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平成最後の年の注目映画は…
新しい年を迎えるにあたり、ウートピ読者に「スカッと楽しめてカラッと明るい気持ちになれる新作映画をご紹介しよう!」……とチェックしたものの意外とないのだ。スカッとカラッと系が。
代わりに印象に残ったものはというと、差別や経済格差、不寛容など、私たちが生きる社会や日常とどこか地続きの映画。背景となる時代や国・地域は違っても、世の中のやり場のない怒りや理不尽さをすくい取った作品が、世界同時多発的に生まれている気がする。
張り切って新しいことを始めたくなる年末年始だが、あえて立ち止まって、映画で自分たちを取り巻く世の中の“気分”を見つめ直してみるのもいいのでは? 明るい話ばかりではないけれど、しなやかに逆風に立ち向かう女性たちが印象的な作品をピックアップした。
77歳にして現役!ヴィヴィアン・ウエストウッドのドキュメンタリー
77歳にして現役のファッションデザイナー、ヴィヴィアン・ウエストウッド。1970年代にパンクブームを生み出した彼女の成功までの軌跡や私生活を、アーカイブ映像や関係者らのインタビュー、密着映像などを交えてつづるドキュメンタリー『ヴィヴィアン・ウエストウッド 最強のエレガンス』が12月28日に公開された。
映画『セックス・アンド・ザ・シティ』でサラ・ジェシカ・パーカー扮する主人公のキャリーが着たウエディングドレスと言えばピンとくる読者も多いのでは?
映画では、インタビュー中に「過去の話は退屈」と言い放ち、セックス・ピストルズのジョニー・ロットンについて「過去の栄光にまだ酔っている。もういい年なのに」と一刀両断するシーンも。常に前を見据え、自分が関心を持ったことを、心のおもむくままに追求していくパワーは今も衰えない。
ファッションは自己表現だ。タレントが「政治的発言」をすると叩かれる日本の不可解さに首をかしげていた昨今、ファッションに従事する人が、世の中の出来事に対して意思表明に至るのはごく自然な流れなのだと、この映画を見て改めて認識させられた。
■映画情報
角川シネマ有楽町、新宿バルト9ほかで公開中。全国ロードショー。
配給:KADOKAWA
コピーライト:(C)Dogwoof
村上春樹の短編小説を映画化『バーニング 劇場版』
小説家の村上春樹さんの短編小説『納屋を焼く』を、韓国のイ・チャンドン監督が映画化した『バーニング 劇場版』。
肉体労働で生計を立てているジョンスは、幼なじみのヘミに再会する。2人は一度だけ肉体関係を持つが、ほどなくしてヘミはアフリカ旅行に旅立つ。帰国したヘミの横には、ベンという洗練された雰囲気の男がいた。働いているようには見えないのに高級マンションに住み、外車を乗り回すベン。ヘミの恋人のように見えるが、どうも彼女を大事に思っているようではない。貧しく家庭環境にも恵まれないジョンスにとって気になって仕方がない存在だったベンだが、あるとき彼は「時々、ビニールハウスを焼くんです」と、不思議な趣味を打ち明ける。
30ページ程度の原作の枠組みに、現在の韓国に広がる経済格差や若者たちの閉塞感、ミステリーの要素をこれでもかと入れ込み、まったくオリジナルの作品として成立させた意欲作。生まれながらにして持つ者と、持たざる者、虚しい者と、満たされない者。やり場のない嫉妬や憎しみが募り、やがて爆発する。
1982年に書かれた原作では、あくまで話の中心は男2人だったが、この映画ではヒロインの存在が物語を支配しているところに時代を感じる。一見、お金もなく、ものも知らず、誰にでも体を許すような女の子に見えて(少なくとも男たちはそう見ている)、実は男2人よりずっと、自分にないものを受け入れて、健やかに自分の人生を生きているのが今っぽい。2月1日公開。
■映画情報
公開表記 :2 月 1 日(金)TOHO シネマズ シャンテほか全国ロードショー
クレジット:(C)2018 PinehouseFilm Co., Ltd. All Rights Reserved
女3人の駆け引きに釘付け!『女王陛下のお気に入り』
第75回ベネチア国際映画祭で金獅子賞と女優賞のダブル受賞を果たした『女王陛下のお気に入り』(ヨルゴス・ランティモス監督)。
舞台は18世紀初頭、フランスと交戦中のイングランド。病身で情緒不安定な女王アンの治世であったが、実際は幼なじみのレディ・サラが女王を動かし、国の意思決定に大きな影響力を持っていた。そんな宮廷に、サラの従妹だというアビゲイルがやってくる。没落貴族の娘だという彼女は召使いとして働き始めるが、やがてサラやアンに気に入られ、上流貴族へ返り咲くという野心を膨らませていく……。
愛憎入り乱れた女3人の駆け引きが本作の魅力だが、見ているうちに「女は同性に何を求めているの?」というクエスチョンが頭の中をぐるぐる回る。
アビゲイルを演じるのは『ラ・ラ・ランド』で注目を集めたエマ・ストーン。今回も人たらし的な魅力のあるアビゲイルを見事に演じきっている。一方、権力を思いのままにするサラは憎まれ役として登場するのだが、アンのことを知り尽くし、主君にもまわりの男たちにも、媚びず、おだてず、国を操ってきた経験と手腕はダテではないことが分かってくる。
小賢しくアンの寵愛を得ていくアビゲイルが決して幸せな人生を歩まないのに対し、サラは生涯にわたり政治的影響力を持ち、富にも恵まれる。小手先の技を弄してもメッキははがれるのね……。ドロドロの宮廷劇に、思わぬ教訓が隠れていた作品だった。2月15日公開。
■映画情報
公開日:2月15日(金)
クレジット:(C)2018 Twentieth Century Fox
差別や偏見に立ち向かう若い2人を描く『ビール・ストリートの恋人たち』
2017年米アカデミー賞で、『ラ・ラ・ランド』を抑えて作品賞に輝いた『ムーンライト』のバリー・ジェンキンス監督最新作と言えば「見たい!」と興味をそそられる人も多いのでは?
1970年代のニューヨーク。19歳のティッシュは、幼い頃から共に育ち、穏やかに愛を育んできたファニーとの間に子どもを宿す。しかし、ファニーは些細なことで白人警官の怒りを買い、無実の強姦罪で投獄されてしまう。ティッシュとその家族は何とか彼を救い出そうとするが……。米国の黒人文学を代表する作家ジェイムズ・ボールドウィンが70年代に書いた原作を映画化した。
地道に生きていれば、次の世代はきっとよい暮らしができるーーそう信じて差別に耐えてきたけれど、行動しなければ何も変わらなかった黒人たちの歴史。原作は70年代に書かれたものだが、米国を取り巻く環境は今もそれほど変わっていないのでは? 人種や国籍、“異なる者”への偏見は、世界的にもなくなっていないし、日本で日々報じられるニュースにも偏見や差別の芽を感じることがある。
理不尽な差別が当然のようにまかり通った時代に、運命に翻弄されながらも愛を貫いた若い2人と、それを支える家族の姿がまぶしく、作り手の静かな闘志が反映されているように見える。文学的な言葉の数々と、ちょっとアジア映画的な情緒のある映像美も見どころ。2月22日公開。
■映画情報
公開表記:2月22日(金)、TOHOシネマズ シャンテほか全国公開
クレジット:(c)2018 ANNAPURNA PICTURES, LLC. All Rights Reserved.
配給:ロングライド
(映画ライター・新田理恵)
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情報元リンク: ウートピ
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