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台湾のガラスの天井は薄い?台湾と日本を分けた理由を考える…“あの頃”の日本と重ねて観る、90年代を描いた『ひとつの机、ふたつの制服』

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1990年代、日本では阪神・淡路大震災や地下鉄サリン事件が起き、社会全体に不安が漂っていた。就職氷河期を迎えた若者たちは、「努力すれば報われる」という物語が崩れていく現実の中で、自己肯定感を持ちづらい時代を生きた世代でもある。

台湾もまた、同じ時代に熾烈な学歴社会のただ中にあり、受験の失敗や家庭の経済格差が若者たちの将来を大きく左右していた。映画『ひとつの机、ふたつの制服』(ジャン・ジンシェン監督)は、そんな90年代台湾を舞台に、名門女子校の夜間部に通う少女が抱えるコンプレックスと葛藤をノスタルジックに描いた青春映画だ。

脚本を手がけたのは、自身も夜間部出身の徐慧芳(シュー・フイファン)さんと、同世代の脚本家・王麗雯(ワン・リーウェン)さん。彼女たちは映画を通じて、「劣等感をどう受け入れ、どう自分の価値を見出していくのか」を問いかける。

そして現代の台湾では、政治から映画業界まで、多くの女性がリーダーとして活躍している。厳しい時代を生き抜いた世代がいま何を見ているのか——その声に、私たち日本の“あの頃”を重ねてみたくなる。

台湾の名門女子校「北一女」を舞台に描く、制服の色が分けた“ふたつの世界”

脚本家の徐慧芳(シュー・フイファン)さん(真ん中)と王麗雯(ワン・リーウェン)さん(左)、ジャン・ジンシェン監督(右)

1997 年台北。受験に失敗し、強引な⺟の勧めにより名⾨⼥⼦校「第⼀⼥⼦⾼校」の“夜間部”に進学した⼩愛(シャオアイ)。同じ教室で同じ机を使うことになった全⽇制の成績優秀な⽣徒、敏敏(ミンミン)と、⼩愛は机に⼿紙を⼊れるやりとりから “机友(きゆう)”=デスクメイトになる。夜間と全⽇制。制服は同じでも、胸の刺繍の⾊が違う。ある⽇、⼩愛は敏敏から学校をサボるために制服を交換することを提案され、次第に、⼩愛が敏敏からもらった全⽇制の制服を来てふたりで遊びに⾏くようになるなど⾏動がエスカレート。やがてふたりは同じ男⼦校⽣を想っていることに気づき……。

――この作品は名門女子校(実在する台北市⽴第⼀⼥⼦⾼級中学、通称「北一女」がモデル)の夜間部に通う主人公の小愛(シャオアイ)が、勉強や恋愛にコンプレックスを抱えて葛藤する姿を描いています。徐さんご自身が夜間部に通っていた実体験を元にしているそうですが、やはり小愛のようにコンプレックスや自信喪失に悩んだ経験が?

徐慧芳(シュー・フイファン/以下、徐):あります。本当に特別な経験でした。夜間部の制服は、全日制とシャツの胸のところの刺繍の色が違う以外は同じだったので、校外の人は私が夜間部の生徒かどうかなんて分かりません。全日制の生徒だと思われて、たとえばケーキ屋さんに行くと「すごく勉強ができるのね。頑張ってね」とオマケしてもらえたりするのです。始めは説明していましたが、そのうち面倒になり、作り笑いでごまかすようになりました。全日制の生徒を装って優越感にひたっては、すぐ現実に引き戻されて“私は偽者”と思い知らされるのです。

そんな当時のアイデンティティの混乱が、この映画の脚本を書くきっかけになりました。その影響は、社会に出たあとも引きずっていたと思います。

――徐さんが夜間部に通ったのも、小愛と同様、高校受験に失敗したからだったのですか?

徐:そうです。そこで北一女に勤めていた親戚が、夜間部を勧めてくれたのです。進学率もいいし、先生は全日制と同じ。全日制の生徒と同じ校舎で学べて、優秀な彼女たちが夜遅くまで勉強している姿を見ると刺激を受けると。実際そのとおりで、夜間部の授業が夜9時に終わったあとも、全日制の生徒たちが残って勉強している教室の明かりが見えました。そんな環境でしたので、夜間部の生徒も成績はよかったですね。

映画の中では夜間部と全日制の生徒が衝突しますが、あれはデフォルメしていて、実際はそんなことは滅多になかったです。私も授業をサボることはありましたが、小愛のようにハメを外して遊びに行くようなことはなく、せいぜい体育を休んで図書館に駆け込んだ程度でした。

――王麗雯さんにお聞きします。徐さんとは以前からお友達だったそうですね。徐さんの脚本のどんなところに共感して協力を決めたのですか?

