適齢期になったらフツーに結婚して、子どもを授かり育て、生涯一人の配偶者と添い遂げる。そんなこれまでの「フツーのかぞく」の形に違和感を持ち始める人が増えています。「けっこん」することに懐疑的な人、「かぞく」をもつことにプレッシャーを感じる人、いまの状態がしんどい人……。
もっといろんな「かぞく」を知りたい! そんな願いを叶えるイベント「かぞくって、なんだろう?展」(以下、かぞく展)が2018年6月30日から7月7日まで、東京都豊島区にある「TURNER GALLERY」で開催されました。
会期中は展示に加えさまざまなトークイベントを実施。今回は、7月2日に開催された、トークライブの一部をお伝えします。
法律婚を選んだ佐々木ののかさん、事実婚を選んだかとうちあきさん、非婚を選んだ櫨畑敦子(はじはた・あつこ)さんが、それぞれの「かぞく」の形のメリットやデメリット、「かぞく」観について語り合いました。
法律婚だって、やめたくなったらやめればいい
櫨畑敦子さん(以下、櫨畑):この3人で集まるのって、去年の「わたし、産みたい!展」以来ですね。あの時は、ののかちゃんは未婚で、「結婚したくない」派だったよね。
佐々木ののかさん(以下、佐々木):そう。あれから、法律婚しました。
櫨畑:入籍はいつ?
佐々木:今年の2月末なので、まだ4ヶ月経ったくらいですね。当時私がなぜ結婚したくなかったかというと、一度結婚すると「結婚した人」として見られる。それが嫌だったんですよね。「一生添い遂げるんだよね」みたいなイメージも強くて、それが重たくて。
そもそも世間がもつ「結婚」のイメージは、自分が思う「結婚」の形と乖離(かいり)しているような気もしていて、それを押し付けられるのも嫌だった。だから、いろんな家族の形を取材という形で見てきたわけですけれど。
櫨畑:家族と性愛をテーマに物書き業をしていますもんね。
佐々木:はい。だけど、いろいろな家族の形を見た結果、法律の力を借りてお互いの関係性を築く形がいいかな、というところに落ち着きました。たとえば両者合意の上でパートナー以外の人とも親密な関係を築くポリアモリーという生き方をしていく方々もいたりするのですが、その場合は自分たちの約束と強い意志のもとで関係性を維持していかなければいけないんですよね。それが私にとっては難しいなと思うようになって。
櫨畑:そうなんや。
佐々木:家族社会学者の先生の話も、大きなインパクトを受けました。その先生は多様な結婚について研究されているのですが、その上でご自身が法律婚を選んだ理由はなんですか、と聞いたら、「たとえば自分が入院するとなった時に、いくらパートナーとして生活していたとしても、家族として認めてもらえないからサインひとつできない。同居している事実婚状態ならサインはできるかもしれないけど、別居していたら無理。そうだと知ってから、結婚しようと思った」とおっしゃっていて、とても納得したんです。
櫨畑:なるほど。
佐々木:それまでは「結婚」というものに、恋愛も子育ても金銭面もすべてがパッケージのように詰め込まれていて、それらをすべてこなさないといけないんだと思っていました。でも取材をしていくうちに、入院する時のサインをしてくれる人、くらいの感覚でもいい。やめたくなったらやめればいい。誰がなんと言おうと自分の価値観で決めればいいんだ、と思えるように変わりました。そうやってハードルが下がったことで気持ちがラクになったんですよね。
ポリアモリーとして生きる上で法律婚は相入れなかった
櫨畑:かとうさんは、事実婚していますよね。
かとうちあきさん(以下、かとう):はい。でも正直、事実婚という意識、自分の中にはあまりないんですよ。ただ一緒に暮らしている、「夫のようなもの」と「妻のようなもの」。なので自分では「結婚のようなもの」と言ってるので、事実婚と紹介されると、しまったなーという気持ちもあります。
櫨畑:それはカテゴライズされるのが嫌だということ?
