もっといろんな「かぞく」を知りたい! そんな願いを叶えるイベント「かぞくって、なんだろう?展」(以下、かぞく展)が2018年6月30日から7月7日まで、東京都豊島区にある「TURNER GALLERY」で開催されました。
会期中は展示に加えさまざまなトークイベントを実施。今回は、7月2日に開催された、トークライブの一部をお伝えします。
法律婚を選んだ佐々木ののかさん、事実婚を選んだかとうちあきさん、非婚を選んだ櫨畑敦子(はじはた・あつこ)さんが、それぞれの「かぞく」の形のメリットやデメリット、「かぞく」観について語り合いました。
役割に存在意義を見出したい人もいる
櫨畑:先日、知人の男性に「子ども食堂をやりたいんだけど、俺らは男で母性がないからどうしよう。女性見つけてきた方がいいかな」と言われたんですよ。ただ、母性が必要だと思い込んでいるのは自分たちなんですよね。子ども食堂で勇気付けられる何かはあるし、そもそも子ども食堂はご飯を食べるところであって「ご飯出すのに母性もくそもあるかい」と答えたんですけど。
佐々木&かとう:たしかに(笑)
櫨畑:無理にお母さん役をする必要はなくて、よりどころになれたらいいなってくらいでいいんじゃないの?、と。最近我が家でも「よりどころ大臣」という役割を新しく作りました。よりどころ大臣は定期的に来てくれて、私抜きで2~3時間ほど散歩や買い物に出かけます。母親の人だけじゃなくて、気の許せる安心できる相手がいると多方にとってメリットがあると思っています。そこにお母さん役とか母性とかって、あんまり意識しなくていいんじゃないかな、って。
佐々木:家族の取材をしていると、決まって1〜2割の読者から「子どもがかわいそうだと思わないのか」とか「親はこうあるべきだ」みたいな批判ツイートが出てきます。他人の人生なのになぜこんなに怒るんだろうとは思うんですけど、一方で彼らの背景に思いを巡らせると、「こうあるべき」という義務感に苦しんでいる当事者でもあるのかな、と思うんです。
櫨畑:それはきっとあるだろうね。自分自身が「こうあるべきだ」にがんじがらめになっている。
佐々木:それに加えて、やっぱり求められたいとか、自分が親であることに存在意義を見出している人もたくさんいると思うんです。それがいい/悪いではなく、単純にその人の選択の結果であると受け止めるだけでいいと思うのですが……。
櫨畑:多様な、とか口に出すには、そういう「批判してくる人」というのも含めないといけないとは思っています。私も、ある面では「こうだ!」という自信のあるトピックを持っていたとしても、別の局面では誰かを批判したりしたくなっちゃうこともある。人間誰しもそういう部分はあると思う。
その違和感を他人のせいにして説教や批判・攻撃を加えるなどとして噴出させるか、それとも自分の中に問題があるのだと考えて、その違和感と向き合うか、という違いはあると思うけどね。そもそも自分がなんで怒っているのかわからない人もいるだろうから、自分のことを俯瞰して見られず感情に振り回されて怒っている人は大変だよなと思います。自分もかつてはそうでした。
だけど「全部自分のせい」と考えるようになってからは、自分でどうにかしようと考えるようになりました。「自分の機嫌は自分でとる」ということですよね。
法律婚、事実婚、非婚、それぞれのメリット・デメリットは?