王麗雯(ワン・リーウェン/以下、王):まず、私も徐さんと同世代で女子校出身だったので、脚本に書かれた学校生活や小愛の完璧ではないキャラクターに共感しました。完璧な人たちに囲まれた不完全な彼女が、大多数の観客の気持ちと重なると思ったのです。

私も女子校時代、成績が悪くて、小愛たちのように塾に通っていました。3年間、数学の塾に通いましたが、目的は話が面白い先生のジョークを聞くことと、男子生徒を見ることで、楽しい時間だった思い出があります。頑張って勉強もしましたが、やっぱり数学はいい点が取れなくて、そんな無力感も徐さんの脚本にはよく書かれていたと思います。映画化するにあたっては、そんな共感を呼びそうな部分を、私がより前面に押し出したという感じです。

台湾映画『ひとつの机、ふたつの制服』場面写真

Renaissance Films Limited ©️2024 All Rights Reserved.

結果を出しても「あれ…まだ傷ついてる」と気づく瞬間

――これは私の実体験ですが、高校、大学時代の失敗や挫折というのは、社会に出たあとも長く自分に影響していると感じます。懸命に働いているのは、人から認められたいがためではないか? と感じる時が多々あるのです。

徐:本当にそうだと思います。以前は気づいていなかったのですが、若い頃に負った傷はずっと残っているのです。私は高校受験では失敗しましたが、そのあと努力して、大学受験ではトップ校とまでは言えないものの、いい国立大学に合格し、その後は国立の研究所で学びました。

社会に出たあとは振り返ることもなかったのですが、高校時代の経験を語りだすと、「あれ……まだ傷ついてる」と気がつくのです。いい大学で学び、一生懸命に仕事をして結果を出しても、まだ足りないのかと思います。どこまで頑張れば“偽者”ではないと証明できるのかと。中年になった今でも、心の中に2人の私がいて、1人は「あのときの失敗はあなたのせいじゃない。自分を責めるな」と慰めてくれる。もう1人は15、16歳の自分で、まだあの場所で受験に失敗したことを悔いているのです。

台湾映画『ひとつの机、ふたつの制服』場面写真

Renaissance Films Limited ©️2024 All Rights Reserved.

「学歴重視じゃないアジアの国なんてある?」

――映画の舞台は1990年代後半で、台湾が熾烈な学歴社会だったことがよく伝わってきました。現在は当時ほどではないのでしょうか?

徐:学歴重視じゃないアジアの国なんてありますか(笑)?  私の娘は来年高校受験なのですが、私たちの時代と変わりません。今は成績が悪くても叩かれなくなったので、自尊心が守られているという面では、随分改善されたと思います。私たちの時代のプレッシャーを100%だったとすると、80%くらいまで軽減された感じでしょうか。

王:最近の若者や子供たちを見ていて気がついたのは、ガラスのハートを持った子が増えたということ。失敗を受け入れられない気持ちが強いと感じます。FacebookやInstagramでの評価が子供たちにはとても大事で、間違いを犯すことを怖がるし、批判されるのはもっと耐えがたいと感じるようです。もちろん私たちにも同じような気持ちはありましたが、SNSがなかった分、守られていたのかなと思います。

「見下しの連鎖」は続く?

――私もお二人と同じ40代なのですが、私が高校、大学を受験した頃の日本は就職氷河期で、社会に出ても非正規雇用で働いてきた人が多く、安定した仕事や結婚を諦めたという人も多いのが特徴です。周りにも、自分の責任ではなくても、自己肯定感が低く、どこかコンプレックスを抱いている人が多いと感じます。コンプレックスや挫折の乗り越え方について、お考えがあればシェアしてください。

王:この映画に重ね合わせて言うと、経済的に苦しい中で2人の娘を育てている小愛の母親の姿が、ある種の台湾女性の強さを体現している気がします。フライドチキンを食べたあとの残った骨でスープを作るシーンがありましたよね。たとえお金がなくても使える物をしっかり使うし、絶対にくじけない。困難な状況でも幸せに生きていける方法を考えて、自分の力ではい上がろうとする。そんな母親の姿に、観客も励まされると思います。

