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大豆田とわ子と、彼女が選ばなかったほうの未来【波多野友子】

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「ウートピ」再オープンを記念して、これまでウートピで連載や執筆をお願いした方々にメッセージをいただきました。今回は、ライター・エディターの波多野友子さんに寄稿いただきました。

一度、人生がすべて終わった

人生のどん底を味わったことがある。妊娠中に持病のパニック発作が悪化し、日常生活を送ることができなくなってしまった。そのまま文字通り寝たきりになり、出産まで3カ月ほど入院した挙句、全身麻酔の帝王切開で出産した。産後もしばらくは杖をつきながらギリギリで歩行し、満身創痍で子どもの世話をした。

しかし本当の地獄はそのあとやってきた。育児ノイローゼ(どうやら男性も罹るらしい)に陥った夫がこっそりと不動産屋に通い、引っ越し屋を手配して、私と赤子を残して行方をくらましたのだ。もちろん同意でもなんでもなく。夫のあとをつけ不動産屋に突入し、必死に引き留めようと縋(すが)りついたりもしたが、結局は出ていくのをやめさせることはできなかった。こうして一度、わたしの人生がすべて終わった。(実際には終わらずに、親族を頼りながらなんとか子育てをしたのだが)

しかし、「災い転じて福となす」である。出産を機に一度途絶えていたライターとしてのキャリアが、この不幸を機にまたスタートしたのである。徐々にふっきれた私は、子どもを親に見てもらいつつ、積極的にさまざまな場所へ顔を出し、みずからの置かれた状況を面白おかしく話せるようになっていた。もはや「すべらない話」である。するといろいろな人たちが気にかけてくれるようになり、経験したことのない場所へと私を連れていってくれたのだ。思いがけない大手媒体での仕事、著名人との飲み会、複数のオンラインサロンでの新しい出会いと刺激的な毎日……。おそらく、私史上最高潮に浮かれていたと思う。

しかし、そんな不幸バブルも長くは続かない。2年ほど経った頃、夫から「子どもが3歳になるのを機に家に戻りたい」と身勝手な申し出があったのだ。ただ、正直私のほうも、「父親のいない子育てが、果たしてメンタルの不安定な私にこれからも可能なのか?」という不安が常に心に影を落としていたため、葛藤しながらも、徐々に夫の帰還を受け入れる方向へと話は進んで行った。

大豆田とわ子と「じゃないほうの未来」

そんな折、日頃お世話になっていたウートピさんから、坂元裕二脚本のドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫」のファン座談会登壇の打診をいただいた。2021年の初夏だった。坂元作品の大ファンである私にとっては、願ってもないご相談。お二人の登壇者とともに、「まめ夫」談義に嬉々として花を咲かせたのをよく覚えている。

松たか子演じる大豆田とわ子という女性は3回離婚しており、その夫を演じているのが松田龍平・角田晃広(東京03)、岡田将生という豪華な顔ぶれだ。離婚後もなんやかんやと理由をつけて彼らはとわ子の家を訪れ、生活のまわりをうろちょろし、小さな波風を立て続ける。ドタバタ劇の中にも夫婦関係の難しさ・切なさを鮮烈に斬っていく坂元節がところどころで炸裂し、結婚に傷ついてズタボロになったことのある私たちの琴線に触れまくりだったため、座談会は大いに盛り上がりを見せた。

当時の状況といえば、少しずつ家に戻る準備を始めていた夫との関係構築に悩んでいた。当然、なんの問題もなくうまくいっていた幸せな頃には戻れるはずもない。そんな私にとって第9話、「最初の夫である松田龍平ととわ子の結婚生活がつつがなく幸せに、末永く続いていく」という架空のストーリーはひどく胸を締めつけるものだった。実際座談会でも、激しめにこのシーンの秀逸さについて語っている(改めて視聴し直してみたが、やはり問答無用に涙腺を刺激してくるシーンである)。

離別した夫婦の選ばなかったほうの未来、つまり「じゃないほうの未来」。すでに10年以上前に離婚したとわ子と龍平の妄想としてのその世界は、ひどく美しく温かいものとして描かれる。なにより、病を患った術前のとわ子を労り、「大丈夫だよ」と優しく肩を抱く龍平の姿にはグッとくるものがあった。その美しい「じゃないほうの未来」を、私はまだ選び直せる。こうして座談会後しばらくして、私はもう一度夫を受け入れる覚悟を決めたのだった。

あれから4年、私はいま「じゃないほうの未来」を生きている。正確には「無理やり軌道修正したほうの未来」なのかもしれない。この世界は、とわ子と龍平の幻想のように甘く美しくはないし、特別に温かいものではないかもしれない。この選択が正解だったかどうかわかるのには、まだまだ時間が掛かるだろう。そしてこの先の人生できっとまた、未来を選び直すような出来事が目の前に提示されるような気がするのだ。そのときに私は、一体どの未来を選び取るのだろう。45歳、人生折り返し。不惑など所詮は妄言。日々惑うことばかりである。最後になったが、「サイトが閉鎖されたままじゃないほうの未来」を掴み取り、見事に復活を果たされたウートピさんに心よりのお祝いを。

情報元リンク: ウートピ
大豆田とわ子と、彼女が選ばなかったほうの未来【波多野友子】

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