ほんの半年前、自由に旅に出られない未来を誰が予想したでしょうか。新型コロナウイルス感染拡大の影響で、海外はもちろん、都道府県外への移動もはばかられる今夏。同じ脅威と闘いながらも、世界がとても遠くなってしまいました。「旅に出たくなる映画」で、近くの映画館から、遠くを眺めてみませんか?
世界遺産の避暑地が舞台『ポルトガル、夏の終わり』
こんな美しい場所で、自分の生き方に思いを巡らせることができたら、人生が一変しそう……。『ポルトガル、夏の終わり』(アイラ・サックス監督)は、ユネスコの世界遺産にも登録されているポルトガルの避暑地・シントラを舞台に繰り広げられるある家族のドラマです。
自らの死期を悟り、シントラで最後の夏を過ごす大女優フランキー(イザベル・ユペール)。家族や友人たちを呼び寄せ、大事な人たちの人生に彼女なりの“演出”を施して去りたいという、密(ひそ)かな企(たくら)みを実行します。
緑に囲まれた宮殿跡、アダムがイヴを誘惑した地と言われる海岸、小ぶりの焼き菓子が並ぶベーカリー……何も知らされずに集められた登場人物たちにとって、長閑(のどか)なシントラで過ごした時間が、人生の大きな転機につながっていく。そんな「リセット旅」への渇望がかきたてられるエンディングが秀逸!
■『ポルトガル、夏の終わり』
8月14日(金)公開 配給:ギャガ
https://gaga.ne.jp/portugal/
© 2018 SBS PRODUCTIONS / O SOM E A FÚRIA © 2018 Photo Guy Ferrandis / SBS Productions
雨のNYに映える危なっかしい“若さ”『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』
『アニー・ホール』『カフェ・ソサエティ』など数々の作品で、ニューヨークの表情をカメラに収めてきたウディ・アレン監督。公開中の『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』は、ティモシー・シャラメ&エル・ファニングという、映画界で今最も美しい2人(個人の意見でございます)が演じる大学生カップルのすれ違いを描いたラブコメディです。
メトロポリタン美術館、セントラル・パーク、高級住宅街のアッパー・イーストサイドなど、NYの観光名所がいくつも登場します。洗練された大都会のイメージが張り付いたこれらの名所を、恋や憧れに呑(の)まれた危なっかしい大学生が巡る。その浮足立った感覚に不思議と共感してしまい、一緒にNYを冒険している気持ちになれる1本です。
新型コロナウィルスの大流行で、大きく様変わりしてしまった世界。特に多数の感染者を出したニューヨークの惨状は、一時期、連日ニュースで伝えられていました。再び旅できる日を夢見ながら楽しみたい作品でもあります。
■『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』
公開中 配給:ロングライド
https://longride.jp/rdiny/
©︎2019 Gravier Productions, Inc.
コロナ禍前夜の武漢で撮影『鵞鳥湖の夜』
新型コロナウィルスの影響で様変わりした街と言えば、真っ先に思い浮かぶのは中国の武漢かもしれません。
武漢市は長江流域に位置する、兵庫県と同じくらいの面積がある大都市で、ハイテク産業が強いことでも有名です。街の中心を流れる長江や点在する湖など面積の4分の1を水面が占める水の街でもあり、春になれば武漢大学に日本ゆかりの1000本の桜が咲き誇ります。
中国映画『鵞鳥(がちょう)湖の夜』(ディアオ・イーナン監督)は、ノワールフィルム×武侠映画といった趣きのサスペンス。「旅に出たくなる映画」と言われるとピンとこないかもしれませんが、ロケが行われた場所は、コロナ禍の前のそんな武漢の街でした。
主人公は、もめ事に巻き込まれて警官を射殺した裏社会の男。懸賞金をかけられ、じりじり追い詰められていく男が、大都市の裾に広がる路地裏を疾走します。
市井の人々の活気、避暑地の湖で客をとる女の不思議な魅力。若い頃にバックパックを背負ってアジアを歩いた経験のある人には、たまらない猥雑さ。こんな世界は、二度と経験できないかもしれない。スクリーンの向こうの世界が果てしなく遠く感じる、そんな2020年の残暑です。
■『鵞鳥湖(がちょうこ)の夜』
9月25日(金)公開 配給:ブロードメディア・スタジオ
http://wildgoose-movie.com/
©2019 HE LI CHEN GUANG INTERNATIONAL CULTURE MEDIA CO.,LTD.,GREEN RAY FILMS(SHANGHAI)CO.,LTD.,
(新田理恵)
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情報元リンク: ウートピ
今年は映画館で世界を満喫! 旅に出たくなる映画【洋画編】