旧式の型を押しつける発言をする側が、アップデートするべきなのだ。
これからは笑顔をやめて「bot返し」を
とはいえ、仕事の場で「その発言は時代遅れだしジェンダー的にアウトだし、アップデートした方がいいですよ」と相手に教えてやるのは難しい。
だからといって「ありがとうございます」と笑顔で返す必要はない。それをするとモヤモヤや後悔に苦しむし、「彼氏は?結婚は?」とウザいからみをされても厄介だ。
女子はまず、反射的に笑顔を出すクセをやめよう。笑顔じゃなく真顔で「えっ?」と相手を見つめて「…意外と古典的な考え方なんですね」と返すといい。すると相手は「自分の考え方は古くて時代遅れなのかな?」と気づくかもしれない。
もしくは「えっ、なんでですか?」「私は仕事で後片付けしてるんですけど、それといい奥さんとどう関係があるんですか?」と質問で返すのもアリである。
相手が吉良吉影なら爆殺される恐れがあるが、そうじゃなければ「たしかに関係ないよな」と気づきを与えられるかもしれない。
そこで「やっぱ女の子は気づかいができた方がいいでしょ」「褒め言葉なんだから素直に受け取った方がいいよ」とか言われたら、「○○さんはそういう考えなんですね」「○○さんはそういう考えなんですか」とbot返しをキメよう。
ひたすらbot返しをすれば相手は話す気を失うし、「貴様の意見を押しつけるな」と暗にアピールもできる。
そこでまだゴチャゴチャ言ってきたら「それうちの百歳の祖父もよく言ってます」とおじいさん扱いして「その祖父が危篤なので帰りますね!」とさっさと離れるのが一番だ。
この世にはびこる様々な呪いを、女子には元気よくバットでかっとばしてほしい。そんな願いを込めて、呪いを滅するようなコラムを書いていきたいと思う。
(イラスト:中島悠里)
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情報元リンク: ウートピ
「いい奥さんになりそう」って褒め言葉なんだとは思うけど…【アルテイシア】