かとう:というよりは、法律婚ほどではないにせよ、事実婚もそれなりの法的拘束力があるわけじゃないですか。私は家族を作ること自体に一切興味がなかったし、そういった法律のないところで暮らしていたつもりだったので……。
櫨畑:たしか最初は法律婚する予定だったんですよね。かとうさんの言うところの「夫のような人」からプロポーズされて……。
かとう:そうそう、一回受け入れて、婚姻届を出す数日前に「やっぱりヤダ」ってひっくり返した(笑)。プロポーズも、もともと私はポリアモリーの自覚があって、「他の人とも仲良くするよ」というのをはっきり言うようになったら、「精神的な保障があればポリアモリー的な行動があっても大丈夫かもしれない」という彼からの希望があったわけです。そこまで言うなら、法律婚してもいいのかなって思って、一度はプロポーズを受けました。
ただ、婚姻って結局、一対一が考え方のベースになるので……。ポリアモリーとは別物で、それをやってしまったら自分の中で違和感が生まれてしまって嫌だな、と思ったんです。だったら、結婚「のようなもの」にすればなんとかなるんじゃないか、って。
佐々木:かとうさんは、結婚だけではなくて、「お店のようなもの」とか、「社長のようなもの」もされていますよね。
かとう:はい。なんでもそうやって曖昧にやろうと思っていたんですけど、「結婚のようなもの」だけは、お店や会社の時の反応と違って、「結婚おめでとう!」ってすごく言われる。あれにはなんだか敗北感があるんですよ(笑)。
佐々木:それ、わかります。「結婚おめでとう!」って言われるたびに少し気持ちが引いてしまうというか。
櫨畑:「最高にハッピーじゃん!」みたいな感じには確かに違和感あるよね。めでたいことは確かなんだけど、一気にコメントとかが押し寄せると「ウッ」ってなる。
家族ってなんだろう?
櫨畑:私は、ひかりさんを産んだことによって劇的に変わったなと思う感覚があって、それは今までの「家族」が「旧家族」になったこと。
かとう:旧家族?
櫨畑:ようは、優先順位が一気に変わった。ひかりさんという存在が「新家族」としてアップデートされて、もといた家族は「旧家族」になった。それは実家も同じで、私の父親はいまや私よりもひかりさんの方が優先度が高い。
かとう:子どもを産みたいという話はずっと聞いていたけど、櫨畑さんの考えている家族の中に「夫」って存在しているのかなというのは気になっていて。
櫨畑:それをいうと、まずひかりさんが中心にいて、それをサポートする私という存在があって、そこまでが家族かな。そこからどんどん外側に(関係者が)派生していくんだけど、周りにいるのは近所の友達みたいなイメージ。かとうさんはいまの夫のようなものと「家族」という関係性だと思っている?
かとう:それが、まず相手がそう思っていないようで。今回の展示で写真を載せるかという話になった時も、「僕は家族って思えないんだ」と。たしかに妻のようなものと夫のようなものだとは思っているけど、家族っていうのはもう少し唯一無二的な関係性のように捉えているらしくて。そう言われると、他の人ともお付き合いしているような中で、私たちってそこまで強いパートナーシップは築けていないのかな、って思うんです。
櫨畑:夫のようなものは家族になりたいとは思っているの?
かとう:それは思っているようです。ただ、いまの状態は違う、と。私は正直家族というものに興味がなくて、仲がいい人がたくさんいたらいいなという認識なので、今後二人がどういう風になっていくかはわからないですね。
肩書きによって、演劇めいたものが始まる気がする…
櫨畑:その「曖昧なままでいたい」という感覚は私ももっていて、さっきは旧家族といった言葉でくくってしまったけれど、一方で、この人は家族でこの人は家族ではない、みたいなのものは明確には分けづらいし、分けたくもないなという気持ちもある。
佐々木:結婚するにしてもしないにしても、肩書き的な名前をつけられることにすごく抵抗があって。櫨畑さんが「母親」ではなくて「ひかりさんを産んだ人」って自称するのもすごくいいなと思っていて。私も「恋人」とか「妻」とか、仕事だったら「ライター」とか、そういう肩書きで呼ばれたくない。「文章を書く人」みたいな役割で呼ばれたい。「家族」とか「結婚」とか、概念がまちまちでみんなの価値観が違う中でそういう言葉を使われると、なんだかラベルをべったりと貼られた感じがあって気持ち悪いなと思ってしまうんです。
櫨畑:肩書きによって、何か演劇めいたものが始まる雰囲気もあるよね。「お母さん」とか「お父さん」って言葉を使われたとたん、いきなり台本渡されて演じなさいと言われている感じ。私はあくまで「櫨畑敦子」なんだけど、いきなり「妻」や「お母さん」みたいな役割の名前で呼ばれ始めてしまうと、おままごとが始まってしまう。契約結婚をしていた時期に一番イヤだったのは、相手の苗字に合わせて「◯◯の妻」って呼ばれるようになったこと。「の」っていう部分が気になってしまって。私は誰かの付属品になりたいわけじゃなかったから。
(後編は8月2日公開予定です)
■かぞく展について
非法律婚、夫婦別姓。非婚出産、特別養子縁組、シェアハウス子育て、LGBT子育て、ポリアモリー(複数性愛)、共同保育、さまざまな人々の暮らしをみながら、新しい、我慢しない「かぞく」を一緒に考える「かぞくって、なんだろう?展」。日本のちょっとめずらしい「かぞく写真」の展示や、そこにうつるかぞくの「系譜図」や「年表」、「思い出の品」が展示されたほか、ぴあフィルムフェスティバル受賞作品のドキュメンタリー映画『沈没家族』(加納土監督)の上映などが行われました。
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情報元リンク: ウートピ
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