会場の参加者:お三方のそれぞれの家族の形によるメリットとデメリットがあれば知りたいです。
佐々木:メリットと言うには小さいかもしれないけど、「結婚早くした方がいいよ」っていうおせっかいがなくなったこと(笑)。あとは、「結婚してるんです」と先に伝えることで、セクハラを受けづらくなったことかな。
パートナーとの関係では、結婚の手続きが大変だった分、ふつうにおつきあいしていたときと違って「はい、嫌い、別れる!」とはならないことですかね。関係を続けていくために話し合おうとたち戻る場所ができた気がしています。
櫨畑:RPGでいうところの、セーブポイントができたみたいな感覚に近いよね。
佐々木:そうそう。デメリットは、周りの対応が変わったことですかね。よく既婚者と独身の間に断絶というか、独身がひがむみたいな話があるんですけど、実態はもう少し陰湿なマウンティングがあるんじゃないかと思っていて。法律婚をした途端に、それまで私の記事に難色を示していた人たちがコロッと「やっぱりあなたもこっち側だよね!」「いい記事書いてるよね」って。
櫨畑:へぇ!
佐々木:それがちょっとムカつくというか。しかも一人じゃないっていう(苦笑)。
かとう:私の場合は、思っていたよりも周りはすんなり受け入れてくれるんだなと知れたのは収穫でした。中にはイヤイヤ渡してくれた人もいるかもしれないけど、ご祝儀くれ、と言ったら結構集まったし(笑)。
櫨畑:私は、育児が基本的にはワンオペでできることかな。私自身は身近な人からの暴力やデートDV経験者なので、なにかの圧力を感じながら生活するよりも、子どもと2人気ままにワンオペの方がうまくいくんじゃないかと思っていて。パートナーも含めた、子育て経験者や教育に関わる頼れる先輩や友人なんかに相談にのってもらえるので、今のところ順調に交通整理ができていると思います。デメリットは、地震とかのトラブルが起きたときに、一人では荷物が持ちきれなかったりと、マンパワー不足で大変なことですかね。家の中で育児をしている分には問題ないけど、そういうトラブルに弱い。
あとはデメリットは、ラベルを貼られるようになったことかな。「選択的シングルマザー」という呼ばれ方をするようになったんだけど、私は「選択的シングルマザー」を選択したり、名乗ったりした覚えはない。違いますよと説明するんだけど、今度は「非婚出産の櫨畑さん」て言われるようになって、その代表のような扱いをうける。大変ですよね、そんなこと言いだしたら。既存の考え方に囚われるばかりで息苦しい。
かとう:従来のラベルから離れたつもりが、新たにそういったラベルを貼り付けられるんですね。
櫨畑:どうしても、顔も知らない相手のことはラベルで認識してしまいがちですよね。ラベルにも「大分類」「中分類」「小分類」とあって。私はいちばん小さな「櫨畑敦子」っていうラベルで生きているつもりなんだけど、「選択的シングルマザー」という大分類のラベルで考えたい人がいて、その方がわかりやすいから。
佐々木:わかりやすさ先行みたいなのよくないですよね。
かとう:この場所では仲がいい友達同士で話しているから通じているというのは、もちろんあると思うんですけど、このサークルから出てしまうと、外の人からは大きなラベルでしか見えなくなってしまうのかもしれない。
櫨畑:だから、こういう場で話を共有するのは意味があるのかなとは思います。たとえば今日ここにきた人たちが、「かとうさんっていう事実婚をしている人がいてね……」という話を友達にしてくれたら、きっとその人は「事実婚の人」ではなく「事実婚を選んだかとうさんという人がいるんだ」というように、今までよりも身近に感じてくれるかもしれないし。やはりネット上でのやり取りよりも、会って話すことのほうを優先したいですね。
■かぞく展について
非法律婚、夫婦別姓。非婚出産、特別養子縁組、シェアハウス子育て、LGBT子育て、ポリアモリー(複数性愛)、共同保育、さまざまな人々の暮らしをみながら、新しい、我慢しない「かぞく」を一緒に考える「かぞくって、なんだろう?展」。日本のちょっとめずらしい「かぞく写真」の展示や、そこにうつるかぞくの「系譜図」や「年表」、「思い出の品」が展示されたほか、ぴあフィルムフェスティバル受賞作品のドキュメンタリー映画『沈没家族』(加納土監督)の上映などが行われました。
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情報元リンク: ウートピ
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