私自身を振り返ると、やはり人と比べて落ち込んだり、自分のキャリアは成功と言えるのかと、気にしたりしてしまいます。幸い私は夫が映画監督で(本作の荘景燊(ジュアン・ジンシェン)監督)同業者なので、経験してきたことも似ていますし、クリエイティブや仕事の部分でも励まし合えるので幸運だったと思います。

徐:この映画の脚本を書いた時、伝えたいテーマは何かと考えました。「見下しの連鎖」というものがあります。食物連鎖のように、誰かに見下され、自分もどこかで自分より劣ると思っている人を見下している階級のようなものです。台湾では制服やランク付けを廃止して“名門校”という存在をなくしてしまおうといった議論もありますが、人間の社会では不可能でしょう。仲間より抜きん出ていたいのは、人間の生まれ持った性質だと思うからです。

コンプレックスや挫折をどう乗り越えるかという問題については、“足るを知る”という言葉のとおりだなと思いますね。若い頃は、人からそう言われても何の慰めにもならないと思っていましたが、今も元気に生きているし、路頭に迷ってもいません。自分の努力と、数々の幸運と、多くの人の善意のおかげで今の私がある。もう十分恵まれていますし、自分の長所や持っているものに目を向けるのが一番かなと思います。若い読者には響かないかもしれませんが、中年になると分かります(笑)

台湾映画『ひとつの机、ふたつの制服』場面写真

Renaissance Films Limited ©️2024 All Rights Reserved.

日本より薄い?台湾の「ガラスの天井」

――台湾に取材に行くと、企業や組織に女性の管理職が多いことに気がつきます。映画業界でも女性プロデューサーや監督が日本より多い。台湾は女性にとって活躍しやすい社会だと思いますか?

王:確かに自分の周りを見渡しても、女性の先輩や友人はみんな仕事をしていますし、稼ぎをすべて夫に頼っているという人はいませんね。私がよく知る映画業界の話をすると、女性のプロデューサーや監督の中には脚本家からスタートする人もいます。

実は、脚本家には女性が多いのです。台湾の脚本家協会(編劇學會)で統計を取ったところ、約7割が女性でした。執筆は在宅でできますし、女性が就きやすい仕事だったのかもしれません。また、台湾ではさまざまな形で映画業界を支援する政府の政策や補助があり、女性脚本家もそのような支援を受けてキャリアを重ね、監督に転身するケースもあります。そうして、さらに経験や人脈を蓄積すればプロデューサーにもなれるという背景がある。また、台湾の女性が得意な、横のつながりを大事にするコミュニケーション力の高さも、仕事を円滑に進めるという意味で映画業界では大事な素質です。

徐:日本好きでよく旅行に行く母親から、日本では子供をシッターさんや保育所に預けず、母親自身が世話をすることが望ましいとされていると聞いて驚いたのですが、本当ですか?

――やむを得ず女性のワンオペ育児になっている家庭は多いですし、日本にはシッターさんに預けるという習慣がそもそもありません。

徐:台湾にはシッターさんが多いので、子供を産んだらすぐ仕事に復帰することができますし、外食やテイクアウトの文化が普及しているので、家事のストレスも少ないと言えます。アジアの他の国に比べると多少、女性が仕事で直面するガラスの天井は厚くないのかもしれません。だって、台湾は女性が総統になりましたからね。今の副総統(蕭美琴氏)も女性です。

――日本では、男社会で生き抜いてきた女性トップの中に、男性以上に男性社会の権化のようになっている人が時々います。台湾ではいかがでしょうか?

徐:台湾にもいることはいますが、前総統の蔡英文氏を見てください。強くて信念を持った人ですが、話し方や態度はとても柔和で、大声で人を圧倒したりしませんでした。とはいえ、台湾でもトップに上り詰めている女性を見ると、独身で子供を持たない人が多いかもしれませんね。さもなければ裕福な家庭の出身で実家の支援を受けているか。女性を取り巻く苦境は普遍的なものだと思います。

(映画ライター:新田理恵)

■映画情報

『ひとつの机、ふたつの制服』
10月31日(金)より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開!
配給:ムヴィオラ、マクザム
Renaissance Films Limited © 2024 All Rights Reserved.

情報元リンク: ウートピ
台湾のガラスの天井は薄い?台湾と日本を分けた理由を考える…“あの頃”の日本と重ねて観る、90年代を描いた『ひとつの机、ふたつの制服』

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