2024年の第77回カンヌ国際映画祭〈ある視点〉部門でオープニング作品として上映された映画『突然、君がいなくなって』が6月20日に公開される。アイスランドの首都・レイキャビクを舞台に大切な人の喪失をテーマに描いたルーナ・ルーナソン監督に話を聞いた。
「これはリアルだ」と感じる瞬間
<ストーリー>
美大生ウナには、大切な恋人ディッディがいる。しかし、2人の関係は秘密だ。彼には遠距離恋愛をしている長年の恋人、クララがいる。ある日ディッディはクララに別れを告げに行くと家を出た後、事故に巻き込まれ帰らぬ人となってしまう。誰にも真実を語ることができないまま、ひとり愛する人を失った悲しみを抱えるウナの前に、何も知らないクララが現れる……というストーリー。
──今回の映画についてですが、まず、制作のきっかけについてお聞かせいただけますか? 脚本もご自身で手がけていらっしゃいますよね。
ルーナ・ルーナソン監督(以下、ルーナソン):私の作品はすべて、自分自身や身近な人々の体験がもとになっています。そこにフィクションの要素を加えて、物語を形づくっているんです。つまり、自分の人生とどう向き合うか、あるいは周囲の人々の生き方を自分がどう解釈するか、そういったところから制作は始まっていきます。
さらに、映画というのは単なるストーリーだけで成り立っているのではなく、それ以上に大きなものを目指すべきだと考えています。映画は「物語」「映像」「音」という3つの要素を通して、感情を伝えることができます。これは映画ならではの特性だと思います。
ストーリーを語る手法にはさまざまな形式がありますが、映画ではその3つの異なるフォーマットを選び、組み合わせることで、より深く感情に訴えることができる。
たとえば、舞台を想像してみてください。煙や照明、実際に演じる俳優がいることなど、リアルな要素を使って感情を伝えますよね。映画も同じように、すべての要素がうまく融合すると、「これは本当に現実の人生を見ているのかもしれない」と観客が感じる瞬間が生まれるんです。
だからこそ、アーティストにとっては、技術と物語、どちらも同じくらい重要だと私は考えています。そして映画の素晴らしい点は、それらの要素を取捨選択しながら、効果的に使うことができるということ。「どんな音を届けたいのか」「どんな映像が必要か」といった議論をしながら、それを選び取っていくことができるんです。
そうして生まれた作品が、観客にとって、自分自身と向き合うきっかけや、何かを乗り越える助けになるのであれば、それはとても意味のあることだと思っています。
──映画作りで特に大事にしていることを教えてください。
ルーナソン:映画というものには、本当に強く惹かれるところがあります。自分がフィルムメーカーとして歩んできた道のりを振り返ったとき、途中で気づいたことがあるんです。それは、「まず自分自身が理解できる鏡でなければいけない」ということでした。
そして、観客の方々には、その鏡のすべてを見せる必要はないにしても、その破片、いくつかの断片に自分自身を重ねたり、「これは自分のことだ」とか、「何か通じるものがある」と感じてもらえたらいいな、と思いながら作品を作っています。つまり、自分の中にあるものを、見てほしいという気持ちがあるんです。
──今回の作品は、大切な人を失うというテーマが描かれていますが、それをあえて“ティーン”の世代に経験させた理由についてお聞かせいただけますか? 「おじいちゃんやおばあちゃん以外の人が亡くなるのは初めて」という印象的なセリフもありましたよね。その辺りについて、ぜひ伺いたいです。
ルーナソン:今回の作品では、「違った形での喪失」が描かれています。誰しも人生の中で喪失を経験するものですが、「この年齢で経験する」ということには、特別な意味があると考えています。
人生では、早かれ遅かれ誰かの死を経験しますが、ティーンの時期にそれを迎えるというのは、イノセンス(無垢)を失うきっかけにもなり得る。自分の命が有限であること、つまり「死」という現実=モータリティに向き合わざるを得なくなる。
ちょうど子どもではなく、大人でもない中間の時期――未来が無限に広がっているように感じているその瞬間に、突然、自分が乗り越えられない「壁」が現れるんです。
そして、そうした現実を通して、「自分ひとりでは越えられないことがあるんだ」と気づく。でも、もしかしたらこの映画が示唆しているように、「誰かと一緒に気持ちを重ねながら乗り越える」ことはできるのではないか。そんなふうに感じてもらえたら、希望につながるのではないかと思っています。

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情報元リンク: ウートピ
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