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上野千鶴子の祝辞と「なぜ今、RBGなのか?」
「あなたたちはがんばれば報われる、と思ってここまで来たはずです」「がんばっても公正に報われない社会があなたたちを待っています」「男性の価値と成績のよさは一致しているのに、女性の価値と成績のよさとのあいだには、ねじれがある」(一部抜粋)——東京大学の入学式で、上野千鶴子・同大名誉教授が贈った祝辞が話題になっている。
平成も終わりに近づいている今もなお、男女格差の問題がメディアで取り上げられない日はない。いや、平成の終わりになってやっと、これまで隠蔽、もしくはないことにされてきた“不都合な真実”が次々と表面化し、人々が口にし始めたと言ってもいいのかもしれない。
これらのニュースに接すると「日本に女性として生まれたことが不運だったのか……」と嘆きたくなるが、女性は仕事も選べずクレジットカードも自分の名前で作れなかった50年前のアメリカで、“男女平等”裁判を起こし、のちにアメリカ合衆国史上、女性として2人目の最高裁判所判事となって今も現役で活躍している女性弁護士がいる、と言ったら勇気がわいてこないだろうか。
ルース・ベイター・ギンズバーグ。全米の若者に支持を得ている86才のスーパーおばあちゃんだ。
今春、立て続けにルースが主役の映画が公開される。彼女の若かりし日を中心に、男女差別は違憲であると訴えた裁判の行方を描いた劇映画『ビリーブ未来への大逆転』(ミミ・レダー監督、公開中)と、今なおパワフルに活動を続けるルースの素顔を収めたドキュメンタリー映画『RBG 最強の85才』(ベッツィ・ウェスト、ジュリー・コーエン監督、5月10日公開)の2本だ。
なぜ今、ルース・ベイター・ギンズバーグなのか? 「#Me Too」運動の先駆者ともいえる彼女の映画が公開される意味について考えた。
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たった50年前、「女」だから弁護士になれなかった
地味な法服に華やかな付け襟を合わせ、黒縁メガネをかけたスタイルが法廷でのルース・ギンズバーグの定番。“RBG”の愛称で親しまれ、メガネと付け襟、2つのアイテムをデザインしたグッズが売られるなど、米国ではポップ・アイコン化されるほどの人気ぶりだ
ルースは1933年、米ニューヨーク・ブルックリンの貧しいユダヤ人家庭に生まれた。まだ女性の教育が軽視されていた1950年に、周囲の反対を押し切ってコーネル大学に入学。さらに、1956年、名門ハーバード法科大学院に進学する。当時、新入生500人のうち、女性はルースを含めてたった9人で女子トイレすらなかった。
「男子の席を奪ってまで入学した理由を話してくれ」
女子学生歓迎会の席で学部長からそう問われて言葉を失うルース。このシーンは60年前の米国だが、昨年、日本で相次いで明らかになった医学部入試での女性差別にもかぶる。
同じハーバード法科大学院で学ぶマーティンと学生結婚していたルースは、一足先に卒業してニューヨークの弁護士事務所へ就職を決めたマーティンと一緒に暮らすため、コロンビア大学法科大学院に移籍。トップの成績で卒業するが、「女性」「母親」「ユダヤ系」であるという理由で13社連続で弁護士事務所の入社試験に落ちる。仕方なくルースは大学で教鞭をとるようになり、女性差別を訴える裁判に関わっていく。
男性も「男らしくあれ」の縛りに苦しんでいる
後に最高裁判事にまで上りつめるルースの転機となったのが、マーティンがルースに親の介護費用控除が認められなかった男性の事例を見せたことだった。法律は親を介護するのは女性の役割だと決めつけ、控除を申請できるのは女性だけと定めていた。
「もし、この法律を憲法違反だと認めさせられれば“男女平等”への第一歩となる」と気づいたルースは、男性の弁護を無償で買って出る。
社会が、法律が押し付ける「男女の役割」「普通」に苦しんでいたのは、女性だけではない。男性も「男らしくあれ」「介護は男性の仕事ではない」という社会や法律が押し付ける“ものさし”に苦しんでいたのだ。
仕事も家事も「すべて2人で。お互い得意なことをする」
『ビリーブ未来への大逆転』と『RBG 最強の85才』の2本を見ると、ルースの戦いの裏には、常に夫マーティンの支えがあったことが分かる。「女性差別」の撤廃を訴えると「女vs男」の構図が出来上がりがちだが、稀代のスーパーウーマンを生んだ夫婦の形は、「仕事も家事も2人で頑張る」だった。
とにかくマーティンが、「こんな男性、どうやったら育つんですか?」と親御さんに教えを請いたいほど理想的なパートナーなのである。
「男は外で稼ぎ、女は家庭のことをする」という性別分業的考え方が当たり前だった時代に、ルースが法律の世界で働き始めると、彼女が活躍できるよう家事や子育てを引き受け、ビジネス面でも強力にサポートした。それは、マーティンが早くからルースの知性を尊敬し、彼女が取り組む仕事の意義に気づいていたから。
かといって、マーティンは“献身”や“自己犠牲”でそれを担ったわけではなく、シンプルに彼のほうが料理や家事が得意だったという。そんな生活を楽しそうに回想するマーティンのインタビュー映像が『RBG〜』に収められている。
日本の仕事を持つ妻がイラッとくる「俺も家事を手伝ってる」(by夫)発言のストレスとは無縁の、「すべて2人で。お互い得意なことをする」という、男女の役割の先入観を取り払った夫婦関係がギンズバーグ家にはできあがっていた。
『RBG 最強の85才』の中でルースは、「自分にとっての一番の幸運は夫との出会い」と語っている。繰り返すが、米国でも「男は仕事、女は家庭」が常識だった時代にである。出世していく女性を脅威とせず、心から応援できる男性は稀有な存在だった。それができたのは、マーティン自身も優秀な弁護士であり、自分に健全な自信をもった人物だったからという側面もある。
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情報元リンク: ウートピ
「男子の席を奪ってまで…」平成の終わりに86才の現役弁護士の映画が公開される意味